もうひとつ昨日の予備校の話。

 

その予備校は、とくに自分が教えていたデザイン・工芸科は、

男子より女子生徒のほうが圧倒的に多数だった。

 

自分は夜間部を担当する年が多く、

毎日たくさんの女子高生と顔を合わせた。

 

それは楽しいことだったのだけど、

ひとつ弊害があった。

 

長く講師を続けていると、

毎年ひとつずつ女子高生とは年齢が離れていくのに、

自分も女子高生とおなじ年齢になったような錯覚が生まれ、

その錯覚は単に錯覚とはいえない感覚にしだいに変わっていき、

女性を見る基準が、

いついかなるときも女子高生になったのである。

 

つまり女子高生が女子大生になると、

ずいぶん老けてしまったなと、

女子中学生はまだ幼いなと、強く感じてしまうのである。

 

そして、中学生はもちろんだが、

大学生以上の妙齢の美女に対しても、

恋愛感情が生じなくなってしまったのである。

 

とはいえ、女子高生しか恋愛対象にならなくなった、

という話でもない。

彼女たちとは、ふたまわり以上も歳が離れていたし、

友達とか仲間という意識のほうが強かった。

 

つまり、自分の恋愛感情は、

いつのまにかどこかへ消えてしまったのである。

 

友達/仲間から、恋愛相談をよく持ちかけられた。

ときには度を越えた体験談を打ち明ける生徒もいた。

とくに聞きたいわけでもない、

クラスメイトのナマナマしい恋愛裏情報を、

くわしく耳打ちしてくれた生徒もいた。

 

ある日、アトリエのある階に行くと、

1人の生徒に、いきなり袖を引っ張られて、

廊下の端に連れて行かれた。

彼女は、周囲に誰もいないのを確認すると、

次のように悩みを語った。

 

先生、わたし困っているんです。

わたしがアトリエに入ると、

男子がみんなわたしのことを意識するんです。

わたしは普通に接してもらいたいんです。

 

きみの置かれた状況は充分に理解できる、としたうえで、

2、3アドバイスすると、納得して彼女は引き下がったが、

ちなみに彼女は、男子生徒の注目を集めるような、

端麗なルックスでは全然なかった。

 

とにかく、そのようなことが、

自分の周辺では、しばしば起きた。

そして自分は、ある意味、非常に恵まれた、

そういう日常にしだいに飽きてきた。

 

自分がその予備校を辞めてから、

生徒が連絡してくることはまったくない。

それは自分の望むところでもあったし、

寂しさなど微塵もない。

 

しかし、みんな元気にやっているのだろうか。

ときに思ったりはする。