はじめに

 令和5年10月6日に、相続税のマンションの財産評価に関し、「居住用の区分所有財産の評価について」と題する法令解釈通達が公表されました。テレビや新聞などで大きな話題になりましたが、表題が難しそうで内容に踏み込めなかった方も多いのではないでしょうか。

 

 では、一体何があったのか、できる限り分かり易く説明していきたいと思います。

 

通達の概要と6項通達

 相続税申告のためには、亡くなった時点の遺産価値(時価)を金額で表示しなければなりません。その評価方法は「財産評価基本通達(長いので、以下「評価通達」と言います。)」に定められていて、財産ごとにその評価方法が細かく規定されています。その中に、評価通達に従って評価しても場合によっては正しい申告にならないという衝撃の規定(通称「6項通達」と呼ばれています。)があります。

 

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」(財産評価基本通達総則第6項)という規定です。

 

 評価通達に従って評価しても、税務署が正しくないと判断すればそれが正義になってしまうという、通達そのものを自己否認するような規定です。公平性の観点から、富裕層にしかできない過度な節税を止めるためのストッパーとなっていますが、国家権力が自由に申告内容を決めつける暴力性を伴うことから、安易に使うことは許されないと位置づけられています。そして、タワーマンション等の評価にこの規定を適用したことが正しかったのかを問う裁判が行われ、全面的に課税庁が勝利したことを受けて、今回、法令解釈通達が公表されました。

 

マンションの相続税評価の仕組み

 評価通達に従って評価を行うと、原則として土地は路線価等、建物は固定資産税評価額を基に評価するため、敷地の持分が小さい区分所有高層マンション(タワーマンション1室)の評価は極端に低くになります。

 

一等地のタワーマンション1室を購入した場合を例にとってみましょう。

⑴ 敷地全体の相続税評価額             30億円

⑵ 敷地の所有割合             100分の1(3000万円)

⑶ 建物の固定資産税評価額             3000万円

⑷ 購入価格             3.5億円(相場価格)

⑸ 購入原資             全額借入(▲3.5億円)

 

敷地全体に占める持分が100分の1だった場合、土地の評価額は3000万円、建物と合わせた物件全体の相続税評価額は6000万円になります。

 

借入債務は相続財産のマイナス項目になるので、この物件にかかる相続財産の申告額は次のようになります。

①土地             3000万円     (+)

②建物             3000万円     (+)

借入           ▲35000万円     (-)

計             ▲29000万円

 

なんと、この物件は購入するだけで申告する相続財産が2億9千万円減るのです。

 

 このような物件は富裕層の間で奪い合いになっており、値段もほとんど下がらないので、買った値段(3.5億円)かそれ以上ですぐに売却できます。ですから、売ったお金で借入を全額一括返済できます。すなわち、亡くなった際に持ってさえいれば、一切財産価値を落とさずに破額の相続税を回避できてしまうのです。

 

 

以下、こういった節税に関する納税者と課税庁の争いから、冒頭の法令解釈通達が発布された経緯を具体的に見てみましょう。

 

最高裁の判決

(事案の概要)

 相続人は、2012年に父親から東京都内などのマンション2棟を相続し、評価通達に従い、路線価と固定資産税評価額を基に算出したマンションの評価額を2棟計約3億3千万円とした上で、購入時の借入約10億5千万円と相殺して相続税を0円と申告しました。

 

 これに対し、国税当局は評価通達6項を適用し、不動産鑑定に基づいて、マンションの評価額を計約12億7千万円と見直し、約3億円を追徴課税する更正処分を行いました。納税者はこれを不服として審査請求をし、一審、二審を経ても決着が着かず、最高裁での判断が待たれることになりました。

 

(最高裁判決)

 令和3年4月19日に最高裁の判決が確定し、納税者の上告を棄却し納税者が敗訴しました。

 

 最高裁は、「路線価などによる画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合は6項通達を適用できる合理的な理由がある。」との判断を示し、本件摘要の根拠を次のように示しました。

 

⑴ 物件購入は税負担を大幅に減少させることを意図したものである。

⑵ 相続開始直前での購入・借入である。

同様の対策を実施していない他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な税負担の公平に反する

 

 これを受けて、課税庁は外部からの意見等を募り、いわゆるタワーマンション節税を規制するために、具体的な評価方法を定めることとしました。

 

法令解釈通達「居住用の区分所有財産の評価について」

(目的)

 遺産を減らすことによる相続税節税の基本理念は、「本当は高く売れるけれど、相続税評価額が低いもの」を購入することです。

 

その代表格が不動産ですが、タワマンは他の不動産と比較して次のような優位性があります。

⑴ 換価価値と相続税評価が圧倒的に乖離することがある。

⑵ 富裕層からの投資需要が大きく、値崩れしにくいので、価値下落のリスクが少ない。

 

 そして、先の判例を受け、タワーマンションを用いた過度な節税を抑え込むために、タワーマンションを含む区分所有マンションの評価方法に改正を加える通達が発布されました。同通達は令和6年1月1日以後の相続等から適用されます。

 

(要旨)

 改正後のタワーマンションの評価は、築年数や総階数によって決まる「評価乖離率」と、それに応じた「評価水準」という新たな指標が加えられ、これまでの相続税評価に加味して求めることになりました。ここでは詳しい計算は省略しますが、これまでの評価方法に比べるとかなり高い評価になります。

 

今後の流れ

 タワーマンションの評価方法が改正されたことにより、過度な節税は難しくなったと思いますが、それでも一等地の物件は外の不動産と比べて実際の取引価格よりかなり低い評価になりがちです。そのような場合でも、新ルールに則って申告すれば過度な節税にはならないのでしょうか。

 答えは否で、「今後も通達及び評価通達の定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められる場合に、評価通達6が適用される点については同様である」旨を法令解釈通達上で明記しており、実勢価格が相続税評価よりも相当に高額であれば鑑定評価での修正申告が求められる可能性があります。

 

 以上のことから、たとえ新しい通達に従って申告したとしてもリスクは減らないので、タワーマンションを利用した節税は今後難しくなるのではないかと考えられています。

(大田靖)

 

 

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