1.制度概要
一人暮らしの被相続人の死亡により空き家になった居住用敷地等を相続人が売却した場合に、発生する譲渡所得に関する特例適用要件が、令和6年1月1日以降の売却分から一部変更されます。
一般に、耐震基準を満たさないような古い建物でも、建物があることによって敷地の固定資産税は安くなります。
そのため、相続発生で空き家となった土地建物を壊さずそのままにしておくケースが頻発し、治安面や、土地の有効活用の観点から問題になっていました。
 

そこで、早期売却を促すため、平成28年に、空き家となった被相続人居住用敷地等について、売却前に耐震補強するか家屋を取壊して売却した場合に、譲渡者が、発生する譲渡所得から(共有の場合は一人あたり)3,000万円まで控除できる特例が新設されました。 
その後の改正で、一定の要件を満たせば被相続人が老人ホームに入居していた場合にも適用が認められています。
今回の令和5年改正においては、売却後の耐震補強や家屋の取り壊しが認められた一方、3人以上の共同相続人がいた場合に一人当たりの控除限度額が引き下げられました。

2.これまでの適用要件
(1) 物件の要件ですが、物件の性質なので相続発生後に何かできることはありません。
①特例が適用できる敷地の上にある建物は、以下の要件を満たす必要があります。
・昭和56年5月31日以前に建築された建物であること(35④一)
・マンションなどの区分所有建物ではないこと(35④二)
・被相続人が老人ホームに入居していた場合、戻ったらすぐに居住を再開できる状況にあること(措35④、措令23⑦)
②亡くなられた方についての要件は、以下の通りです。
・相続開始直前に一人暮らしであったこと(老人ホーム等に入居していても可)
 (35④三)
・老人ホーム等に入居していた場合、相続開始直前に要支援または要介護認定を受けていたこと(措令23⑥)

(2)相続開始以降、売却する人が気を付けなければならない要件です。
① 売却対象物件は、売却時に次のどちらかの状態で売却しなければなりません。
・建物に耐震工事を施してから敷地とともに売却する(利用少)。(35③一)
・相続人が売却前に建物を取壊し、更地として売却する(一般的)。(35③二)
② 建物は、相続開始後に貸付、居住の用に使用してはいけません。(35③一イ、二イ)

(3)最後に、売却時の要件です。
・相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること(35③)
・売却価格総額が1億円を超えないこと(35③)

3.特例適用の実情
本件特例を受けるためには、2.の要件を満たしたことについて、物件の所在地を管轄する市町村に資料を提出し、審査を受け、交付された「被相続人居住用家屋等確認書」を添付して税務署に対し、譲渡所得の申告を行う必要があります。(R4.4.1国交省告示 記)
しかし、特例の効果が非常に大きいにも拘らず証明内容が多岐にわたり、要件も複雑なことから、使い勝手が悪く、思ったほどの売却促進効果がありませんでした。
特に、古い建物を取り壊して売却するケースが多いにも拘らず、相続人自ら多額の費用を投じて取壊しを行わなければならないことが特例の適用を妨げていました。

4.改正事項(令和6年1月1日以降の譲渡に適用)
(1)取壊しに関する事項(納税者有利)
今回の改正では売却までに取壊しを完了しなければならないという条項が削除され、新たに申告期限直前の2月25日までに取壊しがなされていればよい旨の条項が加えられました(改案措35③)。
これにより、相続人自ら取壊さなくても、買い手が期限までに取壊しを完了すれば特例が受けられるようになります。
また、現実性は乏しいですが、耐震工事を選択した場合も買い手が期限までに耐震工事を完了すれば特例が受けられるようになります(改案措35③)。
 

(2)特別控除額の変更(納税者不利)

これまでは、特例適用者全員について所得の中から最高3,000万円が控除できるとされていましたが、今回の改正で、特例を適用する相続人が3人以上いる場合には一人2,000万円の控除額を限度とすることになりました(改案措35④)。

例えば譲渡所得が総額9,000万円で3人均等に物件を共有していた場合、一人当たりの譲渡所得は3,000万円です。これまでは全員が3,000万円ずつ控除できたので、各人の譲渡所得は0になります。

 しかし、今後は一人当たりの特別控除は2,000万円とされるので、各人の譲渡所得は1,000万円ずつ発生します。(大田靖)

 

 

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