1.設問1

1.小問(1)

(1)まず証拠⑤のBの供述から、AVに解雇され、その後Vに再雇用を断られ続けていた事実が認定できる。また今回の犯行の直近である令和2127日にAが両手でVを突き飛ばした事実も認定できる。以上の事実から、AVに解雇され再雇用を拒まれたことからVを恨んでいた事実が推認でき、これはAVを殺害する動機となり得るため、Aの犯人性を一定程度推認させる間接事実である。

(2)次に証拠③と⑤から犯行当日の午後2時頃から午後945分頃までの間に、AV1階居室の応接テーブルに触った事実が認定できる。そして確かにBの供述によれば、Bの知る限りにおいて、AVに用事があるときはいつもクリーニング店を訪ねてきており、V方に上がったことはなかったことから、上記事実から犯行当日にAが通常とは異なる理由で上記時間帯にVを尋ねた事実が推認され、かかる事実からAの犯人性が推認されるとも思える。しかし、AVに用事があるときはいつもクリーニング店を訪ねてきていたのは、あくまでBの知る限りにおいてであり、これまでもAV方に上がっていた可能性は否定できない。また、仮にBの供述どおりだとしてAが通常とは異なる理由でVを尋ねた事実が推認できるとしても、その理由がVを殺害する目的だったことまで推認させるものでもない。

  以上から、上記事実からはAの犯人性を一定程度推認させるにとどまる。

(3)また、証拠⑥から、犯行当日午後6時頃、V方で男性が怒鳴っていた事実が認定できるところ、かかる事実はAが犯人である事実と矛盾しないものの、Aの犯人性を強く推認させるとまではいえない。

(4)以上から、V方居室の応接テーブルにAの指紋が付着していた事実について、Aの犯人性を推認させる推認力は限定的である。

2.小問(2)

(1)証拠⑦から、犯行当日の夜にACに対して人を刺してそのナイフをMNO町の竹やぶに捨てたと供述した事実が証明される。そして供述の時点で犯人以外知り得ない内容の供述がなされて、後の捜査でそれが客観的事実であると判明した場合には、当該供述の信用性を高く評価できると解されるところ、証拠⑨及び⑩からAの供述に基づいてMNO町の竹やぶを捜索したところ、Vの血液が付着したナイフが発見された事実が証明できる。そこで、上記ACに対して行った供述の信用性は高く評価できる。そして、当該ナイフに付着していた血液がVのものであった以上、当該ナイフはVの殺人事件の凶器と考えられ、Aの供述中の「人」とはVのことを指したものと考えることができる。

 したがって以上の事実から、AVを刺した犯人である事実を強く推認することが出来る。

(2)上記事実に加え、前述のV方居室テーブルにAの指紋が付着していた事実を併せ考えると、これらの間接事実はそれぞれAの犯人性を推認させる事実であるが、これらが偶然に重なる可能性は極めて小さいことから、Aが犯人であることについて合理的疑いを差し挟む余地がない程度に証明することが出来る。

2.設問2

1.小問(1)

(1)手段

類型証拠開示請求(316条の15)

(2)明らかにすべき事項

ア.316条の1531号イについて

証拠の類型 316条の1515号ロ?または6号?(覚えていない)

識別する事項 犯行時刻頃にV方からの物音を聞いた者の供述録取書

イ.316条の1531号ロについて

W2の供述から、犯行当日の午後6時頃にV方で男性同士が店の雇用のことで言い争っていた事実が証明されるところ、かかる事実は当該言い争いがVの店を解雇されたAVと言い争っていたものである事実を推認させ、Aの犯人性を推認させるものであるから、その証明力を判断することはAの防御のために重要である。そして、W2V方の外を通行したに過ぎず、V方での会話の内容を正しく聞き取っていたのかどうかその供述の正確性は疑問が残る。そこで、W2以外の者でV方の物音を聞いた者の供述の内容と比較することがその証明力を判断するために重要であり、開示が必要である。

2.小問(2)

(1)類型証拠の開示は、当該証拠の検察官請求証拠の証明力を判断するための重要性と、開示の必要性と開示によって生じる弊害を考慮した場合の相当性を考慮して判断すべきと解する。
(2)本件では、前述のとおり、証拠⑥を開示することはW2の供述の信用性を判断するために重要であり、かつAの防御のための必要性も認められる。一方で、W1Vの近所の住民であるがAとの面識はなく、またAについて特別不利益となる供述をしているわけではないため、証拠⑥の開示によってW1が威迫されたり脅されたりする弊害は小さいと考えられる。そこで上記必要性とかかる弊害を考慮して開示する相当性も認められる。したがって検察官は証拠⑥を開示した。

3.設問3

Cの証言にはAとの電話でACに話した供述の内容が含まれるところ、かかるAの供述部分が伝聞供述(3241)として伝聞証拠(3201)にあたり、その証拠能力が否定されないか。

(1)この点、伝聞証拠とは、反対尋問等によりその内容の真実性を吟味することが出来ない供述証拠、すなわち公判廷外の供述を内容とし、要証事実との関係でその内容の真実性が問題となるものをいうと解する。

(2)これを本件についてみると、Cの証言の要証事実はAの犯人性であるところ、前述のとおりACへの供述の存在自体を証明することが出来れば、かかる供述に基づいてV殺害の凶器であるナイフが発見された事実と併せて、Aの犯人性を推認することができるため、Cの証言は伝聞証拠にあたらない。

(3)したがって裁判所はCの証言を証拠排除決定すべきではない。

4.設問4

1.勾留の執行停止(95)

勾留の執行の停止が「適当と認めるとき」にあたるかどうかは勾留の執行を停止すべき緊急の必要性と相当性で判断すべきと解する。

 本件においては、確かにAの父親が死亡し葬儀に出席する緊急の必要性が認められる。しかしAは無職でありその生活の不安定性から逃亡のおそれが高く、相当性は認められない。

 したがって勾留の執行停止は認められない。

以上