人間から大魔王へと出世したミルドラースは将来の禍根を取り除くべく、ある一つの予言を部下に与えた。

天空の勇者は高貴な身分の元に生まれる

それから遥か未来、天空の勇者はグランバニアにて生誕。ミルドラースの予言は形を成すこととなる。

 

ゲーム本編でこのような描写があることから、ミルドラースには未来予知、すなわち未来を見る力があるのではないかと推察され、前回書いた記事ではその辺を大きく深堀した。

 

 

そして私はミルドラースは自らが勇者に討たれる未来が見えていたからこそ、それを回避するために勇者も神をも超える力を欲し、闇堕ちしたのではないか?という説を提唱した。

 

今回の記事はこの説に対する反証として書いてみたい。

すなわち、ミルドラースにそこまで具体的に未来を見る力があったのか?についてだ。

 

  マーサを誘拐したという矛盾

 

まず第一の矛盾。

 

ミルドラースに具体的に未来を見る力があったのなら、なぜマーサを誘拐したのだろうか?

ミルドラースは人間界と魔界との門を開くために、その力を持つマーサを誘拐し利用しようとしたのはみなさんご存じの通りである。

だが、結果は大失敗。
以降、ミルドラースは長い年月をかけて自ら力を蓄えて門を開通せざるを得ず、当のマーサはジャハンナの住人たちを人間に生まれ変わらせるなどやりたい放題する始末。

 

マーサは「母はこの命にかえてもミルドラースをそちらの世界にはいかせません」とか「せめて、せめて、この私がこの命にかえてもその魔力を封じて見せましょう」と言っていたので、マーサの力によってミルドラースは抑え込まれ、その結果人間界への侵攻が遠のいた可能性すらある。

 

更にいえばマーサを誘拐したことが原因となって、勇者たちによる魔界への殴り込みと自身の死を招いてしまったので、マーサ誘拐こそが最大の失敗にして敗因であったとも言える。

 

そう、つまりミルドラースは何もせず、部下にも何もさせず、ただ力を蓄えて人間界への門を開き、平和ボケした人間たちを一気に襲ってしまえばそれで良かったのである。

もうお分かりだろう。
ミルドラースに未来を見通す力があるのなら、マーサを誘拐するはずなどないのである。
少なくとも自分が勇者に討たれる未来が見えるぐらいなら、都合の悪い未来まで見えるなら、マーサの利用が失敗に終わることも見えなくてはおかしいのである。

 

  光の教団が勝手にさらった?

 

まあ誘拐を実行したのは光の教団で間違いないだろう。

ミルドラースは人間界に手が出せないのだし。

だが考えても見てほしい。

ミルドラースの予言を頑なに信じて何十年も活動してるような連中が命令もなしにやるだろうか?

それにマーサの秘めたる力や居場所なんてミルドラースの予知能力なしでは把握することすら困難である。

だいたいミルドラースが未来を見れるならそれこそ部下の独断行動も予知できるはずだ。

 

  あまりにも抽象的すぎるミルドラースの未来予知

 

だいたい「勇者は高貴な身分のもとに生まれる」だの「イブールらが勇者に討たれる」だの、もっともらしい予言を吐いていたらしいが抽象的すぎやしないだろうか?

 

そりゃ天空の勇者様ともいえる高貴な血筋が貧乏人や平民の屋根の下から生まれるとも想像しづらいし、普通に考えれば高貴な身分に生まれるだろという話である。(まあ歴代ドラクエの勇者の生まれなんかを見ると、意外とそうでもなかったりするのだが)


ミルドラース自身が勇者の血筋というものを良くも悪くも過大に見ているので、そうした偏見が働いたとも取れる。

更にイブールたちが倒される未来にしても、あのゲマからして無能である訳だし、イブールもイブールで「形だけの教祖」であったとゲマから酷評されるだけに、果たしてどれだけ優秀であったかも疑問である。(ゲマより有能だろうけど)

 

少なくともミルドラースから「必要のないくだらない努力(をする連中)」と烙印を押される程度に見られていたのは事実だろう。
となれば、そんな彼らが勇者に倒されると予想できてもなんら不思議ではない。

 

そう、予言でも何でもなく、ミルドラースは端からやられると踏んでいただけなのだ。

それをイブールは「(自分たちが倒されるのは)ミルドラース様の予言通り」と言っているのだからお笑いである。

 

  ミルドラースは予言者を装ったペテン師だった 説

 

これはTwitterでとあるファンが提唱していた説なのだが、上述の問題と合わせて考えてみたい。それもミルドラースは実は人間時代から予言者を装い、自らを現人神のように見せて人の心をつかむのが上手いペテン師だったという説だ。

 

マーサの利用が失敗に終わることも予知できず、予言と称した言葉の数々はいずれも充分予測できる範囲のもので、これをもって未来を見る力があったとは断定できない。

 

前述のとおり、高貴な身分のもとに生まれるなんて予言にしても曖昧すぎる。王族、貴族、富豪、大商人、高位聖職者、ただの金持ちと挙げればキリがない。

 

光の教団がどのくらい前から活動していたかは定かではないが、リメイク版ではレヌール城の滅亡に関わっていたことが示唆されているので、それこそ相当な年月をかけて動き回っていた事になる。影も形も見えない勇者狩りのために。

 

いったいいつ、どこで生まれるのか?それぐらい教えてやってもいいだろうに。

 

もはや拠り所としてはアテにならないレベルの予言である。

 

しかし、イブールたちはこれを本物の予言と信じていたようなので、少なくともミルドラースはそう信じ込ませるだけの能力があったのは確かだろう。
ペテン師というのは言いえて妙かもしれない。

 

  ミルドラースに未来を見る力があったとしたら、どの程度見えていたのか?

 

ミルドラースの未来予知などただの虚言であったと断定するのは簡単だが、ここではミルドラースは未来を見る力があったと仮定して考えてみよう。


ミルドラースは未来を見る力があった、しかしマーサの利用が失敗に終わる事までは見通せなかった、その理由とは何なのか?

改めて考えればミルドラースは「〇〇さんがどこで生まれますよ」とか「〇〇さんが〇〇さんに倒されますよ」とか、他者に関する予言しかしていない。

 

つまり自分自身に関する予言はしていないのだ。

 

ミルドラースは自分に関わる未来は見えていなかったのではないか?
だからこそマーサの利用が失敗に終わることが分からなかったのだ。

 

そう仮定すると、冒頭で述べたミルドラースが「自らが勇者に討たれる未来が見えたからこそ、それを回避するために神の力を求めて魔族に転落した」という可能性も怪しくなってくる。

 

だいたい魔物に転落するほど心を闇に飲まれたことが未来を見たせいだとしたら、それは相当に鮮明なビジョンと確信が無ければありえないはず。

ましてや神の力を欲するという狂気じみた大望まで抱くほどである。

 

それほどの明瞭にして壮大なビジョンが、あの程度の抽象的な未来予知しかできなかったミルドラースに見えたのか?

これは大いに疑問が残るところである。