ドラクエ5のラスボスにして魔界の王ミルドラース。

自らを王の中の王と称し、人間に生まれ変わった魔物からも尊敬されるほどのカリスマ性をもつ彼だが、リメイク版では元々人間であったとされ、作中でも「神になりたいという野心から究極の進化を求め、エルヘブンの民の力でも浄化することのできない邪悪な存在へとなり果て、ついには神の怒りを買って魔界に封じられた」と説明されている。
 

  ミルドラースはいかにして魔族になったのか

 
彼がいつ、どのように魔族になったのかについては明言されていないが、作中で「心の邪悪さゆえに魔物になってしまった」「エルヘブンの民が立ち向かったが、あまりに心の闇は深く、もはや人間に戻すことはできなかった」「おのれ自身を魔物に変えてしまった」と断片的に語られている。
見晴らしの塔の兵士の発言より
 
水車小屋のアンクルホーンの発言より
 
これらを総括するとミルドラースは何らかの手段を用いて魔族になった事になる。あの世界で人間から魔族になるための手段と言えば一つしかない。天空シリーズではお馴染み、進化の過程を無視して成長させる力を持つ「進化の秘法」である。それを暗に示すようにエビルマウンテンの目と鼻の先の地下に、進化の秘法を生み出したエスタークが幽閉されている。
 
 
アッテムト鉱山地下(エスターク神殿)で眠りについていた彼が、なぜあんなところにいるのか。不思議に思ったプレイヤーも多いはずである。おそらく理由はこうだろう。ミルドラースは進化の秘法を用いて魔族になった。そこまではいい。だがそれは神に敗れ、魔界に封印されてしまうという程度に「不完全」なものだった。究極の進化を求めるミルドラースにとっては耐えがたい屈辱だ。リベンジしたい。だが、その前に神を超える力を手にし、封印を破らねばならない…。悩みに悩んだ末に出した答えは「エスタークを連れ去り、研究して、進化の秘法を完全にマスターする」事であった。ほぼずっと寝ているので何の抵抗もなく、転送魔法などで拉致できたと考えられる。(おそらくマーサ誘拐と同じ手順で)変色していたのはマグマの熱による日焼けだろう。たぶん。
 
(以下、完全な想像)本格的な研究の末に第二形態(注)という新たな力を手にしたが、封印を破るほどの力を得るにはまだまだ時間がかかる事が判明。急遽予定を変更し、人間界への扉を開く力をもつ主人公の母「マーサ」の拉致を決行する。ちなみにプチタークはエスタークの研究過程で創り出されたクローンであるが、戦闘能力はきわめて低く、レベルは上がりにくく、その上言う事も聞かないので廃棄され、謎のすごろく場の景品にされてしまった。
(注釈)ミルドラースの第二形態、よく見るとバルザック第二形態に似てはいないだろうか?バルザックは進化の秘法を用いて人間から魔族に転生したキャラクターである。この奇妙な共通点、果たして単なる偶然なのだろうか。
 

  ミルドラースはなぜ神になりたかったのか

 
なぜミルドラースは神になりたい等という野心に憑りつかれたのだろうか。私の想像だがその要因は「進化の秘法」と「エスタークの伝説」にあるのではないか、と思う。つまり、彼はエスタークに憧れたのだ。進化の秘法によって最強の力を手にし、不死身となり、地獄の帝王として奉られ、神(マスタードラゴン)とも死闘を演じ、あの魔王ピサロをも敬服させたエスターク。ミルドラースはこうした数々の伝説を見聞きしたことで憧れを抱き、神(エスターク)のようになりたいと究極の進化を求めるようになった。
 
5の時代においてもエスタークの伝説は語り継がれている
 
そしてエスタークを学ぶ過程で知り得た「進化の秘法」を自らに施したのである。だがその結果、マスタードラゴンの逆鱗に触れる事となり、遂には怒りを買って魔界に封印された、という訳だ。ちなみに4では進化の秘法を完全なものとするキーアイテム「黄金の腕輪」が存在する。ミルドラースがこの腕輪を回収していたのか、最新の研究によって腕輪が無くてもOKだったのか、については断定の難しいところだ。
 

  元人間が魔界の王として認められたワケ

 
ミルドラースがどれだけ優れた能力を持ち、王の器を持っていようとも所詮は元人間である。魔界での肩身は狭いだろうし、そんな彼を素直に受け容れられない魔物がいてもおかしくはない。そもそも魔物たちはミルドラースが人間だった事を知っていたのか?とお思いの方もいるかもしれないが、作中で魔界の住人がミルドラースさまは今じゃ万能の神だが、昔は人間だったってウワサだ」と語っている。
 
 
要するにバレていたのだ
もっとも、その後に「 だがお前、そんな事クチにしたら、途端にこの墓の下だぞ」と既に死んでいる彼が言っている
どこからかウワサが広まって、緘口令を敷かざるを得なかったのだろう
そんなミルドラースがどうやって魔界の住人の尊敬を集め、大魔王となり得たのか
 
 
まず第一に「大きな功績を立てて、自分を認めさせた」、第二に「進化の秘法を用いたから」という可能性が考えられる。
「大きな功績」とは、たとえばミルドラースがやってくる前の魔界には暴君がおり、恐怖政治が敷かれていた。ドラクエ7の吹き溜まりの町におけるスイフーを想像すれば分かりやすいだろう。それをミルドラースが討ち果たしたことで、魔王として認められた、というものだ。だが、それを示唆するようなエピソードは作中では一切語られていない。
完全な想像だが、ルドマンの先祖に封印されたブオーンは、かつて魔界の暴君でありミルドラースとの戦いに敗れ人間界へ流れ着いたのではないか、と考えた事がある。おやぶんゴーストのように魔界のはみだし者が人間界へ移住するという例もある訳だし(リメイク版)。ブオーンの謎も追って考えてみたいところだ。
 
余談はさておき、私としては第二の可能性の方が高いと考える。つまり進化の秘法を用いたからだ。それがなぜミルドラースのカリスマ化に結び付くかと言えば単純な話で、エスタークやピサロも進化の秘法を用いているからである。エスタークもピサロも伝説の魔王であり、多くの魔物から絶大な信頼と尊敬を集めたカリスマである。その偉業は5の魔界でも語り継がれているはずだ。
そんな彼らに偉大さを与えた「進化の秘法」をミルドラースが用いたとなれば魔物たちの見る目も変わるのではないか。たとえば「ミルドラース様はエスターク、ピサロの後継者である」「我々の王に相応しい」というように。
 
エスタークの存在は魔界でも認知されており、"さま"付けされるぐらいには尊敬されている模様
なお、このメッサーラはエスタークを「ミルドラースでさえ手が出せない大物」と評している
メッサーラなんぞに呼び捨てにされるあたり、ミルドラースのカリスマも絶対的なものではないらしい
自らの権威をこのような形で揺るがしているエスタークを身近に置いているミルドラースの迂闊さも気になるところだ
そこまでのリスクを冒してでもエスタークの存在がミルドラースには必要だったのか?
やはりこの点から考えても「進化の秘法の研究(神の力を超え、封印を破るため)にエスタークが必要だったから」と言わざるを得ないのである
 

  ミルドラースの予知能力

 

ミルドラースは未来を見通す力を持っており、「天空の勇者は高貴な身分の元に生まれる」とゲマ、イブールに予言している。彼らはこの言を受けて勇者狩りに乗り出すが失敗。そしてミルドラースの予言通り、天空の勇者は高貴な身分(グランバニア)の元に誕生。最終的に主人公たちとの戦いに敗れ、その命を散らす事となる。

 

 

だが、イブールによれば「自分が主人公たちに倒される」事もミルドラースの予言通りであったという。つまり、ミルドラースは勇者狩りに失敗することも、勇者たちによって光の教団が壊滅することも予知していた事になる。後に彼らの行いを「必要のないくだらない努力」と切り捨てたのも、これが理由だろう。

 

そんな都合の悪い未来が見えていた割には、自分が倒される未来までは見えていなかったというのも謎である。ともかく、ミルドラースはいつからこんな力を持っていたのだろうか。人間の頃からか、はたまた魔王になってからか。これも私の想像だが、人間の頃から持っていたのではないかと思われる。そしてミルドラースは本当に「自分が勇者に討たれる未来」を見ていた。だからこそ、「必要のないくだらない努力」と言いつつ、失敗する事も分かっていながら、わざわざ予言してイブールやゲマを動かし、勇者狩りを行わせていたのだ。そしてその不安こそが、ミルドラースが神になるという野心に目覚めるに至った、真の理由ではないか。

 

彼は人間の頃から見えていたのだ。自分を殺そうとする天空の勇者の影を。その恐怖はミルドラースの心に暗い影を落とした。そして死の運命から逃れるためには勇者を超える存在、すなわち神になるしか道はなかった。そうミルドラースは考えたのである。しかしその結果、ミルドラースは魔物に転落し、気が遠くなるような長い年月を魔界で過ごし、遂には天空の勇者に討たれることとなった。もしこれが事実であるとすれば、これ以上の皮肉はないだろう。

 

この意味深なセリフも「自分が勇者に討たれる未来」を見ていたと仮定すると、また違った印象を受ける

彼にとって勇者との対峙は、己の運命との対峙であり、このセリフも一つの決意表明であったのかもしれない

 

  ドラクエ5と運命論

 

余談だが、このような予知能力が成立するには未来が既に決定されている、という前提が不可欠である。つまり運命論である。実際、サンタローズで幼子の主人公が、青年期の自分と出会う場面は「既に未来が決まっている」からこそ成立するものである。また、パパスはラインハット城への道中、一旦引き返しそうになりつつも導かれるようにラインハット城へ赴き、結果命を落としている。終盤、主人公が妖精の城の絵画を通じて過去へタイムスリップし、パパスにラインハット城へ行かないように警告したものの、未来を変えることはできなかった。

 

パパスが一旦引き返しそうになったのもこの時の忠告を思い出しての事だろう

 

そもそも青年期の主人公が幼い自分に向けて「坊や、お父さんを大切にしてあげるんだよ」と告げている事からして、パパスの死は運命付けられていたと言える。

このように作中では既に未来は決まっているという運命論を肯定するような描写が存在する。(ミルドラースやイブールも運命運命言ってるし。)それを踏まえるとドラクエ5は「主人公が運命を切り開く物語」ではなく、「主人公が決して変えられない運命の過酷さを乗り越える物語」と言えるかもしれない。

 

  ミルドラースの正体

 

ミルドラースが元人間である事から、彼の正体は4のキャラクターの誰かではないか?と推察される事がある
その中でも物語終了後の行方がはっきりしていない4主人公が筆頭として挙げられる事がある
だが5に子孫のビアンカ、フローラ、デボラが登場している事から、物語終了後にシンシアか、他の異性との間に子を残している事は確実である
であれば波乱もなく無事生涯を終えたと考えるのが妥当ではないだろうか
そもそも旅を通じてあれほどの信頼できる仲間を得て、独りではなくなった4主人公が闇落ちするというのも考えにくいし、進化の秘法に手を出したばかりに理性を失い化け物に成り果てたピサロの末路を観ている主人公たちが進化の秘法に手を出すとも思えない
むしろミルドラースの正体として考えられるのは古代のエルヘブンの民ではないか?というのが、私の見解である
そう考える根拠をいくつか列挙しよう
  • 1.ミルドラースの邪悪な心を振り払うために立ち向かったのはエルヘブンの民である
  • 2.エルヘブン付近の海の神殿には魔界に通じる門があり、ミルドラースは神の怒りに触れて魔界へ封印された
魔王の誕生という大事件であるにも関わらず、他の国や地域には一切触れられておらず、全ての出来事がエルヘブンに集中している
(かつて世界を荒らしまわったと言い伝えられているブオーンとは実に対照的である)
ミルドラースがエルヘブンの出身者であればこれは当然の成り行きであり、事件がエルヘブンの内側で収まっている事の説明がつく
  • 3.「あまりにも心の闇は深く、もはや人間に戻す事はできなかった」
  •  「かつて神になりたがった人間がいた」という言い伝え
人間に戻る事ができなかったではなく、人間に戻す事はできなかったという点に注目
この事からエルヘブンの民はミルドラースを人間に戻そうと試みていた事がわかる
一種の搦め手だったとも取れるが、同郷のよしみとして彼らなりにミルドラースを救おうとしたのではないか?とも受け取れる
エルヘブンは神(マスタードラゴン)のお膝元の地であり、ミルドラースが出身者であればそれ故に神の力に関心を寄せたのではないか?とも解釈できる
  • 4.エルヘブンの民にはかつて魔物と心を通わせる力があった

現代では希少な力となっており、マーサとその血を継いだ主人公のみが継承している

ミルドラースがエルヘブン出身者であれば、彼もまた魔物と心を通わせる力を持っていた事になる

そしてこの力こそが、元人間でありながら大魔王へと昇りつめたミルドラースのカリスマ性の正体ではないか?

また、ミルドラースは未来を予知する力を持っているが、これも神の一族であるエルヘブンの民がもつ不思議な能力の一つだった、と解釈する事もできる