おとといの土曜日に、
久しぶりに毎日新聞を買った。
目的は変わらず「今週の本棚」。
すぐに読むつもりが、
机の上に投げ置いたまま、
2日間が過ぎてしまっていた。
僕はよくやらかす。
今週は池澤夏樹さんの書評が載っている。
対象は『エタンプの預言者』というフランス小説。
「エタンプ」は町の名前。
作者はアベル・カンタン。
いずれも初耳。
池澤さんの紹介しているストーリーを、
さらに要約すると次のような感じ。
主人公は元大学教授の老人男性。
彼はある時ある無名の黒人詩人を発見し、
その詩の素晴らしさに惚れ込み、
世に送り出そうと評伝を書いて出版する。
ところが、黒人であることを強調しなかったために、
大変なことに。
レイシストと決めつけられ、大炎上。
最終的に彼は社会から抹殺されてしまう。
しかし騒動のおかげで彼の本は売れ、
数年後、名門出版社から、
その詩人の全集が出版されることに。
僕はそのストーリーにウンザリ。
自分はボロボロになるけど、
逆に願いが叶う。
そんな陳腐な仕掛けの小説なんて、
読みたくもない。
その手のものだけでなく、
最近は小説ではまず満たされない。
他のものを読んでいたほうが、
よほど充実感をおぼえるし、
心も落ち着く。
いま『アレクサンドリア四重奏』を読んでいるけど、
そちらも、我慢しつつ、と言っていい。
楽しく読めないのは、
主人公の女性「ジュスティーヌ」が、
かつての流行り言葉で言えば、
「プッツン女優」系だからだ。
そういうのもウンザリ。
ロレンス・ダレル作品は初めてなので、
まだ読んでみるつもりだけど、
そうじゃなければ、
とっくに投げ出している。
今日はダレルのほかに陶淵明も読んだ。
ひとつ勉強になる。
「歳月 人を待たず」
という言葉はよく聞くけど、
元は陶淵明の詩の1行だった。
「雜詩(ざっし)」其一(そのいち)の最後の1行。
知らなかった。
最後の部分を4行ほど引用する。
林田愼之助訳注。
盛年不重來 盛年(せいねん) 重ねて来たらず、
一日難再晨 一日(いちじつ) 再(ふた)たび晨(あした)になり難し。
及時當勉勵 時に及んで当(まさ)に勉励(べんれい)すべし、
歳月不待人 歳月 人を待たず。
若い時代は2度とは来ないのは、
1日に2回の朝が訪れることがないのと同じ。
時をのがさずに無駄にすごすな、
歳月は人を待ってはくれないぞ。
※「勉勵」は、学問に、
または遊び楽しみにつとめはげめ、
という2つの意味があるとのこと。
後者も面白いと思った。
「歳月 人を待たず」は、
英語のことわざもよく知られている。
「Time and tide wait for no man.」
いちいち書くこともないけど、
書いてしまった。
ところで、『陶淵明全詩文集』は、
超ひさしぶりの漢詩・漢文ということもあって、
新鮮だし、勉強になることも多いし、
いちおう楽しく読んでいるけど、
訳者の文章がプロレベルにないのが大きな問題。
書き直したい表現にしょっちゅう出くわすし、
ときに意味がわかりにくい、
説明があったりもするので、
読むたびに、もどかしさも生じるのだ。