南半球に結び目
三次元球面 S3 の北半球[1]
に結び目 K1 、 南半球に結び目 K2 があるとする(共に向き付けられているとする)。K1 の一部と K2 の一部を変形して、両方の結び目が赤道のある一点の十分小さな近傍を通り、かつ赤道と交わらないようにできる。このとき、この近傍の中で結び目の向きにあわせて「紐のつなぎかえ」を行うことで K1 と K2 から一つの結び目ができる。このように、「分離されている二つの結び目から一つの結び目をつくる」操作を結び目の合成といい、できあがった結び目を K1
K2 と書く。逆に、合成 K1
K2 に対して K1、K2を因子と呼ぶ。合成は「つなぎかえる」点の選び方や、その過程での変形のしかたによらず、結び目そのものに対して決まる。結び目の合成は 連結和
、バンド和と呼ばれる操作と同等なものである。
結び目の合成は二項演算
として結合律と可換律をみたし、結び目全体の集合に可換モノイド
の構造を与える(単位元は自明な結び目
)。
二つの自明でない結び目の合成として表せない結び目を素な結び目という(ただし自明な結び目は素な結び目に含めない)。素な結び目と合成結び目は、自然数論における素数
と合成数
に対応する概念であり、結び目に対して「素分解の一意性」が成立する。つまり、
- 任意の結び目は素な結び目たちの合成として表せる。
同相であるかどうかを見るだけではどんな結び目も区別
位相幾何学では、連続写像
を用いて連続的に変形して互いに一致させることができる図形は同相
といって、一般に同じものであると考える。結び目理論も位相幾何学の理論であるから、同様な同一視を行うのであるが、しかしいかなる結び目も円周
S1 と同相であるので、同相であるかどうかを見るだけではどんな結び目も区別することはできない。そこで、与えられた結び目が、ある結び目を切ったり貼ったりすることなく連続的に変形していったものと一致するなら、もともと 2 つの結び目は同じであったと考える。これは、結び目のみならずその周辺の空間まで含めて連続的に変形できるかどうかということであって、以下のように定式化される。
2 つの結び目 K, K' に対し、S3 × [0, 1] 上の自己同相写像 H と自己同相 h: S3 → S3 の組で次の条件
結び目(絡み目)は三次元空間に浮かんでいる
結び目(絡み目)は三次元空間に浮かんでいるが、これを二次元に射影して二次元の曲線のように表現することができる(ふつうは平面に射影する)。この図式のことを射影図(しゃえいず)または投影図(とうえいず)などという。このとき、
- 結び目(絡み目)の異なる3つ以上の点が、射影面において同一の点に写されない
- 射影面において2つの成分が1点で接することがない
という条件を満たすように射影することを正則表示(せいそくひょうじ、regular presentation)という(どんな結び目や絡み目でも適当に位置をずらすことによって正則表示することができる)。正則表示された結び目の図式を正則図式といい、結び目理論においては単に射影図といえば正則なものをさすことが多い。 正則図式において、結び目(絡み目)の2箇所の成分が1点に写されているところを交点または交差点といい、奥にある線の上を手前にある線が横切るとき、その交点で奥にある線がちょっと切れているように描けば、線の前後関係を損なうことなく結び目を二次元に射影することができる。