その昔、磐梯山に登ったとき、
山腹の食堂で出会った地元の登山家が、
銚子は大都会だと思っていたら、
行ってみると、ちっちゃくて驚いた、
という話をした。
人口5万いくらの町に、
そのようなイメージをいだいていたということは、
銚子の知名度の高さゆえだろうが、
この手の勘違いはめずらしいことではない。
自分も初めて鎌倉に行ったとき、
同様の体験をした。
岬好きの自分は、犬吠埼に憧れた。
周囲に土産物屋が並んでいて、
雰囲気は好きになれないが、
太平洋に突き出た特別の地という認識が、
何度も足を運ばせた。
最後に行ったのは、去年の8月。
仕事終わりに東庄町から足を伸ばした。
雲行きが怪しく、
観光客は若い中国人数名だけだった。
しかし、それまでに訪れた日は、
いつも天候に恵まれていたので、
不穏なムードの犬吠埼も一興だった。
何年か前に銚子に向かったときは、
銚子電鉄に乗るのが目的だった。
自分は乗り鉄でも鉄道マニアでもないが、
銚子電鉄には、ずっと関心があった。
そのときまで乗らなかったのは、
単に自分で機会を設けなかったからである。
季節はちょうど今ごろ、
残暑厳しい、快晴の日だった。
終点の外川まで乗車した。
広島の市内電車を頼りなくした感じで、
ヨタヨタとした走りっぷりに、絶妙の味わいがあった。
下車すると、細い坂をくだって外川漁港に出た。
そしてそのまま海岸沿いを歩いた。
予定では銚子駅まで歩くつもりだった。
ほんの数年前のことなのに、
まだ若かったというほかない。
今ならそんな計画、立てるはずもない。
しかし、そのときも、
明らかに無謀な計画であることが、すぐにわかった。
真夏のような陽射しは情け容赦なく、
あっという間に、体力が尽きた。
結局、気力を振り絞って犬吠埼まで歩き、
犬吠駅から銚子駅行きの電車に乗った。
Tシャツは汗でビショビショ、
疲れ果てて、口も聞きたくなかった。
銚子駅に着いて、駅前の食堂に入った。
腹も減っていたし、
何より冷たいビールが飲みたかった。
ところが、メニューを眺めていると気が変わった。
それが間違いだった。
ビールより冷酒を飲みたくなって、そちらを注文した。
すると、運ばれてきたのは、なんと常温の1合瓶だった。
瓶に触れて常温とわかった、
あの唖然とした瞬間が忘れられない。
あらためてビールを頼めばよかったのだが、
そこまで頭がまわらなかった。
確かに熱燗ではないし、
熱くはない、つまりは冷たい酒であることは明らかだし、
店に落ち度はない、
と思いながら、生ぬるく味気ない液体を喉に流し込んだ。
銚子といえば、何よりその1件を思い出す。
インパクトがありすぎた。