実は私は将棋ファンなのだ。

俗に言う観る将という奴だ。自分で指すのはあまり楽しく無いからもっぱらプロの将棋を見て楽しんでいる。

 

今日は今をときめく・・・と言うほどでもないか。ブームも落ち着いた感があるが、若き将棋界の天才、藤井聡太君が重要な一局に臨む。(現在対局中。先手は永瀬二冠。戦型は相掛かり)

 

将棋界には8大タイトルと呼ばれる物があるのだが、そのうちの一つ、棋聖戦の決勝戦に進んでいる。その対局が本日なのだ。

 

これに勝ったら棋聖位を賭けて、現棋聖の渡辺明二冠と5番勝負を戦うことになる。もし3勝できたらめでたく棋聖位だ。藤井聡太棋聖。うむ、悪くない響きだ。

 

しかし渡辺明棋聖は現将棋界最強との呼び声も高い強敵。棋聖の他に棋王、王将の3つのタイトルを保持している。渡辺三冠である。朝日杯と言う早指し(持ち時間が少ない対局)戦で藤井君は一度、渡辺三冠を倒しているとは言え、そう簡単に勝てる相手ではない。

 

その前に今日永瀬拓矢二冠に勝たなければならない。永瀬二冠も叡王、王座と2つのタイトルを現在保持する超強敵だ。これまた簡単に勝てる相手ではない。しかも若い。まだ27歳。伸びしろがある。

 

藤井聡太七段はまだ17歳。伸びしろの塊だろうが、現時点ではどうだろう。頂点に立つほどでは無いと見る。それはそうだ。まだ17歳だ。ここで頂点に立ってしまってどうする。あとがつまらなくなるじゃないか。他の棋士も意地があるだろう。まだまだ子供なのにそう簡単にトップになど立たせるものかと死に物狂いで立ち向かってくるに違いない。そうでなくてはならない。

 

藤井聡太七段には最年少タイトル挑戦と言う記録がかかっている。今回が最後のチャンスだ。

屋敷九段が作った記録をわずか4日更新することになるそうだ。この辺に将棋界の忖度と言うか藤井君にビッグニュースを作って欲しいという思いが伺える。

 

だって藤井君はつい2日前、前名人の佐藤天彦九段に勝って決勝進出を決めたばかり。普通そんな早く対局は組まれない。コロナで将棋界もかなり制限を受けた模様。東西の移動を控えるとか。そのために藤井君の記録更新に黄色信号がともっていた。だがなんとかこぎつけた訳だ。将棋界の忖度くらいは大目に見ようじゃないかw

 

本日の棋聖戦決勝トーナメント決勝戦、藤井聡太七段 VS 永瀬拓矢二冠。10時開始。楽しみで仕方がない。

 

 

・・・とまあここで終わってもいいのだが、せっかくなのでずっと書きたかったことを書く。将棋ファンならすべてが多少なりとも気になっていることだ。

 

藤井聡太は羽生善治を超えられるのか?

 

羽生善治。国民栄誉賞を授与されたことで、ほとんどの国民が知っていることだろう。

将棋界で獲得したタイトルはなんと99期。ダントツだ。

二位の大山康晴永世名人が80期。現役では谷川浩司九段が27期と続くのだが、この情報だけで如何にとんでもない記録であるかがお分かりいただけるだろう。

 

ちなみに現時点で最強と言われる渡辺明棋聖(三冠)でも25期でしかない。でしかないってことはないか。25期はスゴい。引退した棋士を含めても第5位に入る大記録だ。現時点で三冠なので、まだまだ伸ばすだろう。おそらく谷川浩司九段の27期は普通に超えて行くだろう。

ちなみに3位が中原誠永世名人の64期。4位が谷川浩司九段(永世名人資格保持者)の27期。

 

さて、藤井聡太七段。プロになったのは史上最年少の14歳2か月。それまでこの記録を保持していたのはひふみんの愛称でおなじみの加藤一二三九段。記録は14歳7か月。この記録はずーーーーっと破られることが無かったのだが、ついに天才・藤井聡太少年が打ち破った。なんと62年ぶりの更新。

 

それだけでもスゴいのに、デビュー戦から29連勝という、おそらく永遠に破られることは無いのでは?という記録を打ち立てる。この頃ニュースは藤井聡太君一色だったから皆さんも覚えているだろう。

藤井君が頼んだ昼食をインターネットテレビなどで見た人が先に注文してしまい、藤井君の分が無くなってしまったなんていう面白エピソードもあるw

 

当時の連勝記録は神谷広志八段の持つ28連勝だった。それをちょうど一つだけ超えた。この子持ってるなあと思った。

ちなみにこの連勝記録も30年近く破られなかった大記録だ。それをデビュー戦から始めて達成するとはねえ。

 

他にも朝日杯に優勝したり、とんでもない年間勝率をたたき出したりしていた。

詰め将棋選手権では小学生の頃から何連覇もしていたし。

この分ならすぐにでも何かタイトルを獲るだろうと、多くの将棋ファンが思っていた。

 

ところが、だ。毎年のように年間最高勝率を記録していても、なかなかタイトルには縁が無かった。

まあまだ2年目だしね、3年目だしね・・・と言っているうちに4年目になった。

 

3年目には順位戦の昇級を逃してしまった。

これで谷川浩司九段の持つ史上最年少名人記録を抜くには、一年たりとも足踏み出来なくなってしまった。

あれ?案外成長してない?もしかして。

むしろ1年目の方が強かったのでは・・・?

などと訝し始める人もいた。

 

おそらくあまりにも鮮烈なデビューだったために、ファンの期待が大きくなりすぎたんだと思う。

私の目には彼は確実に成長していると思う。

 

しかし案外勝負所で痛い負けを喫する癖があるような気がする。

実際、去年度の王将リーグでは、広瀬八段に勝てばタイトル挑戦出来る、と言うところまで勝ち進んだのだ。

リーグ戦なので勝ち進むという言い方はちょっと変だけど。

 

そこで藤井君は終盤、時間の無い中で、自分が必勝形の状態からミスをしてしまい、大逆転負けを喫している。

 

ここぞというところで負けてしまうタイプなのだろうか・・・・?

 

と言う訳で今日の対局は楽しみだ。

 

おっとそうじゃない。ここで書きたいのは、新旧二人の将棋の天才、羽生善治永世七冠(有資格者)と、藤井聡太七段の比較だ。

 

果たして藤井君は羽生さんの記録、ここはタイトルに絞ろう。これを超えられるだろうか。

現時点での羽生さんのタイトル数は99期。今は無冠になってしまったが、私はまだ上積みされると見ている。

100期は運が悪くなければいけるはずだ。羽生さんの年齢以上の歳でタイトルを獲った棋士は複数存在する。

史上最強と思われる羽生さんなら多分まだいける。

 

将棋界にはいくつかのタイトル棋戦でトップカテゴリがある。

①順位戦のA級

②竜王戦の1組

③王将戦の王将リーグ

④王位戦の王位リーグ

 

この4つ全てに現在所属しているのは、羽生さんの他には豊島竜王名人以外に存在しないのだ。

 

つまり羽生さんはすぐタイトルに手が届く位置に今でも所属している。それも余裕で。

実際この前竜王戦1組で優勝してしまった。スゴい。

確かにここ数年は勝率5割台と振るわないが(羽生さんの通算勝率は未だに7割を超える。これは異次元の値である)、

波に乗れればタイトルの一つや二つの上積みは容易いと思っている。

 

となると藤井君は、この記録を超えるためには、これから100期以上獲得しなければならないことになる。

 

現在藤井君が戦っている棋聖戦は1994年まで年に2回開催されていた。

そのため、実質年間タイトル数は7ではなく8だった。なので羽生さんは有利だ、という説がある。

しかしそんなことは無い。現在は代わりに新しいタイトルである叡王戦があるため、本当に8タイトルなのだ。

この点ではこれから全盛期を迎えるであろう、藤井君の方が有利とさえ言える。

 

さて、長くなってしまったのでそろそろ結論に進もう。

 

私は藤井聡太は羽生善治の記録を超えることは出来ないと思っている。

 

なぜか。それは二人の置かれている環境があまりに違うからだ。

年齢差にして32歳。その間、将棋界はもの凄く変わった。

そしてその一番の違いは、「ソフトが人間より強くなってしまった」ところにある。

 

羽生さんの時代は、ソフトなんかてんで弱かった。

最強の将棋プレイヤーは人間であり、ソフトは人間の敵では無かった。

コンピュータが人間より将棋が強くなることは無いのではないかとマジメに語られていたものだ。

 

ところが平成の終盤になると、ソフトは加速度的に強くなっていく。

もはやソフトが人間より強くなるのは時間の問題と多くの人が気付き始めた。

羽生さん自身、ソフトが人間より強くなるのはいつか?との問いに、

2017年と答えていた気がする。(1年くらいズレてたかな?)

この辺りの話はとても面白いので、興味のある方は調べてみるといい。

 

そして羽生さんの予言した2017年、平成29年の5月20日、運命の日は訪れた。

 

時の名人、佐藤天彦が将棋ソフト「Ponanza」との3番勝負に2連敗し、人間がソフトに敗北したのだ。

結果だけ見れば完敗だ。

 

これは全ての将棋ファンにとって忘れられない出来事になった。

ついにその日が訪れたとも言えよう。

 

名人と言えば竜王と並んで最強の称号だ。

一番将棋の強い人間が名乗る物と言っても過言では無い。

その名人が完敗したのだ。まさにこの日に・・・

 

その後もソフトはどんどん強くなっていく。今の最強ソフトに当時のPonanzaは歯が立たないだろう。

しかし人間はそれほど強くはなっていない。

未だに大山先生と羽生さんはどっちが強いかなんて議論が盛り上がるくらいだからね。

 

今のソフトに人間はまったく太刀打ちできない。

プロの棋士でもそうだ。

菅井竜也八段が何かのインタビューで「将来人間がまたソフトに勝てるようになるかも知れない」と言っていたが、はっきり言おう。

有り得ない

さすが不利と言われる振り飛車を主力に順位戦A級まで勝ち上がった人は変わっている。

そんなこと言うのは将棋界でも彼だけじゃ無いだろうか。

 

諦めた方がいい。

バイクに人間が100M走で将来勝てるようになると思っている人はいるだろうか?

もしいたらその人は菅井八段以上の変わり者だと思う。

 

そしてそのソフトは我々一般人ですら簡単に手に入れられるようになっている。

これは将棋を観る者にとっても観戦の感覚を大きく変えてしまった。

何を言っているかというと、昔は将棋のある局面における最善手は誰にも分からなかった。

どちらが勝っているかというのも分からなかった。

囲碁のように地を数える競技と違い、将棋はぱっと局面を見てどちらが優勢かを判断するのは難しい。

プロであってもだ。

 

しかし今はソフトがそれを数値化して見せてくれる。

次の最善手も教えてくれる。最善手だけでは無い。

指し得る全ての手に、これは何点、これだったら何点と教えてくれる。これを評価値と言う。

 

つまり現在は素人でもどちらが有利かが一目で分かり、最善手が何であるかが分かってしまう。

(厳密に言うと真の最善手であるかどうかは分からない。しかし人間よりは確実に正解の可能性が高い)

 

これは将棋の応援の仕方を大きく変えた。

ソフトによりカンニングしている素人が、プロの差し手を批評するようになった。

「あ~、やっちまったよ~」「さすが最善」などといった具合に。

 

これは善し悪しだけどね。

評価値のせいで将棋がつまらなくなったという意見はよく聞く。

しかしそれが時代の流れと言う奴だ。今更戻ることは出来やしない。

 

で、今は誰でも将棋ソフトが手に入る。プロも将棋ソフトを使って研究する。

昔から将棋界には棋士が集まって「研究会」というのを開いて将棋を指しながらああでも無いこうでも無いとやっていた。

今でもやっている。

しかし人間と研究会やるよりソフトで研究した方が合理的だ、と堂々と言う棋士まで現れた。

「研究会意味無いです」ってね、増田君?w(彼も面白い棋士だ。藤井君に29連勝された棋士でもある)

 

羽生さんの時代は人間が最強。羽生さんは自分より強い将棋プレイヤーは存在しなかった。

藤井君の時代はソフトが最強。誰しも自分より強いプレイヤーと研究できる。

 

この2つの差が果てしなく大きいと見る。

 

研究相手としてのソフトは強いだけでは無い。

速いし疲れを知らない。

給料を払う必要も無い。(パソコン代や電気代はかかる)

こんなのといくらでも研究できるとなれば、人間側の実力は上がるだろう。

それも平等に。

 

昔はスゴい戦術を見つけたらそれで1~2年勝ち続けることが出来たのだが、今じゃ1回使えれば御の字で、下手すると次の日には対策されてしまう。それもカンペキに。

 

そう言う時代になると、他の棋士との差別化が難しいのではなかろうか?と思うんだなあ。

 

タイトルを量産するために必要なのは絶対的将棋の実力だけでは無い。他の棋士よりどれだけ抜きんでているかが重要だ。

私だって私以外将棋の初心者だけ集めてタイトル戦やったらタイトル100期いけるかも知れんw

 

羽生さんの時代は情報の伝達が遅かったこともある。

今はリアルタイムで全ての棋士に指し手が届く。

そこにタイムラグは存在しない。

まったく時代が違うんだな。

 

プロ入り直後の成績で言えば藤井君の圧勝だ。

羽生さんは最初はそこまで強くなかったと思う。

荒削りと言われていた。しかしそこからの伸びがスゴかった。

 

藤井君は最初から強かった。

最初から強すぎたせいで、そんなに成長していないのでは?と疑問視されている面があるとは先に書いた通り。

 

これは上に書いたソフトの影響が大きいと思うんだよね。

藤井君も使うし周りも使う。

ソフトを使用していない棋士は高齢棋士だけじゃなかろうか。

 

皆が一様にソフトを使うと一様に強くなると思う。

だから他から抜きん出ることが難しくなる。

 

 

一応上記が私の現時点における結論なのだが、ちょっと藤井君にも有利そうな話がある。

最後にそれを紹介しよう。

 

羽生さんは「羽生世代」という言葉がある通り、同年代に強い棋士がたくさん固まっている。

しかし藤井君には今のところそういう一団が存在しない。

未だに最年少棋士で、10代の棋士も彼しかいない。

「藤井世代」という言葉は今の三段リーグを見ても出来ない気がする。

 

タイトルの量産には他から抜きん出る必要があると先に書いた。

同世代のライバルに強い人があまりいないとしたら、案外藤井君を止められる棋士が少ないということになるかも知れない。

 

この点は藤井君に有利だ。案外タイトルを独占してハイペースで量産する時代が来るかも知れない。

 

今は年間8タイトル。100期獲るには最短で13年連続全タイトルを保持すればいい。

なーんだ、あっという間じゃん、などと思ってはいけない。

天才羽生善治ですら、7冠を独占していた期間は短かった。

囲碁の井山裕太九段がそれを2回達成したとして、羽生さんと一緒に国民栄誉賞を授与された(ちょっとおかしくない?と思ったけどw)ことを考えれば、全タイトルの独占が果てしなく難しいことが理解出来るだろう。

 

タイトル数を増やすコツは防衛することだ。

トーナメント戦と違って、将棋のタイトルはタイトルホルダーがラスボスとして待ち構える形式を取る。

一生懸命高い山を登ってきた挑戦者を倒すだけで1タイトルゲット。

挑戦するより防衛する方が数を稼ぎやすい。

 

藤井君が羽生さんの記録に迫るには、早いところタイトルを一つ獲って、それを連続で防衛しなければなるまい。

 

藤井君頑張れ!

今日勝って渡辺棋聖(三冠)にチャレンジして欲しい。

現将棋界最強と言われる渡辺三冠と若き天才藤井七段の対決は滅茶苦茶アガるぜ!

 

現時点(16:27)でAbemaTVの将棋チャンネルによると永瀬二冠53%藤井七段47%と少し永瀬二冠がリードしている。

持ち時間も永瀬二冠の方が多い。

少しピンチだ。

でも藤井君ならやってくれると信じている!

 

(早く書かないと対局が終わってしまうので荒れた文章になってます。すみません)

 

 

 

(終局後追記)

藤井聡太君棋聖挑戦決定!!

おめでとう!!!