Q 退職所得について、課税の適正化が図られたそうですが、どのような見直しとなりましたか?
A. 勤続年数5年以下の法人役員等以外の者の退職所得についても、退職所得控除額を控除した残額のうち一定額を超える部分は2分の1課税を摘用しないこととなりました。
(適用期日:令和4年分の所得税、5年度以降の個人住民税)
【退職金に対する所得税の計算方法】
退職金に係る所得税は長年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるもののため、退職所得控除を設け、他の所得と分離して課税することで税負担が軽くなるよう配慮されています。計算方法は状況によって異なるため、いくつか例を見てみます。
★退職所得控除額の計算の表
勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数―20年)
※勤続年数は端数切り上げ
★所得税の速算表
課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円
≪例1≫ 勤続年数10年3ヶ月、退職金支給額900万円の場合
勤務年数5年超であれば、法人役員等の者でも、法人役員等以外の者でも、
2分の1課税が摘用されます。
<計算式> (退職金―退職所得控除)×1/2×所得税率―控除額=所得税額
(退職所得控除額) 40万円×4年=440万円
(課税退職所得額) (退職金900万円-退職所得控除額440万円)×1/2=230万円
(所得税) 230万円×10%-97,500円=132,500円
(復興特別所得税) 132,500円×税率2.1%= 2,782円
(所得税及び復興特別所得税) 132,500円+2,782円=135,282円
≪例2≫ 勤続年数3年3ヶ月、退職金支給額500万円、法人役員の場合
平成24年度税制改正で勤続年数5年以下の法人役員等(特定役員等)の退職金のうち、役員等勤続年数に対応する退職金について2分の1課税が廃止されています。
<計算式> (退職金―退職所得控除)×所得税率―控除額=所得税額
(退職所得控除額) 40万円×4年=160万円
(課税退職所得額) 退職金500万円-退職所得控除額160万円 =340万円 ←1/2摘要不可
(所得税) 340万円×20%-427,500円=252,500円
(復興特別所得税) 252,500円×税率2.1%=5,302円
(所得税及び復興特別所得税) 252,500円+5,302円=257,802円
≪例3≫ 勤続年数4年2ヶ月、退職金支給額800万円、一般社員 【改正後】
今までは、法人役員等以外の者は勤続年数に関わらず1/2課税が摘用されていましたが、今回の税制改正により、法人役員以外の者に対しても、勤続年数が5年以下であれば、退職所得控除額を控除した残額のうち300万円を超える部分について、2分の1課税を適用しないこととなりました。
(退職所得控除額) 40万円×5年=200万円
(課税退職所得額) 退職金800万円-退職所得控除額200万円 =600万円 > 300万円
※退職金から退職所得控除額を控除した額が300万円を超えたため、計算式は以下になります。
<計算式> 150万円(※1) + {退職金-(300万円+退職所得控除額)}(※2)
※1 300万円以下の部分の退職所得の金額
※2 300万円を超える部分の退職所得の金額
(課税退職所得額)
150万円+{退職金800万円-(300万円+退職所得控除額200万円)} =450万円
(所得税) 450万円×20%-427,500円=472,500円
(復興特別所得税) 472,500円×税率2.1%=9,922円
(所得税及び復興特別所得税) 472,500円+9,922円=482,422円
今回の税制改正では、短期の勤務期間で退職をする人に支払われる退職金に対しては、所得税が増額されることになりました。しかし、退職所得控除額を控除した後の額が300万円以上の支給に対しての増額であり、300万円未満の支給であれば影響はありません。
計算を間違えると所得税の計算額が過少となってしまうため、税制改正に当てはまる方の処理には注意が必要です。(辻綾)