イスラム戦争 | 山中伊知郎の書評ブログ

イスラム戦争

 10年くらい前に、突然あらわれて中東の一部地域を「領土」にしてしまったイスラム国。今はISということになっているが、このイスラム国の成立を起点にしながら、イスラム世界と、それにたいする欧米諸国の対応や報道などについて触れていく。

 はっきり賛同できる点が一つ。なぜ欧米の報道が、自分たちの価値観にもとづいたフィルターでしか行われないのか、と疑問を呈し、しかもそれを日本は全面的に追随しているのはおかしい、と言い切っているところ。たとえば、イスラム国の指導者に対して、当時の報道は「容疑者」としているが、いったい何の「容疑」があったのか? 欧米の価値観押し付けに抗議して、「イスラムはイスラムとして生きるべき」と唱えるのが、果たして「容疑」にあたるのか? イスラムが女性教育を否定しているような報道ばかりされているが、本当にそうなのか? 女性がスカーフやヴェールで顔を隠すようにするイスラムの習慣は、「遅れた風習」なのか?

 一方、はっきり賛同できないのが一つ。著者は日本が平和憲法を守って、イスラムと欧米などとの橋渡し役になるのが平和への道、みたいなことを語っている。そりゃムリでしょ。世界中のどの国も、「自分たちにとって有利な状態での平和」を望んでいるわけで、みんなが武器を捨てて握手しよう、なんて感覚はない。かつてのアメリカも、世界一の軍備を背景にしていたから調停役にもなれたのだ。なんでこんな陳腐な結論をくっつけたのか、よくわからない。