R2予備試験 民訴法 再現答案

 

第1.設問1

1.受訴裁判所は本訴についてどのような判決を下すべきか。

(1)まず本件反訴は適法に提起されたといえるか。二重起訴にあたり142条に反しないか。「事件」の同一性の意義が問題になる。

ア.この点について、同条の趣旨は、被告の応訴の煩、訴訟不経済、矛盾判決の危険の防止にある。そこで、当事者及び訴訟物が同一の場合に、「事件」の同一性が認められると解する。

イ.これを本件についてみると、両訴訟の当事者は同一である。そして、本訴の訴訟物は本件事故による損害賠償債務の存否であるところ、反訴の訴訟物も同一である。そこで、本件反訴は二重起訴にあたり、142条に反し違法となるとも思える。しかし、反訴の場合、本訴と同一審理がなされるため、前述の142条の趣旨に反せず、違法とはならないと解する。

ウ.したがって本件反訴は142条に反せず、適法に提起することができる。

(2)次に、本件反訴が適法に提起されることで、本訴の確認の利益が失われないか。

ア.この点について、確認の訴えは確認対象が無制限に拡大し得ること、執行力を有しないことから、必要かつ適切な場合に限って訴えの利益が認められると解する。具体的には、方法選択の適否、確認対象の利益、即時確定の利益が認められる必要があると解する。

イ.これを本件についてみると、確認の訴えは給付の訴えに比べ執行力を有しない点で紛争解決の実効性が弱いため、債務不存在確認訴訟の本訴に対して、同一訴訟物の給付の訴えが反訴として提起された場合には、当該債務不存在確認訴訟の本訴は方法選択の適切性を欠くことになり、確認の利益が認められなくなる。本件においても、給付の訴えの反訴が提起されているため、方法選択の適切性を欠き、確認に利益が失われる。

ウ.したがって本訴の確認の利益は失われる。

(3)よって受訴裁判所は本訴について訴えの利益を欠くとして却下判決をすべきである。

2.本訴判決の既判力がどのような判断について生じるか。前述のとおり、本訴について訴えの利益を欠くという却下判決がなされるところ、既判力が訴訟判決についても生じるかが問題となる。

(1)この点について、前訴確定判決の判断内容の後訴での通用力たる既判力の趣旨および根拠は、紛争解決の実効性の確保および手続保障の充足による自己責任という点にある。そして、訴訟判決であっても、当該判断について後訴での紛争の蒸し返しを防止して紛争解決の実効性を確保する必要性があるし、また前訴で当該訴訟要件の存否について審理がなされたことで手続保障は充足している。そこで、訴訟判決であっても、当該訴訟要件の存否の判断について既判力が生じると解する。

(2)これを本件についてみると、本訴で判断された訴訟要件である確認の利益の不存在について既判力が生じる。そして既判力の相対効の原則(115条1項1号)及び手続保障は基準時たる口頭弁論終結時まで及んでいることから時的限界はかかる基準時と解されるため、本訴判決の既判力は、当事者たるXY間において、基準時たる口頭弁論終結時の時点で、本訴の確認の利益が不存在であることについて生じる。

第2.設問2

1.まずYは前訴において明示の一部請求をしているところ、明示の一部請求自体は訴訟の開始、審判対象の特定及びその範囲の画定、訴訟の終了について当事者の主導権を認め、その処分に委ねる原則たる処分権主義の趣旨である当事者意思の尊重の観点から当然に認められる。そして処分権主義の機能である被告の不意打ち防止の観点から、一部請求が明示されている場合に限って、訴訟物は当該一部に限定されると解する。そこで、本件においても前訴でYは一部請求であることを明示しているため、訴訟物は当該一部に限定されて、後訴で残部請求することは既判力によって遮断されず認められるとも思える。

 しかし、一部請求について判断するためにはおのずから当該請求権全部について審理する必要があるため、前訴において一部請求を棄却する判決がなされた場合には、後訴で改めて残部請求できる部分が存在しないことを示すものといえる。そこで、前訴で明示の一部請求が棄却された場合に、後訴で残部請求することは、被告に二重の応訴の負担を課すものといえ、信義則上認められないと解される。これを本件についてみると、Yの前訴での一部請求は棄却されているため、後訴で残部請求することは信義則上認められないのが原則である。

2.もっとも本件のように、前訴の段階では請求し得なかった後遺障害が前訴判決後に出現した場合に、常に残部請求が認められないとすると被害者にとって酷な結果となる。そこでいかなる根拠付けによってこのような場合に例外的に後訴での残部請求を認めるべきかが問題となる。

(1)この点について、①前訴で請求することが不可能であった損害について後訴で請求する場合であり、②前訴の訴訟物に後訴で請求する損害を含む趣旨でないことが明らかであり、③裁判所も前訴においてそのような趣旨で判断をしていると認められる場合には、前訴の判決後に出現した新しい損害について、前訴における明示の一部請求の残部があるものとして後訴で残部請求することが例外的に認められると解する。

(2)これを本件についてみると、Yが後訴で請求している損害は前訴判決後に発生した手足の強いしびれを原因とする損害であり、これは前訴で請求することは不可能であった(①充足)。次に、前訴でYが請求した訴訟物たる損害賠償債務の内容は本件事故によって生じた頭痛の症状についての損害であり、後訴で請求している手足の強いしびれとは異なる損害であるから、前訴の訴訟物に後訴で請求する損害を含む趣旨でないことが明らかといえる(②充足)。そして、受訴裁判所も、当該頭痛について本件事故前からのYの持病による慢性頭痛と心証を形成した上で、本件事故による損害とは認められないとして請求棄却判決をしていることから、前訴の訴訟物について後訴で請求している手足のしびれを含むものとして審理判断する趣旨ではないといえる(③充足)。

(3)したがって、Yの手足の強いしびれについての損害に対する後訴での残部請求は例外的に認められる。

3.以上から、Yは上記根拠付けによって例外的に後訴において残部請求が認められる。

以上