織女は雲霧消兼という美しい布を織るのが仕事でした。
毎日、明けても暮れても、杼を動かし布を織り、ぱたんぱたんと、機の音が響かない事はありませんでした。
織女はただ機を織り続けるだけで、日々を追われるように過ごしていました。
他の天女のように、髪をすく事も、顔をととのえる事も、出来ませんでした。
まして、誰かと知りあう事など、かなわぬ夢でした。
天帝はそんな我が娘が不憫でした。毎日骨の折れる仕事ばかりで、いまだに独身で暮らしている。
誰か良い人が出来れば、他の娘のように、晴れやかな気持ちになれるだろうに。
天の川の西に、牽牛と言う牛飼いが暮らしていました。牽牛は織女におとらぬ仕事熱心な男でした。
天帝は天の川に橋を架け、織女を牽牛にめあわせました。織女は牽牛を見るなり、ひと目で気に入ってしまいました。
織女の心は急に華やかになり、踊るような心地になりました。
髪をすき顔を整え服も華やかなものになりました。
機の仕事も、気持ちの良いように進みました。織女は牽牛の側にいる事が楽しくてしかたありませんでした。
仕事を終えるのが待ち遠しく、仕事を終えると橋を駈け渡り、牽牛のもとへ飛んで行ったのです。
もう織女は牽牛から離れられなくなっていました。
朝、橋を渡ると、日の暮れる一日が狂おしいほど長く感じられました。
機を織る手が止まりがちになり、目はいつの間にか天の川の向こうの牽牛を探していました。
牛の鳴く声が聞こえると立ち上がり、しばらくぼうっとするようになっていました。
そして、日の高いうちから織女は橋をわたり、牽牛のもとにいる事が多くなっていったのです。
織女が仕事をなまけ、夫と過ごしている事は天帝の知る所となりました。
織女の仕事は大きくとどこおっていました。天帝として、織女を罰しなければなりませんでした。
天帝は織女と牽牛を引き離し、天の川に架かる橋を壊しました。
そして、1年に1度、7月7日の夜だけ、2人が会う事を許したのでした。