「幸せのちから」 | やまたくの音吐朗々Diary

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映画レビューを中心としたバトルロイヤル風味。

幸せのちから

1月27日より公開予定の映画「幸せのちから」の試写。

監督はイタリアのガブリエル・ムッチーノ。出演はウィル・スミス、タンディ・ニュートン、ジェイデン・スミスほか。

医療機器のセールスマン・クリスは、5歳のクリストファーのよき父親だが、セールスの業績はさっぱり。朝から晩まで働き通しで家計を支えてきたパートナーのリンダは、ついに家を出ていってしまう。そんなある日、クリスは、一流証券会社の株式仲買人養成講座に申し込むが、研修期間中は無給。しかも、家賃を滞納したことでアパートを追い出され、クリストファーとふたりでホームレス生活を余儀なくされることに……。

ホームレスから億万長者へとのぼりつめた実在の人物にインスパイアされて製作された物語。

成功。アメリカンドリーム。億万長者。

が、

そんな言葉から思い浮かぶ痛快なサクセスストーリーを予想していると、見ごとに裏切られるだろう。

全体を10として、凡百のサクセスストーリーが、「どん底4→助走3→飛躍3」程度の割合で進むとするなら、本作は「どん底9、飛躍1」程度の割合。そういう意味でも、この映画をありきたりのサクセスストーリーと同列に語ることはできない。

もちろん「どん底9」のなかには、「助走」も含まれてはいるが、それは、のちの未来から振り返れば、それが助走であったと気づく類のもの。つまり、主人公の主観としては、未来に対する確証どころか、わずかな光さえ見えない状態が、ひたすら続くのである。

もしこの映画のテーマをひとつ挙げるとしたら、“ひたむきさ”に尽きる。生きるひたむきさ。息子へのひたむきな愛——。

セールスは不調、研修中は無給、妻の三行半、家賃滞納、ホームレス生活……そうした状況下で人間は、ふつう、イライラを募らせたり、厭世的になったり、自暴自棄になったりするものだが、クリスは自分の人生を悲観することもなければ、ズルをすることも、犯罪などの悪魔に心を売ることもなく、目標に向かって今できることをコツコツとやり続けた。

そして特筆すべきは、

どんなに苦しい生活状況に追い込まれても、息子のクリストファーに対する愛情の泉を枯らすことがなかった——ということ。クリスはクリストファーに対して明るく堂々と接し続け、また、励まし続けた。

それは、宿なしや貧乏生活といった生活状況と、親が子に注ぐ愛情が、まったく相関しないものであることを示すにとどまらず、現代の物質的に満ち足りた親子が育みやすい“希薄な絆”に対するアンチテーゼとしても読み取ることができる。

親が守るべきは、ひたむきかつ誠実に生きることと、笑顔。それに、投げ出さない意志の強さ。一方、子が親に望むものは、経済力や肩書きではなく、おそらくは、自分という存在を見つめてくれる真っすぐなまなざしなのだろう。

もちろん、アメリカンドリームを体験した実話をベースにした作品らしく、クリスの一挙手一投足通じて、現代社会で成功を収めるための秘けつやヒントも、随所に隠されている。

月の光をたよりに徹夜で勉強をするひたむきさ、証券会社の人材課長が乗ろうとしていたタクシーに強引に乗り込む大胆さ、一度肩透かしを食らったアポを逆手にとり、再度、大物の顧客に接近をはかる行動力(ピンチをチャンスに転換する発想力)。そして、持ち前の明るく誠実で裏表のない人柄。

小さな勇気と行動力と人柄の積み重ねが、のちの億万長者を生み出している事実は、多くのひとの心を勇気づけるだろう。

地道なサクセスストーリーと、ほのぼのと温かい親子の絆。このふたつを控えめな演出で描きつづったのが本作「幸せのちから」である。

クリスを演じるウィル・スミスと、クリストファーを演じるジェイデン・スミス。この実の親子というキャスティングに、よからぬ異論を挟む余地はないだろう。また、クリスの妻を演じるダンディ・ニュートンも文句なしのはまり役を演じている。

父子の間に最良の絆を作り上げ、仕事でもリベンジを果たす一方で、妻との間にできた溝を埋めることができなかったクリス。そこにまた、一筋縄ではいかない人間の現実を見た気がした。

オススメ指数:75%(最大値は100%)

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