美ヶ原高原の記録を残した時に引用した漫画「山を渡る」が非常に面白い。端的に言えば、ハマっている。



大学の山岳部を舞台にした漫画で、空木哲生さんという方の作品だ。



登山を始めるようになってから、登山雑誌の山と渓谷、PEAKSをKindle Unlimitedでよく読んでいる。


この漫画を最初に知ったのは、Kindleで読んだ山と渓谷2022年6月号だ。



「全国絶景テント泊ベストルート」という特集で、雑誌の表紙が漫画の絵だったのでふと目に留まったのだ。


作者である空木哲生さんのインタビューも掲載されていて、空木さんご自身もよく山に登っている方だということがわかる。



物語は三多摩大という大学で、部員が3人しかおらず廃部の危機に陥っている山岳部に、全くの登山初心者どころか運動もしたことがない新入生の女の子3人が入部するところから始まる。


先輩3人は難易度の高いクライミングも楽しむ本格派であるのに対して、新入部員は体験入部で登った高尾山で精一杯というバランスの悪さ。


新入生は「これは場違いなところに来てしまった」と後悔しつつも、少しずつ山の魅力に取り憑かれていく。



先輩3人も、初心者と一緒に行動することで自分たちの行動が制約されてしまうという気持ちはありつつも、山岳部の存続をかけて一生懸命に新入生たちを指導する。


全くレベルの違う先輩と新入生を両方描くことで、登山の色んな要素をストーリーに盛り込むことができていて、本当に面白い。


また、色々と登山に関する名言が多い漫画だなと思っている。



特に山岳部の安達ちはる監督の名言がお気に入り。安達監督は小柄な女性なのだが、ヒマラヤの登攀歴もあって、普段は沢登りに興じる豪快なキャラクターだ。


一番好きなのは美ヶ原高原の記録でも引用した新入生を北アルプスでの夏合宿に送り出す時の言葉。



「登山は人の評価など関係ない。自分で自分を充実させる行為だ。自然そのまま。良いも悪いもなく、あるのは山をどう受け止めるかという主観だけ。成功も撤退も受け止めて、『自分の山』にしてほしい。登ってこい。」(山を渡る第5巻より)


越後沢の大滝で沢登りをしている途中に、Web会議システムで新入生に対して最高のエールを送る安達監督がカッコ良すぎるシーンである。




安達監督の山との向き合い方に関する台詞にもグッとくるものがある。



「ヒマラヤで7千メートルを超える標高に達すると、世界は生き物の存在を認めない。何もかも拒絶する山に一本のルートを引くことが『私の山』だと思っていた。そんなある日、上越の山を登っていたら、谷間から笑い声が聞こえたんだ。これが沢登りとの出会いだった。ずぶ濡れで草や泥にまみれながら、楽しそうに谷間の源頭を詰め登ってくる彼らに出会って、とてつもなく豊かな山の世界があることを知ったんだ。全てを寄せ付けない山、豊かに与えてくれる山、私は様々な山の在り方を知りたいんだ。」(山を渡る5巻より)


2年生3人を引率して沢登りに行った際に、自らが沢登りと出会ったきっかけについて語るシーンである。山の多面性をよく言い表していると思った。




現在、「山を渡る」は6巻まで発売されている。新入生を迎えての夏合宿で北アルプスの長期縦走が始まり、中房温泉からスタートして表銀座を歩き、新入生3人も何とか槍ヶ岳への登頂を果たしたところで6巻は幕を閉じている。


読んでいると、自分も実際に登りたくなってくるような臨場感のある漫画で、しかも僕自身が登山初心者ということもあって、新入生3人に共感するところも多いのがハマっている理由かもしれない。


これから北アルプスの最深部に入っていく中で、どんな登山になるのだろうか。早く続きが読みたい。続編が待ち遠しい限りだ。