先日、あるテレビ番組で最近の企業CMや広告に潜んでいる縦読みの話題が出ていました。

 

一つめはスポーツ用品のミズノ。ナイキの厚底シューズへの挑戦状のような広告です。

 

これの左端を縦読みすると「あつぞこ絶対たおす」となります。

 

 

ちなみに1月の箱根駅伝ではミズノの試作品シューズを履いた創価大学の嶋津雄大選手がラスト10区で区間新記録を出し、創価大学に初のシード権をもたらしたのは記憶に新しいところです。他の9区間の区間賞は全員ナイキの厚底シューズだったのに対し、嶋津選手が使用したミズノのシューズは厚底ではなく薄い靴底でありながら反発力のある特殊な素材を使っていたそうです。この広告も自分たちは「あつぞこ」ではないやり方でライバルに勝つという意思表示なのでしょう。

 

二つめはエースコックのカップ焼きそばのスパイス袋です。100種類の素材が入っているという力の入れようです。

 

これも縦読みすると「エースコックマックスガンバリマシタ」となります。

 

三つめはバーガーキングの店頭に出た看板です。

この支店の2軒隣のマクドナルドが撤退するという内容で、「良きライバルの撤退を惜しみ、感謝を伝える」ような内容になっています。「今日は彼のところに行ってください」とまで書いてあります。

 

ところが、縦読みすると「私たちの勝チ」となっています。

 

縦読みは新聞のテレビ欄でも時々見つけることができます。嵐が活動休止を発表したあとのテレビ欄には「5人で嵐」の縦読みが。

 

昨年8月の創価大学夏季大学講座では「日本語のことばあそび」と題して、さまざまな言葉遊びについてお話ししました。そのなかでこの縦読みについてもいろいろな事例を紹介しました。古くは折句と呼ばれる表現技法があります。次の和歌は伊勢物語に出てくる在原業平の和歌で古今和歌集にも収められています。当時は縦書きでしたから逆に「横読み」と言うべきかもしれませんが。ここでは横書き、縦読みで記載します。

 

 からころも

 きつつなれにし

 つましあれば

 はるばるぬる

 たびをしぞおもふ

 

これを縦読みすると「かきつはた」となります。東国への旅の途中、杜若(かきつばた)の花の美しさに目を奪われて詠んだ歌で、「着慣れた唐衣のように、長年慣れ親しんだ妻が都にいるのに、その妻を残したままはるばる来てしまった旅のわびしさをしみじみと思う」という意味です。

 

次は谷川俊太郎さんの「恋文」という詩です。「あいしてます」というメッセージが込められた折句です。こういうのをツンデレと言うのでしょうか。

 

  あくびがでるわ

 いやけがさすわ

 しにたいくらい

 てんでたいくつ

 まぬけなあなた

 すべってころべ

 

歌謡曲の歌詞に秘められた折句としてはアグネス・チャンさんのヒット曲「ポケットいっぱいの秘密」があります。 (作詞:松本隆)

歌詞の中に、「あぐねす」の名前が折句で入っているのです。

♪あなた 草の上
 ぐっすり眠ってた
 寝顔 やさしくて
 「好きよ」ってささやいたの

 

手の込んでいる度合いから言えば、新聞のテレビ欄の縦読みは相当考え抜かれている感じがします。昨年紹介したのはこんな事例です。プロ野球中継の例が多いですね。

 

「おそらく試合終了までお届けできるはず」

「北の大地で虎退治」

「新たな年が皆さまによい一年になりますように」

「文章の中に選手16人が隠れています」

 

折句や縦読みは言語の線状性を乗り越えようとするアナグラムの一種です。

最近はどんどん新しい縦読みが出てくるので今年の授業や講座のネタに使おうかなと思っています。