花魁の身請け | 古い物遊びの日々

古い物遊びの日々

日常のささやかな楽しみをつづっていこうと思います。趣味や庭の花、着物、猫など。

青海屋の平目太夫は美しく芸も上手で客に人気だった。
陶器問屋を経営する亀吉52才は、今までそんな女を見たことがなかった。
取引先に連れられて行った青海屋で、平目大夫にぞっこんになってしまった。
それからは亀吉はひとりで青海屋に通い、平目大夫を指名した。
平目大夫は金のかかる女だった。店で一番高い壺を売ってその売り上げをまるまる渡した。
それでも平目大夫は満足せず、もっとお金を出すように要求した。
亀吉は売り上げのほとんどを青海屋につぎこんだ。亀吉は花魁を身請けしようと思っていた。
店と交渉したら、感じはよかった。亀吉は気をよくしてさらに金を入れるつもりだった。
ただ、亀吉は仕事に身が入らなくなっていた。しじゅう平目大夫のことが頭から離れない。
とうぜん売り上げは落ち、店にも前ほど頻繁に通えなくなった。
しばらく店に来られないというと、平目太夫はさびしいわ、会えないのは我慢ができないといじらしいことを言う。
亀吉は太夫が自分に惚れているのだと確信した。愛しい太夫のために借金をして金を作った。
そうまでして金をつぎ込んだのに、太夫は亀吉に飽きてきたらしい。亀吉に対する態度がよそよそしくなった。
亀吉は太夫に嫉妬した。他の客に心が移っているのではないかと疑った。
平目大夫のほうは、亀吉の金が尽きてきたのに気がついて、他の客を金づるにしようと思っていた。
このまま亀吉が店に来ることがへれば、しぜんに別れることになるかもしれない。
だが、店に来た亀吉は太夫の気持ちが自分から離れているのを知った。酒を飲んで店で暴れたことで、出禁になった。
それでも亀吉は太夫をあきらめることができなかった。
下働きの女に小金をつかませて、裏口から店に忍び込んだ。亀吉の手には出刃包丁が握られている。
太夫は部屋で化粧をしていた。ふすまが空き、鏡に映ったのは亀吉だった。
逃げる暇もなく、太夫は亀吉に襲われた。亀吉は何度も太夫を刺した。
華やかな衣装が血に染まり、太夫の悲鳴がひびいた。
捕手が到着した時、亀吉は放心したように立ちつくしていた。
かつて愛した女はぼろきれのように足元に横たわっていた。