5冊目です。これで創元推理文庫の「中村雅楽探偵」シリーズを読み終わりました。この本を読んでいる間に、CSチャンネルで、この小説をもとにしたドラマが放送されていました。17代目中村勘三郞が雅楽を演じており、竹野(演劇評論家として出てくる人で、雅楽とともに事件を解決します)が近藤正臣、江川(刑事)が山城新伍でした。ゲストとして、17代目の娘・波乃久里子や、息子の18代目勘三郞(勘九郎)も、弟子の小山三も殺される役として出ていました。ドラマは、小説よりも、歌舞伎界の裏の顔を描くような内容で、いわゆる2時間サスペンスドラマらしくドロドロしています。何作かを合わせています。小説は、戸板康二という歌舞伎に近い人が書いているため、歌舞伎の世界をおとしめたり、暗さを感じさせたりするところは描かれません。また、短編が多いので、さっぱりしています。

 今回読んだ「松風の記憶」と、同じ本に収録されている「第三の演出者」は、戸板康二の作品としては長編で、前者は東京新聞の新聞小説として連載されたものです。「松風の記憶」は歌舞伎世界にありそうな隠し子の話ですが、実は、隠し子ではなく、それは母親の勘違いだったという、少しあり得ないような設定になっています。歌舞伎俳優にマイナスイメージを抱かせたくないという作者の配慮なのでしょうか、設定に無理があります。

 戸板康二には「役者の伝説」という著作がありますが、実際に戸板康二が見聞きした俳優や演出家、劇作家の逸話をちりばめているというのが、戸板康二の小説の魅力だと思います。ただ、ミステリー小説としては、突然、中村雅楽が事件を解いてしまうという印象がある作品も多いですし、今回読んだ長編について言えば、早い段階で、犯人やその理由がわかってしまうというところがあり、おもしろいとは言えないと思いました。

 雅楽の人物設定や、劇界の様子などで、古い時代のことばが使われている部分があり、資料としておもしろいと思います。なお、ドラマでは8代目三津五郎の芸談に出てきた「とっちた」ということばの実例を拾うことができました。

 小説は、夜寝る前に読む本と決めています。これからどれを読もうか迷っています。本がたまってきていますが、考えすぎるものは寝る前には向かないので、読みやすい小説がいいかなと思っています。