家族が陰謀論や妄想に取りつかれてしまったので、何とか救いたいのだが、どうすれば良いのかという相談依頼があります。家族は、何とか本人を妄想から目覚めさせたいと、科学的な反論を試みるのだが、どんなに必死になって何度も説得するのに、まったく聞く耳を持たないので無駄になるらしい。陰謀論はフェイクニュースだと、説得しようとすればするほど頑なになってしまい、一切耳を貸さないばかりか騙されているのは家族なのだと、逆に説得されてしまうという。こんなにも頑固ではなかったのに、どうしてなのか不思議らしい。

 

 陰謀論に固執する理由について、まずは考察したい。陰謀論に嵌まってしまう人は、日常的に不安が強い人である。それも得体の知れない不安に苛まれている傾向がある。また、HSP(ハイリィセンシティブパーソン)の傾向が強く、神経学的過敏や感覚過敏があり、心理社会学的過敏も強い。不安型愛着スタイルのパーソナリティを持つ。それは、親との良好な愛着が形成されなかったせいもある。陰謀論を妄信してしまう人は、安全と絆を提供する『安全基地』(心理的安全性)が存在しないのである。

 

 安全基地(安全な居場所)を持たない人は、強烈な生きづらさを抱えている。そして、自尊感情や自己肯定感を持てていない。自己愛性の障害を抱えているが、自覚はない。それ故に、自分は正常な認知機能を持っているし、正しい判断が出来ると思い込んでいる。ところが、満たされない思いを抱えていて、どちらかというと不遇な境遇に置かれていて、愛情に恵まれていない。このような状況に追い込まれているのは、社会が悪いし、闇の勢力が社会を捻じ曲げているからだと、他人のせいだと思い込み自己を正当化するのである。

 

 自尊感情が低い人は、変なプライドが高い。だから、自分だけは正しいし一般の人は知らない情報を人一倍早く仕入れていると、自慢したいのである。故に、科学的根拠のないとんでもない似非情報に飛びついてしまうのである。そして、人からの批判や否定に対して、極めて強い反撃的態度を取る。さらに、自説を曲げようとはせず、拘りが強い。柔軟性や可塑性が極めて低いパーソナリティを持つ。このような人には、間違いを正そうとしても無理だし、陰謀論をあらゆる根拠を示して否定しても聞く耳をもたなくなるのである。

 

 こういう人を真実に覚醒させて救う方法はまったくないのかというと、一つだけ方法がある。それは、ナラティブアプローチ療法という心理学的方法である。妄想性障害にも唯一効果のある療法である。陰謀論にはまっている人は、間違った物語(ドミナントストーリー)を信じ切っている。このドミナントストーリーを信じてしまうと、正しい物語(情報)は一切拒否する。だから、まず支援者(治療者)はこのドミナントストーリーに付き合う必要がある。けっして否定せず批判せず共感するだけの態度を取り続けるのである。

 

 これは言葉では簡単に言えるが、支援者(治療者)にとっては辛いものがある。明らかに誤解していると分かっているのに、その間違いに付き合うのだからストレスがかかる。それでも、陰謀論の主張に批判することなく、ただ寄り添って傾聴して共感するだけの態度を取り続ける。何か月かかるか解らないが、共感して聞くことに徹することが必要である。そうすることで、陰謀に嵌まっている人は自分の理解者がようやく現れたと思い喜び、支援者を心から信頼する。そうすれば、陰謀論者は心を開き、少しは支援者を信用して耳を傾けるようになる。ようやくニュートラルな状態になるのだ。

 

陰謀論者は、何度も自説を語り続け、批判や否定をされることなく聞いてもらっているうちに、自分の主張していることが本当に正しいのかと、かすかな疑問を持つようになる。そうしたうえで、少しずつ論理の矛盾点や破綻点を、優しい態度と言葉で支援者は陰謀論者に質問するのである。そして、ようやく陰謀論がフェイクニュースではないのかと思い始める。そして、陰謀論を否定したネット情報を積極的に取り入れるようになる。そして、陰謀論が明らかに論理的破綻を起こしていることに自ら気付くのである。正しい物語のオルタナティブストーリーを確立したのである。支援者が安全基地として機能して、見事に陰謀論から抜け出せるのである。