昭和名セリフ伝 | 山中伊知郎の書評ブログ

昭和名セリフ伝

昭和名せりふ伝/小学館
¥1,944
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 タイトルから、昭和にハヤった言葉などを集めて時代背景をからめつつ、客観的に解説する歴史本、と想像していた。


 中身はまったく違う。全編、「反天皇制」で固められた、思いっきり「左旋回」の本。著者自身の60年安保闘争での活動、ベトナム戦争におけるアメリカ脱走兵の支援活動など、時代時代のほぼ最前線で「闘ってきた」様子まで語られている。

 

 実はこの著者については、『上海バンスキング』の作者で自由劇場の創立メンバーってくらいしか知らなくて、まさかここまで左側の人だったとは、この本読むまでイメージなかった。


 天皇は常に平和を願っていたのは真っ赤なウソ。太平洋戦争にしても、調子のいいころは「もっとやれ」って調子だったし、終戦にしても、「民草」、つまり国民のためよりも自分と天皇制がどう残るのかの方に腐心していた、と著者は訴えている。だから当然「戦犯」でもある、と。


 「私はどうなってもいいから国民のために」と言ったというマッカーサーとの会見も、天皇制維持のためにうまく作られたフィクション、皇太子ご成婚も戦後に天皇制を残すために打たれた究極の一手、と、どこまで徹底して天皇制、ならびに昭和天皇批判が続き、日本がそれゆえに様々な悲劇を生んでしまったことを綴っている。


 おいおい、昭和天皇って、そこまで政治力あったのかよ、買い被りじゃねぇの、と心配になってしまうほどだ。


 ただ、それだけ幹となるテーマが一貫していたので、確かに一本筋の通った「昭和史」本になっているのも事実。調べたエピソードを並べていくだけのものとは、明らかに一線を画している。


 ちなみにピックアップされた名セリフも、「堪エ難キヲ耐ヘ忍ビ難キヲ忍ビ」「あっそう」「ご誠実、ご清潔」「Xデー」と言った、皇室絡みのフレーズが多い。

 私、昭和天皇のキャラクターって好きなので、内容についてはとても同意できないが、読みごたえはあった。