タクシー乗務員をしていてお酒を飲まないと眠れない。という状態となり、この本を読みました。
「長い睡眠」は本当に必要か?
に対する答えは:
「大丈夫。睡眠は必要だが、そんなに長く寝なくてもいい」。
でした。
眠ることについてはいろんな話があります。
ナポレオンは3時間しか眠らなかった。
(でも、馬に乗って移動中など居眠りをよくしていたらしい)
とか、
横になって目をつぶっているだけでも体は休まる。
とか、これまでに耳にしたけれど、拷問で眠らせないというのがあり、長く眠らないと発狂する?ということもどこかで読んだことがあるような気もします。
仕事がタクシー乗務員なので、睡眠不足になると、タクシーに乗務している時、眠くなると危険だと思うし、寝なくてはダメだと焦ると余計に眠ることができない。
同僚は睡眠導入剤を勧めるけれど、多くのタクシー乗務員が、最初はお酒を飲んで寝るけれど、次第に酒量が増えるようになり、それでは翌日にお酒が残るようになり、薬を飲むようになるけれど、それも薬を飲む量が増えていく。という話も耳にするので、「長く眠らなくても大丈夫」という言葉に魅せられて購入しました。
著者は脳神経外科医の東島威史(ひがしじま・たけふみ)氏。
脳と睡眠について多くの知識を教えていただきました。
そして、語学について、この本を読むことで、次のことを学ぶことができました。
1.「脳は不要なものを削ぎ落としながら」機能を磨いていく。
脳細胞は毎日10万個減少していくけれど、脳内には1,000億個の細胞があるのですべての細胞がなくなるのに「約2,740年」かかるということなので脳細胞が減ることを恐れる必要はない。とのこと。
そして、
減り続け、縮み続ける脳にあっても、よく使う部分の体積は増加し続ける。基本的にはヒトの場合、両側の側頭葉の奥側の部分は、大抵の人間で体積が増えていくのだ。
言語能力や論理的思考を担うこの部位は、40歳〜50歳頃まで増加を続ける。だから、中年だからといって「脳は老化の一途」とあきらめるのは間違っている。
(不夜脳。P4)
なんと心強いお言葉でしょう!
脳はちょうどパソコンやスマートフォンのように不要なものを削ぎ落とし、身軽にすることで情報処理の速度をより速く、ある程度の経験から先を予測する力や対応する力を強くすると言うのです。
そしてなんと言っても心強いのは:
よく使う部分の体積は増加し続ける。
です。
よく使う部分の脳の体積が増えることについては、『超一流になるのは才能か努力か?』で、ロンドンのタクシー運転手の研究で、「最もインパクトのあるエビデンスと言えるだろう」と紹介されています。
世界一難しい試験の合格者であるロンドンのタクシー運転手の「海馬」(空間把握や空間におけるモノの位置を記憶するのにかかわっているとされる)に注目しMRI画像を使ってタクシー運転手ではない人とを比較して、タクシー運転手の海馬後部が大きいことをつきとめたといいます。
複雑な地形をお客の目的地に最短で案内できるだけの地理知識などを記憶するために海馬後部が大きくなったということです。
また、
「脳は不要なものを削ぎ落とす」は、今井むつみ先生の『英語独習法』で次のように紹介されています。
じつは、世界中の赤ちゃんは、生まれてすぐは、すべての言語で区別される音をもれなく区別することができる(聴覚障害などがない限り)。そこから、自分の母語の音素を探索し、音素のレパートリーを作っていく。英語の場合には、r, l は異なる音素であり、この二つの音の聴き分けができないと、race/lace, rice/lice などの単語の区別がつかない。だから、英語を母語とする赤ちゃんは、(もともと区別できた)r と l の区別を保持し、さらに敏感に注意を向けることを学習する。では日本の赤ちゃんはどうだろうか?日本語には r と l の区別はない。母語で必要のない音の区別をし続けると、情報処理のリソース(認知的資源)は限られているので、その分、他の必要な情報に注意を向けることができにくくなる。つまり、母語で必要とされる音の区別は残しつつ、必要のない音を区別する能力(音への注意)は捨ててしまったほうが、母語を学習するには有利だ。だから、赤ちゃんは1歳くらいまでに、不必要な音の区別には注意を向けなくなる。母語に必要な音の区別だけを残し、音素を効率よく区別できるような情報処理のシステムを作るためである。それが「音のスキーマ」なのである。
だから大人の日本語話者は、r と l、b と v など、日本語にはない英語の音素がうまく聴き分けられないのである。自分が育つ環境の言語で単語を作る単位となる音素は、子どもが作る最初のスキーマの一つであると言ってもよいだろう。
(P132ーP133)
限りある資源を有効に、そして効果的に働かせるために不要なものを削ぎ落とす。これも大きな驚きです。
2.「外国語」を学ぶことが「認知症予防」になる。
もう一つは「疲れない脳を鍛える方法」として「外国語学習」を紹介していることです。
「眠りが足りないと、認知症になってしまう!」
「睡眠不足は認知症の原因になる」という話がありますが、著者はこれは拡大解釈だといいます。
つまり、睡眠不足の蓄積がアルツハイマー型認知症につながるのではなく、「認知症の初期症状」として睡眠障害が現れている可能性がある。因果関係が逆なのだ。
と。
そんな認知症ですが、外国語を学ぶことで認知症予防になると言います。
バイリンガルなど、第二言語野がある人には、「認知予備能」があり、これが「いざというときの代替となる神経ネットワーク」となるため、アルツハイマー型などの認知症になっても、発症自体を遅らせることができる。とのことです。
TOEIC®︎の高得点を目指す必要はない。大切なのは語学学習という「新しい刺激」を脳に与え続けることだ。
オンライン英会話でも、AIとの会話でもいい。「読める・書ける」より、とにかく「聞いて・話す」ほうを重視して取り組む。脳は新しい刺激を好むから、「多少知っている英語」よりも、「全く知らないスワヒリ語」のほうがトレーニング効果は高いだろう。
週に3回、1時間程度の軽い語学学習を3ヶ月続けるだけで、脳の構造が物理的に変化するとわかっている。
まさに本の帯にある脳の回復には、睡眠より「刺激」。なのですね。
3.鳥は「ダメな音を削除」して歌を覚える。
これは著者が学生時代に学んだことで、「ソングバード(song birds)」と呼ばれるよくさえずる鳥(鳴禽類)の実験を観察した研究のことです。
鳥がさえずっているときにある音が出た時だけ「ザザッ」と雑音を入れると鳥はそれを聞いて「(ある音だけさえずると)変な音がするな」と自分で聞いて気づく。すると微調整してその鳥はその音を抜いて歌うようになるという研究です。
鳥は次の3ステップで歌を習得するのですが、これが語学を学ぶときに参考になると思いました。
1️⃣親や周りの大人の歌を聞いて学習。
2️⃣自分でも練習してマスター。
3️⃣大人になっても自分の声を聞いて、ちゃんと歌っているか微調整。
これを語学学習者に当てはめると:
1️⃣講師やその他の音源を聞いて学習する。
2️⃣自分でも練習してマスターする。
3️⃣マスターしても自分の発音を聞いて、ちゃんと発音できているか微調整する。
語学は中国語にしても英語にしても、赤ちゃんのときに削ぎ落とした(忘却した)「音」を新たにマスターするわけですから、難しさはありますが、それが刺激となって認知症予防にもなる。
そして、「自分でも練習」する。これが重要です。
語学もレッスンや授業以外の時間も活用し、自分で練習する必要があります。そして、
マスターしても(自分ではそう思っても)自分の発音を聞いて、ちゃんと発音できているか微調整する。
この3️⃣。
特に語学の「聞いて・話す」にはこれができるかどうかが鍵だと思います。
