ヒンディー語はインド中北部で広く話されている言語で、現在のインド国民の約50%は母語がヒンディー語だと言われています。

 

セントスティーブンス校は100%英語のため、学内の掲示や文書もすべて英語ですが、セントスティーブンスのキャンパスを一歩出て、他のカレッジ(分校)やファカルティ(学部)へ行ってみると、ヒンディー語が使用されているところも少なくなく、案内標識もほとんどがヒンディー語と英語の二言語表記になっています。こんな感じです。

食堂Messでもときどき、教授陣がヒンディー語で会話しているし、街に出てお店で買い物などをしていると英語ができない方も多く、品物の名前と数字だけでなんとか意思疎通をすることもありました。それで自然と興味が湧いてきて、10月の半ば頃にヒンディー語の教科書2冊と辞書1冊を購入し、勉強を始めました。勉強と言っても趣味程度の感覚で、とりあえず看板の字が読めるようになりたいと思って文字から覚え始めました。

 

ヒンディー語の文字はデーヴァナーガリー(देवनागरी)と言います。デーヴァナーガリーはヒンディー語以外にも西インドのマラーティー語やネパール語、さらに古典語であるサンスクリット語にも用いられています。

 

実は大学2年のときにサンスクリット語を履修した経験があります。正直に告白しますと、単位を落としました(苦笑)担当教授は渡辺重朗教授。著名な仏教学者渡辺昭宏教授を父に持つインド哲学者です。まだご存命でしょうか。わずか3名の履修者に順番に練習問題を答えさせるので、毎週サンスクリット語の授業の前日の夜は徹夜して練習問題を解いていました。間違えると「違う!」と叱られ、厳しい先生でしたが、今思うと本気で教えてくださっていたと思います。

 

年間の3分の2まではデーヴァナーガリーを用いずにローマ字表記された文献を読み、練習問題を解いていました。そこまでは何とかついて行ったのですが、残り3分の1になったときに、デーヴァナーガリーで読んでいくことになりました。しかし、デーヴァナーガリーを教えたり覚えたりする授業は1回もやらず自学自習に任せられたため、今までやってきたことを文字だけ変えて継続する形となりました。文字というのは読めないときは模様のように見えて難解に感じるものです。ローマ字で読んでも難しいのに、急にデーヴァナーガリーになってその5倍は時間がかかるようになり、とうとうついていけず最後にドロップアウトしてしまったのです。

 

そのときの苦い経験を教訓として、今回はまず徹底的に文字を先に覚えることにしました。文字が読めるようになるまでは、文法の勉強はしないと決めて、毎日少しずつ覚えていきました。学生時代の記憶も少しずつ思い出しながら。結論から言うと先に文字を覚えるこの方法は大正解でした。デーヴァナーガリーは表音文字で、母音記号と子音記号を組み合わせていくところは、ハングルやタイ文字とも似ていて合理的にできています。ひらがなやカタカナより覚えやすいと思います。

 

毎日、デリー大学のキャンパスを散歩しながら、標識のデーヴァナーガリーを声に出して読みます。ときどきは写真に撮って、部屋に戻って辞書で単語の意味を確認します。例えば、下の写真は人類学科 (Department of Anthropology) の標識です。मानव विज्ञान विभाग は maanav vigyaan vibhaag と発音します。これは三つの単語から成っていることがわかるので、それぞれ辞書を引いてみると、人間科学科 (Human Science Department) と書いてあったことがわかります。ちょっと意訳していたわけですね。

 

मानव विज्ञान विभाग = maanav vigyaan vibhaag = human science department

दिल्ली विश्वविद्यालय = Dillii Vishwavidhalay = University of Delhi

 

そうやってだいたい一通り読めるようになってから、文法の学習に移りました。youtubeに公開されている講座も大いに参考になりました。

一つは日本人女性のMayoさんによる講座。とてもわかりやすくて親しみやすい講座です。

インド人女性のPreranaaさんによる講座です。とてもテンポがよく、密度の濃い講座です。母語話者なので正確な発音が学べます。説明は英語です。

ノートにこんなふうに書いて覚えています。右側はいつも来てくれるクリーニング屋のおじさんに宛てた手紙です。覚えたてのヒンディー語で書いたものです。横向きですみません。(直し方がわからなくて・・・)

文法についてはサンスクリット語の子孫に当たるので、インド・ヨーロッパ語族の特徴を有しています。初級ですぐに目につくのは、一つはcopura verb。英語のbe動詞に相当し、名詞や形容詞を補語として承けることができる動詞です。もう一つは名詞、形容詞が性(gender)によって屈折すること。男性名詞、女性名詞の区別はスペイン語、フランス語、ドイツ語などにもありますね。このように文法を見ただけで遠く離れたヨーロッパの言語とつながっていることがわかります。語族の名称に「インド」とわざわざ入れるだけのことはあるなと思います。そう言えば、顔の彫りの深さもヨーロッパと同系の血筋の人々だなと思います。

 

道路標識もヒンディー語と英語の併記がされています。

地下鉄はヒンディー語の駅名と英語の駅名が入り交じっています。いつも使う最寄り駅はデリー大学にちなんだヒンディー語の Vishwavidyalaya (विश्वविद्यालय)となっています。これは直訳すると世界学校という意味です。Universityを意訳したものですね。二つ先には Civil Line という英語名の駅もあります。ちなみにインドでは企業が駅の命名権を取って、企業名や商品名と併記されます。ここは自動車のHondaが命名権を取っているわけです。

 

only English のセントスティーブンスとは言え、食堂でときどきヒンディー語を話してみるとすごく喜ばれます。例えば、कृपया पानी दीजिए 「お水ください」とか。कृपया (kripayaa) は地下鉄の車内のあちこちに書いてあるので、please の意味だと覚えました。ヒンディー語を少し覚えたことで、インドへの親近感、インドの方々との友情がより深まったように感じます。

 

最後にひと言。मैं भारत से प्यार करता हूँ! बहुत धन्यवाद! मसकी (インド大好き!本当にありがとう!まさき)