またしても、おなじタグイの話。
初めての大学受験のとき、
三鷹の従兄の家に泊めてもらった。
従兄といっても、親子ほど歳の離れた大先輩で、
わが一族の出世頭だった。
頭もよくて、学歴もあり、
証券会社の幹部にまで昇り詰めていた。
しかし、幹部のわりには、家は古くて狭かった。
会社にあてがわれた家とのことだったが、
8畳、4畳半に3畳のDKが付いた一軒家。
夫婦と子供2人。
夫婦はさておき、子供たちは窮屈だったと思う。
自分は4畳半に据えられた2段ベッドの下に寝た。
上の段は小学生の弟。
中学生の姉は両親と一緒に8畳間で寝た。
ただでさえ余裕のないスペースに、
もう1人、大の男が加わったのだから、
大迷惑だったのは明らかである。
それでも気持ちよく迎えてくれた。
2段ベッドの上の壁に、絵が貼ってあった。
水彩画。大きさはA3くらい。縦位置。
黒のベタ塗りの背景に、
幅広の格子状の竹垣が描かれ、
竹垣に朝顔のような花が絡んでいた。
とにかく表現がお粗末。
花はしおれているように見えるし、
竹垣は竹と竹の連結部分がアイマイ、
背景がベタなので、空間が出るはずもない。
姉弟のどちらかが、もっと小さい頃に描いたのだろうと思った。
しかし、違っていた。
奥さんに聞いてみると、
主人の最近の自信作、とのことだった。
あんな賢い人が、こんなヒドイ絵を描くなんて。
多少なりとも絵心がないと、
絵は描けないんだなあ、と再認識した次第。