◆川柳にある「仙女香やたら顔出す本の端」とはどういう意味?
こんにちは、山村です!
今回は、江戸時代の有名なブランド白粉、
美艶仙女香(びえんせんじょこう)
について。
現代では化粧品広告は、
テレビや雑誌、インターネットなど、
さまざまな媒体で展開されていますが、
江戸時代はどうだったのか
その答えは、基本は現代と同じと言えます。
江戸時代も後期にもなると、
写真代わりの浮世絵や、絵草子、
チラシや看板などの平面媒体のほか、
落語や歌舞伎のセリフなど、
当時注目されたさまざまなメディアを通じて、
化粧品のPRがおこなわれていました
こうしたメディアミックス型の広告宣伝の
バイブルといえるのが、
白粉のブランド、美艶仙女香です
浮世絵に登場する
美艶仙女香の広告については、
以前に書きました。
興味のある方は、
下のURLからご覧ください。
歌舞伎役者と化粧品広告 ② 役者が宣伝!美艶仙女香
浮世絵にみる化粧の風景 白粉化粧と広告
さて、今回、ご紹介するのは
絵草子(読み物)の中の広告です。
一例としてとりあげたのは、
文政12年(1829年)~天保13年(1842年)
にかけて出版された、
『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』
『偐紫田舎源氏』は、
柳亭種彦(りゅうてい たねひこ)が書いた
長編の物語
挿絵を担当していました。
内容は、一言でいえば『源氏物語』のパロディ本。
設定は原作と違って室町時代。
主人公は貴族の光源氏ではなく、
将軍足利義政の側室の子、
足利光氏(あしかが みつうじ)
と、かなり微妙な本ですが、
挿絵つきの物語は読みやすく、
女性に大人気でした。
下の図版は、『偐紫田舎源氏』の12編下冊。
左のページに美艶仙女香の広告があるのですが、
どこかわかりますか
(『偐紫田舎源氏』 第12編下冊 国立国会図書館所蔵)
広告のある部分を拡大して、矢印をつけました
文章の概要は次の通り。
「御薬おしろい 美艶仙女香、
白髪ぞめ薬 美玄香、
日々月々に相広まり、大江戸はさらなり、
遠国よりも多分御用仰付られ
ありがたき仕合に奉り候。
(中略)京橋南へ壱丁四ツ角、坂本氏」
要するに、
美艶仙女香と 美玄香が各地で大人気だと、
自画自賛しているわけですね
けっこう厚かましい広告です
当時の川柳を集めた「俳風柳多留」に、
・仙女香やたら顔出す本ンの端シ(121.31)
とありますが、このように本の隅っこに、
広告が入っていたのです
上記のように文中に出てくる以外では、
巻末の出版物案内に交じって、
これまた端の赤線で囲った部分に広告が。
「美艶仙女香 四十八銅」
「黒油美玄香 四十八銅」
「坂本氏」などと書かれています
(『偐紫田舎源氏』 第14編下冊 天保6(1835)刊 国立国会図書館所蔵)
広告を掲載した絵草子はたくさんありますが、
化粧品では圧倒的に美艶仙女香が
多いと言えるでしょう。
女性が好きな絵草子に広告を載せるとは、
かなり戦略的
マーケティングセンスに優れたお店は、
江戸時代にもあったのでした。
次回は、8月20日頃更新予定。