江戸時代の恋愛小説『春告鳥』に出てくる化粧品ブランドをチェック! | 化粧の日本史ブログ by Yamamura

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◆有名なブランド白粉「美艶仙女香」のほか、ヘアオイルや歯磨きの広告も!

 

こんにちは、山村です!

 

今回は、江戸時代の恋愛小説(人情本)に

出てくるコスメについて。

 

江戸時代後期、都市に暮らす女性にとって、

歌舞伎や人形浄瑠璃などの芝居見物

最高の娯楽でしたが、

貸本も楽しみのひとつでした。

 

貸本とは本のレンタル。

江戸時代の本は高価だったので、

庶民は貸本屋をよく利用していました。

行商の貸本屋が家まで本を持ってきてくれるのです。

 

貸本の中で、

若い女性に人気があったのが、

男女の恋愛模様をテーマにした人情本。

 

色男でやさしい主人公

美しい女性たちが織りなす恋の駆け引きは、

ハラハラドキドキの連続ドキドキ

 

そんな人情本のベストセラー作家といえば、

為永春水(ためながしゅんすい)。

 

もともと本の出版を手掛けていた春水は、

作家業にも手を出し、

天保3~4年(1832-33)に出版した

『春色梅児誉美』(しゅんしょくうめごよみ)

が大ブレイク!!

 

合作も含めて、数々の人情本を出版しています。

下の図版は『春色梅児誉美』の主人公、

丹次郎と許嫁のお蝶(お長)。

江戸時代の美人とイケメンです。

 

本の巻頭のさし絵(口絵)は、

華やかな色刷りで、

当時のファッションを紹介しています。

 

春色梅暦』 天保2-3年刊 国立国会図書館所蔵

 

この『春色梅児誉美』にも

化粧品広告はあるのですが、

今回は天保7年(1836)刊の

『春告鳥(はるつげどり)』に登場する

コスメブランドをチェックしてみましたビックリマーク

 

『春告鳥』は豪商の次男坊鳥雅(ちょうが)

彼をめぐる女性たちの物語。

彼を取り巻く女性たちは美女ぞろいです。

 

たとえば、鳥雅と相思相愛になる侍女のお民は、

素顔が美しい16歳の乙女。

その美しさは次のように記されています。

 

「そもそもお民が肌目細(きめこまか)なること

白羽二重のごとく、

すべすべとせし生質(うまれつき)なるに、

今うがい手水(ちょうず)をつかい、

仙女香をすりこみしゆえ、

竜脳の匂い梅花のごとくかおるがごとし。

殊(こと)に口元かわゆらしく、

只(ただ)二三枚見ゆる白歯さえ、

丁子車のはみがきにてみがき上げ、

唇は紅の色より赤く、近まさりしてうるわしく…」

(『新編日本古典文学全集80 洒落本 滑稽本 人情本』より)

 

まず最初に描写されているのは肌の美しさ。

 

「白羽二重」とは、

平織の白いシルク生地。

お民の肌の白さやツヤ感を、

光沢のある白絹生地にたとえていますビックリマーク

 

江戸時代は肌の白さが美人の絶対条件。

『春告鳥』では「白羽二重」のほかに、

「色白くあざやか」「雪の肌」

「素顔の真白なるうつくしさ」

「雪より白き顔ばせ」などの表現が出てきます。

 

そして、そうした言葉が出てくる場面で、

さりげなく化粧品が紹介されているのですあせる

 

たとえば上の例にある

京橋にある坂本氏の白粉美艶仙女香などは、

初編から三編までで3回登場しています。

 

ほかに出てくる化粧品は、

松本の舞台香、笹屋の紅、初みどり。

 

松本の舞台香は、

人気の歌舞伎役者松本幸四郎の

油見世(化粧品店)で売っている白粉。

 

店は住吉町(現代の中央区日本橋人形町)

にありました。

 

春水が松本の舞台香と限定しているのは、

舞台香という銘柄の白粉を、

他の店(玉屋など)でも売り出していたので、

しっかり区別しているのです。

 

文政8年(1825)頃から、上方の影響を受けて、

江戸の庶民の女性の間で、

襟白粉(首につける白粉)を

顔より濃くつけるのが流行していました。

 

舞台香は役者が舞台でつける白粉。

濃くつくタイプなので厚化粧ができ、

襟白粉として使うのに最適だったのでしょう。

 

また、丁子車のはみがき

初みどり(髪の艶を出しフケを取る髪油)は、

春水が副業として売り出していた化粧品。

 

有名白粉にまぎれて、

自家製のコスメブランドをちゃっかり一緒に

紹介しているとは、なかなかの商売上手です。

 

この『春告鳥』は、コスメだけでなく、

髪飾りや着物の描写も実に詳細。

そんなところも女性の心をつかんだのでした。

続きます。

 

次回は2月10日頃更新予定。