取調べの極意 | SC神戸中国語スクール 京都校

SC神戸中国語スクール 京都校

全くのゼロから、ビジネス会話、通訳レベルまでしっかりと学べる中国語スクール、SC神戸中国語スクールの京都校のブログです。

司法通訳に関連して、司法通訳人の問題点は色々あるのですが、私としては、目的に合わせて、場合によっては通訳をうまく活用することで誰もが不幸にならないと思うのです。

 

私のこれまでの人生でも、中国人から相談を受け、色々聞いて、そして、中国人自身が気付いていないことを教えてあげたり、見かけや眼の前の利益ではなく、長い目で見て本人のためになるように話を持っていくと、納得してくれるし、逆恨みはなく、場合によっては助け合うこともできる。

 

どうしてこんなことを考えているかというと、先日の司法通訳ワークショップは関西司法通訳養成所が主催しているのですが、この養成所の代表はもと警察官。

それも中国語ができるバイリンガル捜査官。

その代表が理想としている司法通訳(警察通訳人)は、取調官の思いを上手に中国語にして被疑者(容疑者)に伝え、被疑者(容疑者)の言葉は、文字だけではなく、ため息や、ためらいの間なども忠実に日本語にするということ。

つまり、日本語が母語である取調官の言葉を中国語に置き換え、被疑者(容疑者)の反応を含む言葉すべてを日本語に置き換える。

そう、まるで通訳を使っていないかのような取調べを理想としています。

 

でも、これってどうでしょう?

私は、これは不可能だと思うのです。

同時通訳ならこの理想に近いことができます。

でも、これは通訳を経験したことのない人、あるいは通訳を経験していてもプロフェッショナルとして通訳をしたことがない人にはわからないと思いますが、通訳とは文字の変換ではありません。

話し手の「思い」を話し手の言葉などから想像し、それを自分の中の「思い」とする。

その後、その自分の「思い」を別の言語で表現する。

それから聞き手は通訳人の言葉から通訳人が何を伝えたいのかを察する。

 

 

つまり、言葉を単純に変換しても目的は達することができません。

特に取調べとなると、取調官がどのように質問するか。

その質問に対して被疑者(容疑者)がどのように反応し、どのような言葉をどのように発するかについて細かく観察し、適切な対応をしていく。

 

これは取調べのテクニックなのですが、このテクニックは取調官と被疑者(容疑者)が同じ言葉を話し、同じ文化に所属しているときだけ有効であることに多くの方は気付いていないようです。

 

日本の取調官でも新米と、経験を積んだ取調官とでは取調べの内容がまったく違うということはわかっても、通訳を通すとどうなるかについては残念ながら想像できないようです。

 

取調べではわかりにくいでしょうから、交渉人を例に挙げて説明します。

 

日本にはいない?のかも知れませんが、アメリカには事件が発生した時、被疑者(容疑者)が人質をとったりして交渉が必要な時、専門の交渉人(ネゴシエーター)がいて、交渉事はこの交渉人が責任を持ってするらしいです。

 

ネゴシエーター [DVD] ネゴシエーター [DVD]
1,559円
Amazon

 

この交渉人の交渉を通訳を介してすることを想像していただくとよくわかると思います。

 

細かなやり取り、交渉のテクニックをすべて適切な外国語にしてみたところで、それを被疑者(容疑者)がどう受け止めるのか、また、被疑者(容疑者)に言うことが本当はどういう意味なのか、言葉が違うと文化も考え方も違うので交渉のしようがないでしょう。

 

でも、通訳なんて、「外国語がペラペラだったら誰でもできる」と思う人が多いこの世の中では、この事がなかなか理解されないようです。

そして、自分思うようにならないと「通訳が間違っている」・・・

 

商談でもそうです。

日本人同士の商談で優秀な方でも、外国人が相手なら商談方法は変わるでしょう。

これは自分が外国語をできるか(外国の文化や考え方に精通している)、あるいは通訳を使ってその外国の人との商談経験が豊富(やはりその外国の文化や考え方に精通している)でなければうまく商談を進めることができないのは誰でもわかること。

 

例えば、日本の警察官が中国人を取り調べるとする。

そして犯罪事実を自白させることが目的だったらどうするか?

事前に通訳と綿密に打ち合わせし、その言語のプロである通訳と取調べ方法について十分に打ち合わせした上で取調べを行うべきでしょう。

それをせずに「俺に言うことをそのまま訳せばいい」ということを言っていたのでは文化の違いが前面に出てきてどう仕様もない状態になるのは目に見えています。

 

ちなみに、ある中国人が社員に対して取調べのようなことをしていたのですが、素晴らしいと思ったのでご紹介します。

 

中国人Aは会社を経営している。

中国人Bは会社で働く社員ですが、よく遅刻する。

このままではダメだと思った中国人Aは中国人Bと話をします。

 

中国人A:どうして遅刻、それも何度も遅刻をするのか?

中国人B:それは今朝、雨が降っていて、バスが混雑していたから。

(もし、この中国人Aが日本人だったら、中国人Bのこの発言を聞いて頭に来るでしょう。「オレはそんなことを聞いているんじゃない!」と)

中国人A:なるほど、今朝はそうだった、では先週の月曜日の遅刻はどうだった?雨は降っていなかったけれど。

中国人B:あ、あれは家を出てから忘れ物に気付いて、それを取りに帰ったからです。

(もし、この中国人Aが日本人だったら「言い訳ばっかりしやがって!」とさらに怒ったでしょう。)

中国人A:そうだったのか、では、話を変えよう。君は会社を遅刻してはダメだということを知っているのか?

中国人B:もちろん知っている。

中国人A:それなのにどうして遅刻をするのだろうか?

中国人B:それは、色々事情があって、仕方なく遅刻している・・・

中国人A:事情があったら遅刻しても仕方ない。君はそう思っているのか?

中国人B:そうは思っていないけれど・・・

中国人A:会社としては遅刻をしてはいけないことになっている。その事はわかるね?

中国人B:はい。

中国人A:それなのに君は遅刻をしている。それも何度も。君が私ならどうしたらいい?

中国人B:遅刻はもうしないようにさせます。

中国人A:どうやって?

中国人B:何か事情があっても少々のことなら大丈夫なように早めに出勤してくるようにいいます。

中国人A:なるほど。でも、特別の事情があって遅刻しなくればならないこともあるだろう?

中国人B:そういうときには会社に連絡をするように言います。

中国人A:そういうことなのだ、これで君もわかってくれたね?

中国人B:はい。わかりました。以後、気をつけます。

 

最後の「はい。わかりました。以後、気をつけます(遅刻しないようにする)」という発言をさせるのが目的です。

この目的を達成するために中国人Aはどうやっているか?

 

中国の文化では「理屈で言い勝てばいい」というものがありますし、「負けを認めたら大変」という事情もあります。

あの大陸で生き残っていくには簡単に罪を認めるわけにはいかないのです。

ではどうするか?

とにかく「聞く」ことです。

相手の言うことをとことん聞く。

聞いて聞いて聞きまくって、相手の論理の矛盾を突くのですが、それも攻撃にはしません。

攻撃すると相手は防御しますし、場合によっては反撃もしてきます。

相手が自分で気づくように、相手の逃げ道を無くしていきます。

 

こういうことを知っていると、たとえ通訳を使っても、適切な取調べができるでしょう。

でもそれは自分のテクニックが良かったからではありません。

冷静に対処することができたからに過ぎません。

ここで最後に「やったった」とドヤ顔をするようでは相手の言うことをとことん冷静に聞くことができないでしょう。

 

ということを最近考えていたので書いてみました。

それは違うだろう!というご意見もあると思います。

コメントやメールなどでご意見を賜りたいと思います。