パブロ・カザルスの「鳥の歌」に啓発を受けた現代の名曲が本年、誕生しました。伊藤康英氏作曲「ピース、ピースと鳥たちは歌う」です。

この曲は創価大学パイオニア吹奏楽団による委嘱作品で、2018年7月7日の同楽団定期演奏会で初演されました。さらにこの曲を自由曲として吹奏楽コンクールにも出場し、8月16日の都大会予選、9月9日の都大会(本選)を経て、このたび10月27日の全国大会(尼崎・あましんアルカイックホール)の舞台でこの曲を演奏します。本曲の楽譜もこのほど出版されました。

「ピース、ピースと鳥たちは歌う」

 



1971年10月24日、カザルスは国連で歴史的なスピーチを行いました。その最も印象的で、人びとに長く語り継がれているのがこのフレーズです。

The birds in the sky, in the space, sing, "peace, peace, peace."

94歳のカザルスの絞り出すようなスピーチのなかで、平和を意味するピースをひときわ力強く3度、発します。そして、平和の願いを込めてカタルーニャ民謡「鳥の歌」を演奏します。

それと同じ心で、より大きなスケールでドラマティックに表現した吹奏楽曲が「ピース、ピースと鳥たちは歌う」です。

冒頭から「鳥の歌」の美しいメロディが流れ、聴く人の心に染み込んでいきますが、時にそれは様々な雑音によって遮られ、喧噪のなかに埋没していきます。平和を阻む勢力との葛藤を表しているかのようです。それでも「鳥の歌」は鳴り止むことなくつづきます。

やがて平和を希求するファンファーレが遠くから響き、それは力強く前進しながら次第に大きな勢力へと発展していきます。

リズミカルに行進をつづけ、雲間を突き抜けた瞬間、「鳥の歌」のメロディーが充満する幻想的な世界が出現します。そして、ついに平和の軍勢の勝利を歌い上げる凱歌となって壮大に楽曲の幕を閉じます。

鳥は平和を象徴する存在です。
鳥は自由です。鳥が飛ぶ空に国境はありません。人の往来が閉ざされた厳戒の国境であっても、その上空では鳥が自由に行き来します。
鳥は無国籍です。どこへでも行って誰とでも友好的に交わります。誰と出会っても争いを好まず、いつも笑顔で挨拶し、歌を奏でます。
鳥は故郷を覚えています。世界のどこに暮らしても、心には故郷があり、その誇りを捨てることがありません。

この曲を演奏する奏者たちがまずわが心に平和を築き、そして聴いてくださるお一人お一人とその思いを共有できたならば、たとえそれがコンクール会場であったとしても、平和・文化・教育の勝利の舞台となることを確信します。

素晴らしい楽曲を創価大学パイオニア吹奏楽団に提供してくださった伊藤康英先生に心からの感謝を申し上げます。
(楽曲の鑑賞文はあくまでも山岡個人の印象に基づくものです)