江戸川乱歩の探偵小説『一寸法師』に登場するコスメをチェック! | 化粧の日本史ブログ by Yamamura

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◆資生堂の美白コスメや舶来品のポンピアンクリームがトリックに使われています!

 

こんにちは、山村です!


今回は、江戸川乱歩の小説がテーマ。

江戸川乱歩といっても、

『文豪ストレイドッグス』のキャラではなく、

本家本元の方ですからねビックリマーク

 

探偵小説(推理小説)にはトリックがありますが、

1926年(大正15)12月~27年2月にかけて、

「大阪朝日新聞」に連載された

江戸川乱歩作の『一寸法師』は、

化粧品のボトルについた指紋が

捜査をかく乱させるトリックになっている

小説です。

『一寸法師』は日本における名探偵の祖、

明智小五郎が登場する作品。


簡単に最初の部分のあらすじを紹介しましょう。


実業家山野大五郎の娘で、

昨年女学校を卒業したばかりの

三千子(19歳)が失踪し、

明智小五郎のもとに捜索依頼の話がきます。

 

その後、百貨店で人間の腕の部分が見つかり、

明智は、三千子の部屋にあった

化粧品のボトルについていた指紋と

死体の指紋が一致するのを発見します。


そのため最初は三千子が亡くなった

と考えられていたのですが、

実際には三千子は生きていて、

三千子の家の小間使いの、

小松という女性が殺されていたことが判明。


つまり、指紋のトリックに、

化粧品のボトルが使われていたのです。
 

三千子の部屋にあった化粧品について

明智小五郎が論評する部分を、

青空文庫の『一寸法師』より引用しました。


過酸化水素キュカンバー、

緑の水白粉、練白粉、花椿香油、

過酸化水素クリーム……みんな平凡だな、

和製の余りお高くない品ばかりだ。

それに三千子さんはどうも無定見に

手当り次第の化粧品を集めている。

上品な趣味じゃないね。

だが、こいつはポンピアンの舶来だ。

といって大して高級品でもないけれど、

脂肪の強いクリームだな」


過酸化水素キュカンバーは、

1917年(大正6)発売の資生堂の美白コスメ。

 

花椿香油は、1898年(明治31)発売の

洋風髪油「香油花つばき」のこと。


そして「過酸化水素クリーム」も、

資生堂の商品。

 

下の写真は資生堂の広告。

過酸化水素クリームなどが紹介されています。

 

1923年(大正12)『婦人世界』4月号より

 

また、化粧品が三千子のものではない理由を、

明智小五郎は次のように指摘しています。

「この過酸化水素キュカンバーだとか、

過酸化水素クリームなどは、

どちらかといえば油性の人に適当なものですが、

三千子は反対に青白いすさんだ皮膚だった

ということですから、

全く使用しなかったとは断言出来ませんけれど、

少しふさわしくない感じです。

それから色白粉ですが、

青白い人は薔薇色のを用いるのが

普通であるにも拘らず、ここにある水白粉は

赤ら顔に適当な緑色のものです。」
 

肌の色や肌質によって使う化粧品が違うことが、

トリックを見破る手段になっていたのです。

 

『一寸法師』のように、

化粧品が推理の手掛かりになる小説は

珍しいと思います。


そして、こうした描写の数々から、

安物あつかいとはいえ、

小説が書かれた大正末期から昭和初期には、

資生堂の商品が、

江戸川乱歩の小説にも使われるような

メジャーなコスメになっていること、

肌の色や肌質別の商品があることが、

もはや共通認識になっていることなどが

見えてきます。

 

昔の化粧風俗を知るのに、

小説は意外に役立つ資料なのです。

 

次回は5月30日頃更新予定。