デリー滞在もあと数日を残すとのころとなります。今日は日本語上級クラスの学生たちとデリー市内へ二度目の観光に繰り出し、ヒンズー教の寺院や博物館などを見て回る予定でしたが、急きょキャンセルせざるを得なくなりました。

 

市民権法改正をめぐる抗議活動(CAA)が活発化しており、市内のあちこちでデモが起き、一部は警察と衝突して負傷者も出ているのです。今日は地下鉄の駅がいくつか封鎖されています。 日本の外務省からもデリー市内の外出を極力控えること、デモの集団には近づかないことを警告する通知が発布されています。

 

そういうわけでやむなく市内観光を中止にしたのです。帰国前の最後の思い出にと思っていただけに私も残念だったし、彼らも残念がっていたことでしょう。学生の無事故安全こそが最優先ですからやむを得ません。もっとも単に安全のためだけでなく、同世代の青年たちが正義のために戦っているときに自分たちだけ観光していられないとの思いもなかにはあったかもしれません。

 

 

この映像はデリーの中心にあるインド門の前で一昨日夜に撮影された映像です。インド憲法の前文(preamble)をシュプレヒコールをしています。憲法に謳われた自由と平等を守れと政府に対して訴えているのです。

 

今回の市民権法改正ではインドと国境を接するパキスタン、アフガニスタン、バングラデシュの3つのイスラム教国からの移民に迅速に市民権を付与する法律ですが、対象者が「非イスラム教徒」に限定されたことから、イスラム教徒への差別だとして、若者たちを中心に強い抗議行動が起きました。国内にもともといるイスラム教徒へも不平等がもたらされる兆候だと指摘する向きもあるし、自国でイスラム教と戦ってインドに逃れて来た人々はインドでもイスラム教徒と衝突するのではないかと懸念する向きもあります。

 

私も一昨日、デリー大学の一つの門の前で大勢の若者がシュプレヒコールをしているところをリクシャーで通りがかりました。この動きはインド各地に広がりつつあります。下の写真はコルカタですが、人数のすごさにインパクトがあります。

 

 

インドはかつてヒンズー教とイスラム教の対立が深刻だった時代があり、インドとパキスタンの分離独立をもたらしました。しかし、今のインド人、特に若い人のあいだでは宗教対立はなくなりつつあり、ヒンズー教徒、イスラム教徒、仏教徒、キリスト教徒が平和的に共存しています。

 

このデモに参加している人たちも決してイスラム教徒だけでなく、自身の信仰にかかわりなく、「信教の自由」や「宗派を超えた平等」を守るために立ち上がっているのだそうです。

 

複雑な問題なので簡単にはコメントできません。単に移民受け入れへの反発であれば、ナショナリズムの誹りを受けるだろうし、人道的観点からも問題があります。しかし、より本質的なことは移民に対してではなく、宗教差別を法律に書くことそのものへの政府に対する反発のようです。かつての不幸な対立時代の記憶がまだ残っているとすれば、この法律は心情的に受け入れがたいものでしょう。

 

ともかくも私が祈るのはこれ以上、不幸な衝突が起きないこと、死傷者が出ないことです。インド政府の首脳が賢明な人たちならばきっと市民の声に耳を傾けるはずではないかなと思います。