一口に経営戦略といっても、学術的に見れば、
「プランニング派」「ポジショニング派」「リソース・ベースト・ビュー派」などいくつかの学派があるそうです。
とはいえ本書では難しい理論を語られるかというとそうでもなく、
わかりやすくかみ砕いて説明されていてすらすら読めます。
本書の中で引用されていますが、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授によれば、「経営戦略には3つの代替案しかない」という。
それは、「コスト・リーダーシップ戦略」、「差別化戦略」、「集中戦略」だそうです。
経営戦略については、現場がその戦略に従うことが重要であると著者は言います。
例えば、高級車でチャンピオンになろうという経営戦略を打ち出されているのに、営業の現場が「売れ筋である低価格車を売りたい」などと考えて仕事をしていては経営戦略は機能不全を起こしてしまう。
日本企業は、欧米企業に比べ、現場がよく物事を考えるのでこのパターンは多い。
一方欧米であれば、中央の優秀なスタッフが戦略を考え、現場はそれを実行するだけ、という体制なので、ある種経営戦略は機能しやすい。
合併した場合、本社の人間がやってきてすぐすべてを変えてしまうといったような強引さもあるそうです。
中央の方針と会わなければ会社を変えればよい、という理屈です。ただ、日本企業ではそうもいかないことも多い。
ブリヂストンがファイヤストンをが買収した際、社風の違いからファイヤストン側から抵抗があり、買収当初は合併がうまくいかなかったといいます。
「アメリカの企業は買収した側が即時乗り込んで、全部買えてしまうのだが、わが社はそこまでのノウハウはなかった。また各ポストを日本人で埋めるだけの力もなかった」
と当時のブリヂストン社長の家入氏は言います。
それでもじっくりと融和を進めていき、数年して効果を発揮し始めたという。日本企業はお互いの社風を尊重しつつ融和していくのが得意としているようです。
ーーーーーー
このように本書ではケーススタディとして、様々な企業での経営戦略の事例があげられており、そのチョイスが面白い。
例えば、NECとレノボの合併について、レノボの社長楊氏は「NECとはお互いに一目ぼれだった」という。
NECはレノボの部品調達力が欲しく、レノボは日本国内での販売網やサポートが欲しい。
だからお互いに友好的に、お互いが良い条件で合併することができたといいます。
他にも友好的な合併という点では、日本板硝子の例が面白い。
海外進出が出遅れていた日本板硝子は、特に自動車事業に強みがあるビルキントンを30億ポンドで買収した。
この買収は額が大きかったことだけでなく、世界シェア6位の日本板硝子が、世界シェア3位のビルキントンを買収する「賞が台を飲み込む」買収であったため、世間の注目を集めました。
さらに日本板硝子は買収先のビルキントンのスチュアート氏を社長に据えるという驚きの人事を発表。
この背景としては、日本板硝子の海外事業を拡大し成功させるという目的があり、それに適した企業を買収し、適した人間をトップに据えたということらしいです。
目的のためには、しがらみは不要とするとことに潔さ、
戦略とはそういうことなのかなと思いました。
ーーーー
戦略には選択と集中が重要であり、無節操な総合は戦略ではない、と著者は言う。
例えば、化粧品、日用品大手の花王は地道な商品改良やコストカットを繰り返して今の地位を築いてきた会社であり、ITのような変化の速い業界には不向きとして「敢えて」手を出さなかったといいます。
ITバブルといわれた時代にも、それに乗るだけが戦略ではないのだということを学びました。
ーーー
また著者は、事業の「寿命」について、すべての事業には「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」のライフサイクルがあり、永遠に成長し続けることはできないといいます。
しかし、企業は永続的に存在しなければならないため、常に新しい事業に挑戦し、新しい事業に入れ替えていく必要があるといいます。
例えば、警備大手のセコムは1966年当時、倍々ゲームで伸びていた巡回警備事業を順次廃止し、警報装置を事業所に取り付け、遠隔監視をするサービスに切り替えました。
これが英断で、遠隔監視サービスを武器に早い時期から海外展開していくことができました。
ーーーーー
本書は、経営戦略とは何か、なぜ経営戦略が必要なのか、どんな場面でどんな経営戦略を使えばよいのか、について、具体的な事例を通して楽しく学ぶ事ができます。
著者は早稲田大学ビジネススクールで学生満足度No1の講義を行っているそうで、
マーケティングや経営に興味のある学生に、特におすすめの1冊だと感じました。
読みやすく、かつ内容の濃い新書なのでオススメです!