♪日曜の朝の夢 いつもジャズが流れてた
 小さなパジャマのまま 眠い目をこすると
 コーヒー挽く香りと 大きなステレオとパパ
 宝物を見つけたように レコードをかけていた・・・

 

 

同年代のシンガーソングライター、和田加奈子さんが亡きお父さんの思い出を歌った「パパのJAZZ」の一節だ。平日は仕事で忙しく、あまり家にいない父の面影は自然と日曜日の思い出と結びつく。

 

私の父は1998年に65歳で亡くなった。あれから20年、父の年代に自分も少しずつ近づいている。父には和田さんのお父さまのようなしゃれた趣味はなかったし、たいていは日曜日でも仕事をしていた。それでも幼少の頃、父が日曜に家にいるときは必ず決まってやることがあった。それはお仏壇の掃除だった。

 

家の掃除はすべて母の役目だったが、お仏壇の掃除だけは父の役目と決まっていたようだ。お樒(しきみ)の葉を一枚口にくわえて、黙々と仏壇の内側や一つ一つの仏具を布巾で丁寧に拭いていた父。普段掃除なんかしない父がせっせと拭き掃除をする姿は、無表情だったがなぜかとても楽しそうに見えた。父の掃除が終わるとお仏壇がピカピカになっていて、とても清々しい気分になれたのを覚えている。

 

だから私も日曜の朝に家にいるときは必ず仏壇の掃除をする。掃除をしているあいだ、私は父と対話している。何があっても絶対に叱らなかった優しい父。誠実で真っ直ぐで、筋肉質で男前だった父。読書好きで、山本有三の『路傍の石』や夏目漱石の『坊っちゃん』など、たくさんの本を読ませてくれた父。日蓮大聖人の御書をたくさん諳んじて教えてくれた父。軍(いくさ)には大将軍を魂とす大将軍をく(臆)しぬれば歩兵(つわもの)臆病なり(※)。御文が父の声とともに蘇ってくる。お父さんの人生の続きをまだまだ生き抜くよと、父に語りかける。

 

そうして、我が家の仏壇もピカピカにきれいになった。これでまた新しい一週間も頑張れそうだ。

 

(※)乙御前御消息、『日蓮大聖人御書全集』1219ページより