ひさしぶりに書店に立ち寄った。
ただブラリと。
すると意外な本に出会った。
『大江健三郎 同時代論集』(岩波書店)
の新装版。
まさかその論集が、
もう1度世に出るとは思ってなかった。
全10巻。
旧版の4巻を僕は持っている。
ひとつ挙げると、
第1巻『出発点』(1980/¥1,300)
4巻いっしょに広島の古書店で買った。
1巻、¥300。
大江さんがノーベル賞を受賞する前だったから、
安かったのだと思う。
受賞直後の大江本ブームの頃なら、
定価くらいしたかも知れない。
全巻買いそろえたかったけど、
それだけしか売ってなかった。
そしてそれ以後1度も、
その論集とは出会っていない。
発行された1980年は、
僕は結婚していて、
本を読む時間がなかったので、
滅多に書店に行くこともなく、
その新刊書を目にすることもなかった。
僕は旧版のデザインが気に入っている。
新書サイズ、函入り。
本体の厚さは15〜17mm。
巻によって違う。
表紙は布張りで、表に大江さんの恩師、
渡辺一夫が描いた農夫の絵がプリントされている。
カバーはパラフィン紙。
中ページは2段組。
装幀者名は書かれていない。
そんな本だけど、
とにかくずっと手に持っていて、
気が向くとどこかを、
ひらいてみたくなるような、
いとおしいというか、
可憐なというか、
そんなおもむきのステキなデザイン。
新装版は普通の文芸書サイズ。
たぶんB6判だと思うけど、
こちらも鈴木成一さんの装幀がステキ。
こちらの装幀で面白いのは、
中ページが旧版とおなじ2段組で、
書体もおなじのを使っていること。
ただ「現代風」ではないので、
若い人は違和感を覚えるかも。
新装版を手に取ってみて、
癌になる前なら、
残りの6巻を買って全巻そろえただろうな、
と思った。
いまはどんな商品も、
「寿命1年」と想定して、
買う買わないを判断している。
こないだのように、
とつぜん吐き気がして、
トイレに行こうと思って立ち上がると、
たちまちめまいがして、
そしてすぐに気を失うなんてことが起きると、
そのときはたまたま意識が戻ったけど、
いつまたそんなことがあって、
死んでもおかしくない、
と思わないわけにいかない。
いまはもう『言葉と物』で手いっぱい。
他の本は必要ない。
今日の言葉。
「そもそも5年間で、自分が7回、9回をやることなんて
想像もできなかった。人間として生まれて、
自分の想像を超えていけるのは、とてもうれしい」
ちょっと前にネットで読んだ、
カープの矢崎拓也投手の発言。
入団から5年間、
鳴かず飛ばずだった矢崎投手は、
6年目の去年、ようやく1人前に。
1セーブ、17ホールドという立派な成績。
今年はさらに成長して、24S、10H。
去年はおもに7回を、
今年は7回と9回を任された。
ブレイク前の5年間、
いまの自分が想像できなかったのは、
当然だろう。
そして「人間として・・・」というコメントが、
聡明な彼らしい。
僕も「寿命1年」だけど、
そのうれしさを味わいたいと、
つよく願っている。