R2予備試験 民事実務 再現答案

 

第1.設問1

1.小問(1)

  所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消登記手続請求権

2.小問(2)

  被告は、甲土地について、本件抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

3.小問(4)

①令和2年5月1日、Xに甲土地を売った。

②Y名義の本件抵当権設定登記が存在する。

第2.設問2

1.小問(1)

①抗弁として主張すべきではない。

②まず抗弁とは、請求原因事実によって生じる法律効果の発生を障害する、請求原因事実と両立する被告が主張立証責任を負う事実の積極的主張をいうと解する。この点、Yの(a)の言い分は、令和2年5月1日にAから甲土地を買ったのはXではなくBであるという主張であり、これは同日にAから甲土地を買ったのはXであるというX主張の請求原因事実と両立しない事実の主張であるから、抗弁にはあたらず、積極否認にあたる。したがってYは(a)の言い分を抗弁として主張すべきではない。

2.小問(2)

(1)小問(i)

①B名義の甲土地の所有権移転登記が存在した。

②Xが甲土地の所有者であることを知らなかった。

(2)小問(ii)

(b)の抗弁は、予備的抗弁としての抵当権設定登記保持権限の抗弁であるところ、抵当権はその付従性から、その存在を主張する場合にはその前提として被担保債権の発生原因事実を主張立証する必要がある。そして本件抵当権設定登記の被担保債権はBY間で令和2年8月1日に締結された消費貸借契約に基づく貸金返還請求権である。そして消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の発生原因事実として、金銭返還の合意と金銭の交付の事実の主張が必要であることから、(ア)の事実の主張が必要となる。

第3.設問3

1.小問(1)

Qが主張することとした再々抗弁は、債務の承認による時効更新(152条1項)の再々抗弁である。再々抗弁とは、再抗弁による法律効果の発生を障害し抗弁の法律効果を回復する、再抗弁事実と両立する事実の積極的主張をいう。本件では、YはBが令和4年12月1日及び令和7年12月25日に被担保債権たるBY間貸金返還請求権に対する一部返済として100万円及び200万円をYに対して支払った旨主張しているところ、一部返済は債務の「承認」にあたると解されるため、これにより消滅時効期間は更新され、結果として令和8年1月の時点では被担保債権たるBY間の貸金返還請求権は消滅時効期間が完成していないことになる。したがってYの上記主張はPの主張する消滅時効の再抗弁と両立しかつその法律効果の発生を障害しQの抗弁の法律効果を回復する事実の主張といえ、再々抗弁にあたる。

2.小問(2)

Qが再々抗弁として主張自体失当と考えた主張は、Xが消滅時効の援用権者たる「正当な利益を有する者」(145条)にあたらないという主張である。この点、「正当な利益を有する者」とは時効制度の趣旨である当事者意思の尊重の観点から、権利の消滅により直接利益を受ける者に限られると解するところ、Xは本件抵当権設定登記の被担保債権たるBY間貸金返還請求権の時効消滅によって直接利益を受ける者といえるため、「正当な利益を有する者」にあたる。したがってQは上記主張について主張自体失当と考えたと考えられる。

第4.設問4

1.まず本件預金通帳はその成立の真正に争いがないところ、その記載からXがAから甲土地を買ったと主張している令和2年5月20日に、XからAに500万円が送金された事実が証明される。そして500万円という金額は甲土地の売買代金と一致するところ、通常売買契約において代金を支払うのは買主であることから、当該事実からXが買主である事実が推認される。

  これに対して、Bは自身が甲土地の買主であるがその売買代金をすぐに工面できなかったことからXに立て替えてもらったと主張している。しかし、もしXがBの売買代金を立て替えたのだとしたら、500万円という金額の大きさから、例えXとBが兄弟だとしても、通常何らかの書面の形でそれを証明できるようにするところ、Bは立て替えの事実を証明するような書面などの提示をしていない。

  したがってBの上記主張には理由がなく、本件預金通帳の記載からXが買主である事実が推認できる。

2.次に、本件領収書についてもその成立の真正に争いがないところ、Xが当該領収書を所持していたことから、Xが令和3年から令和7年まで5年間連続で甲土地の固定資産税を納付していた事実が推認される。そして通常土地の固定資産税を5年間も連続で納付している者は当該土地の所有者であることから、Xが甲土地の所有者であり、令和2年にAから甲土地を購入した者である事実が推認される。また、甲土地の登記上の所有者がBであることから、Bに固定資産税の納付書が届いていたと考えられ、これにXが本件領収書を所持していた事実を併せ考えると、BがわざわざXに当該納付書を渡していた事実が推認される。かかる事実からB自身もXが甲土地の所有者であると認識していた事実が推認され、これによりXがAから甲土地を買った買主である事実を推認できる。

  これに対して、Bは税金関係は妻に任せており、詳しくは分からないと主張するのみで、なぜXが本件領収書を所持していたのかについて何ら合理的な反論を主張していない。

  したがって本件領収書をXが所持していた事実から、Xが甲土地の買主である事実が推認できる。

3.また、Xは甲土地を購入した動機について、自身がZ県の出身であるところ、老後に故郷に戻りたいと考えて自宅を建築するためにZ県内の手頃な土地として甲土地を購入することにしたと合理的な説明をしており、かかる合理的な動機の存在の事実から、Xが甲土地の買主である事実を推認できる。一方、BはすでにZ県内の自己所有の建物に居住しており、甲土地を購入する動機としては、500万円という代金額が安く感じられたことのみを主張しており、土地を購入する動機として十分に合理的な説明とはいえない。

  したがってXが甲土地を購入する合理的な動機を有している事実から、Xが甲土地の買主である事実が推認できる。

4.以上の間接事実はそれぞれXがAから甲土地を買った買主である事実を推認させるところ、これらの事実が偶然に重なることは考えにくいため、これらの事実を総合すると、Xが甲土地の買主である事実について、合理的な疑いを差し挟む余地がない程度に証明できたといえる。

よってXがAから甲土地を買った事実が認められる。

以上