おすすめ本紹介『金魚たちの放課後』 | やまちゃんのホッとブログ

おすすめ本紹介『金魚たちの放課後』

山内図書館「スタッフおすすめの本」です。

ティーンズのみなさんにおすすめの一冊を紹介しています。

 

今回はこちら!

 

 

金魚たちの放課後

河合二湖/著

小学館

 

 この街の小学校五年生は、全員理科の授業で金魚を飼うことになっていて、それも、稚魚からではなく卵から育てています。

 身近すぎる死に動揺する灰原慎と、死ありきの商売を淡々と行っているすどう養魚場を営むすどうさんは、物語の中で対照的に描かれています。慎は運動も勉強も他の人より器用にこなせると思って生きてきましたが、生き物相手の事となると、どんなに努力しても上手くいきません。一方で、何事にも大雑把で「努力」をしていない同級生のタビ(旅人)は、何故か生き物の育て方が上手で、人間関係や私生活も上手くいっている様に見えます。アサガオもハムスターもきちんと世話をしていたのに、時間が経つと死んでしまいました。慎は、僕の指は「みどりの指」ならぬ「死神の指」だから、妊娠したまるちゃんのお腹を触ってしまったら、赤ちゃんにもしものことが起こるかもしれないと、自意識過剰なまでに「死神の指」を持つ自分のことを悪く思っています。また、人一倍多くの死に立ち会う仕事に夢中になっている看護師の母や養魚場のすどうさんの姿を見て、「たくさんの生と死の先に、何が見えるんだろう。」と疑問に思っています。その後、遠藤さん(遠藤蓮美)が言っていたみたいに、何百匹も何千匹も生き物を飼っているうちに、何か法則や傾向らしきものが見えてくるかもしれない。と、ひとり考えを巡らせています。

 

 小学五年生でこの街に引っ越してきた遠藤蓮美には、自分の意思とは関係無しに、環境の変化や友達・金魚との別れが呆気なく訪れます。転勤族の父の仕事の都合で、アメリカのボストンへ引っ越すことになり、蓮美にとって小学生の時から身近な存在だった十一匹の金魚たちとも別れなければならなくなってしまいます。蓮美は、これまで友達ができてもそのうち上手くいかなくなってしまう花音に、「絶対的な味方」だと思われていましたが、その居場所から退くことになってしまいます。

 唐突に訪れる金魚の死や転校による別れからは、寂しさを感じますが、慎は金魚を通して様々な人と繋がっており、蓮美は大好きな金魚たちの世話を友達に託すことで日本にいる仲間と繋がっていることから、少しの希望を持つことができました。

 

 私も、小学生くらいの頃、金魚をはじめオタマジャクシやカブトムシ、ハムスターなど様々な生き物を日常の中で飼っていましたが、何十年も生きるといわれる金魚でさえ今でも生きているものはいません。慎のように、大切に飼っていた生き物が死んでしまった当初はとても悲しくて、現実を受け入れ難かった記憶がありますが、死んでしまった原因が分からないことも多く、その悲しみが今でも続いているかといえばそれは少し違うと感じました。しかし、その時々の出会いや別れは、今の自分を構成する要素の一部であることも確かだと思いました。「きっと、めぐりあわせなんだと思う。いろんな人に出会ったり、別れたりをくり返していくなかで、みんなそういう人を見つけていくんじゃないかな」と、「絶対的な味方」について蓮美の母は蓮美に語りかけます。今日までに自分に起こった全ての出会いと別れに感謝して、今をよりよく生きていきたいと思いました。