こないだ書いた、

写真フォルダーを見ていて載せたくなった写真。

 

 

尾瀬沼。

撮影日は2003.7.15。

つまり、ちょうど20年(廿年)前。

 

こないだ、後日載せると書いたのは、

もったいつけたのではなく、

「記念日」の今日、

載せようと思っていたから。

 

撮影時刻は5:30。

朝食前に散歩に出かけると、

朝靄の立つ尾瀬沼の幻想的風景を、

撮りたい人が何人もいて、

岸辺に三脚を構えていた。

 

僕はみんなが撮りたくなる場所は嫌なので、

離れたところからこの写真を撮った。

幻想的ではないけど、

旅の思い出として気に入っている1枚。

 

前日、東武浅草駅10:10発の急行に乗った。

東京は土砂降り。

 

しかし電車が北上するにつれ雨足は弱まり、

13:07に会津高原駅(現会津高原尾瀬口駅)に降り立つと、

曇り空ではあったけど、

もう雨の気配はなかった。

 

これは良い滑り出し。

 

ところが、そう思い込んでバスの時刻表を見ると、

その思い込みはいっぺんに吹っ飛んだ。

何と、尾瀬の入り口、沼山峠行きが、

14:55までないのだ。

 

すぐにその日泊まる山荘、

尾瀬最古の「長蔵小屋」に電話。

事情を伝えて、夕食を取っておいてくれるようお願いする。

18:00の門限にはとても間に合いそうにない。

 

実際、沼山峠には17:10着。

チェックインは18:00を過ぎてしまった。

 

チェックインすると、

すぐに食事を出してくれたけど、

運んできたオジサンに、

「計画が甘かったね」

と言われた。

 

その言葉が嫌味だったのか、

初めて尾瀬を訪れた者へのいたわりだったのか、

今もわからない。

 

いずれにせよ、こちらが悪いので、

平謝りするしかなかった。

 

ところで沼山峠から、

尾瀬沼畔にある長蔵小屋までの道は、

前半が「山越え」、

後半がその季節、可憐なニッコウキスゲが咲き乱れる、

大江湿原を縦断している。

 

後半はいいのだけど、

問題は前半の山の中。

熊が出るのだ。

 

僕はそうとは知らなかったので、

熊よけの鈴もつけず、

無人の山道を、

ひとり能天気に歩いたのだけど、

いま思うと無謀もいいところだ。

 

その夜は疲れたせいか、

20:00に寝ている。

ところが目覚めたのは午前0時。

再度、熟睡はできなかった。

 

非日常的状況では、

普段あり得ないことが起きる、

という典型例だろう。

 

ま、とにかく、そういうことで、

8人部屋の2段ベッド上段で、

眠れないままじっとしていると、

やがて夜明けがおとずれた。

で、散歩に出て、

上の写真を撮ったという次第。

 

 

その日は尾瀬ヶ原の東端、見晴に移動し、

「原の小屋」に泊まった。

 

その山荘の売店で、

日本酒のワンカップを買った。

地元福島産の「榮川(えいせん)」という銘柄。

 

これが絶品だった。

琥珀色をしていて、

原酒的な深い味わい。

 

ところで、その銘柄、

今日、当時の日記を見てみるまで、

すっかり忘れていた。

日記に書き留めたことも。

 

癌になる前、

毎日酒が欠かせなかった頃、

尾瀬で飲んだあの美味しい酒を、

もう一度飲みたいものだ、

と何度思ったか知れない。

 

そのとき日記を見ていたら、

間違いなく注文したはず。

 

情けない話だけど、それが人生。

 

もう酒を飲むことはない。

忘れようのないあの美味を思い出して、

満足するとしよう。