原状回復をしない場合の明渡完了の存否 (1)<原状回復バスターズ> | 原状回復バスターズ活動日記 03(5962)7660 

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原状回復をしない場合の明渡完了の存否 (1)


賃貸借契約が終了して貸室の明渡しを受けることになりましたが、貸室の内部は、クロスには煙草の焼け焦げが残り、柱も一部破損したままです。当社としては元どおりにするまで明渡しとは認めず、引き続き賃料を支払わせたいのですが、それは可能でしょうか。
(月刊不動産 2005.8月号より)

1. 賃借人の善管注意義務違反

 建物賃貸借契約を締結した場合、賃借人は賃貸借の目的である貸室を善良なる管理者の注意(善管注意義務)をもって管理し、賃貸借終了の際には、貸室を原状に回復して明け渡す義務を負っています。

 本件では、賃借人はクロスには煙草の焼け焦げの跡を付けており、柱も一部損傷しているというのですから、善管注意義務に違反し、原状回復義務を履行していないことは確かです。
 したがって、貴社は、賃借人に対して、善管注意義務違反を理由に、損害賠償としてクロスの補修に要する費用や柱の修復に要する費用を請求することができます。
 しかし、借家人が本来なすべき原状回復義務を履行しないまま建物を明け渡そうとする場合は、明渡義務について、債務の本旨に従った履行をしているといえるか否かが問題となります。
 仮に、それが明渡義務の債務の本旨に従った履行ではないと判断されるならば、借家人が原状回復義務を完全に履行するまでの間は、いまだ借家人からの明渡義務の履行は完了していないことになり、貴社は借家人が原状回復義務を完全に履行するまで賃料を請求し続けることが可能になります。

2. 原状回復義務の履行と明渡義務の履行との関係

 問題は、借家人は、貸室を原状に回復して明け渡す義務を負っているわけですが、原状回復を履行しないままで建物を明け渡す行為も「明渡義務の履行」といえるかという点にあります。
 この点は誤解されている方も多いと思われますが、「明渡義務の履行」という観点からみるならば、借家人は、賃貸借の終了した時点の状態で貸室を賃貸人に引き渡せば「明渡義務の履行」自体は行われたと解することになるのです。

 本来やるべき原状回復も行わないままでの明渡しなど、「明渡し」の名に値しないとの考え方もあり得るとは思いますが、法的には、特定建物の明渡義務の履行とは、特定建物をあるがままの状態で明け渡すことをいいます。建物明渡という債務に関していえば、それで債務の本旨に従った履行がなされたことになるわけです。

 したがって、借家人が貸室を原状回復もしないままで明け渡すと言ってきた場合であっても、賃貸人は、借家人の原状回復が未了であることを理由としては、その受領を拒否することは法的にはできないことになります。明渡しが完了した以上は、賃料支払義務は発生しないことになりますので、賃貸人は、賃借人に対して、原状回復の履行が完了するまで賃料を支払えという請求はできないことになります。

3. 原状回復義務の不履行に対する措置

 明渡しが完了したとしても、原状回復が不履行のままでは、貸室をほかに賃貸することはできません。
 原状回復義務の履行と明渡義務の履行は別個の問題ですから、明渡義務の履行が完了したとしても、原状回復義務の履行を引き続き求めることは当然ながら可能です。借家人がこれに応じない場合には、借家人の善管注意義務違反、原状回復義務違反を理由に、借家人に対し、原状回復費用相当額として、クロスの補修費、柱の修復費用額を損害賠償として請求することができます。

 これらの補修工事を行うためには相当の期間を要することになりますが、これらの期間中は貸室をほかに賃貸することができません。これは旧借家人が原状回復工事を履行しなかったことによって発生する損害ですから、賃貸人は、未履行の原状回復工事を行うのに必要な期間、賃貸建物を第三者に賃貸できなかったことによる損害として、その期間の賃料相当額を旧借家人に請求することが可能です。この賃料相当額の損害額は、補修工事に取りかかるのが遅くなったり、工事に必要以上に時間を要した場合にすべて認められるというものではなく、社会通念上、一般的に補修に要する期間の範囲において認められるということになりますので、注意してください。