安倍晴明の一千年 | 山中伊知郎の書評ブログ

安倍晴明の一千年

 いまや、平安時代を代表するスーパーヒーローともいえる陰陽師・安倍晴明の、その実像、ならびになぜ今になって脚光を浴びているかなどについて書かれた本。

 まあ、予想通りというか、そりゃそうだろうというか、実像でいうなら、当時は迷信ではなく「技術」の一つだった陰陽道を司る割に真面目に「宮仕え」に終始した官人、であるらしい。そんな、「オカルト都市・平安京」で、襲い来る魔物たちと死闘を繰り広げるとか、そういう派手な活躍をした人ではない。それが、全国各地に「我が源流は安倍晴明」と名乗る占い師やら祈祷師やらの類が増えていったことなどもあって、名前だけどんどんポピュラーになってしまったらしい。全国行脚なんてしてないのに「漫遊記」で有名になった水戸黄門みたいなもんか。

 さらにやがては「狐の子」だったとの伝説まで生まれて、江戸時代の歌舞伎にも登場し、今はまた小説『陰陽師』やマンガなどを通じて、美貌の貴公子のイメージが定着したらしい。

 結局、世の中の人達は、歴史の中で、自分たちがオモチャにして遊べそうな人間を見つけてきちゃ、その「人間像」をいじくりまわして楽しんでいるわけで、安倍晴明もそんなふうに選ばれた人物の一人ってことか。