(30回程度連載します。)
1 ビル賃貸借によって賃借人は法律上どのような権利を得るか
(1) 「借家権」とは何か
(借家権)
ビル賃貸借というのは、居住を目的とはしていない。
また、その建物は元来賃貸借することを目的として建てられたものであると言える。
その物件に対して、テナントを募集し、入居させる。当然、事業を目的としているので、
適正な賃料をテナントから支払ってもらうことが前提となる。
このように、ビル賃貸借では、経済的合理性を有する物件を扱うことになる。
この経済的合理性をもつ建物と借地借家法はどのような関わりを持っているのだろうか。
居住を目的とする建物と事業を目的とする建物では、基本的前提が全く異なっている。
旧借家法の時代から借家人の保護ということが強調されてきた。
それは、経済的弱者を救済することを目的としていた。
旧借家法で言うところの経済的弱者は借家人である。
社会経済的に、貸す側を「持てる者」として強い立場としている。一方、借りる側は弱い立場である。
実のところ、この弱者を保護するために旧借家法ができたのである。
借地借家法は、平成4年8月に旧借家法と旧借地法が一体化して新たに施行されることになった。
従前からの旧借家法も借地借家法も、借り手が弱い立場であるということを前提としているが、
ビル賃貸借にこの前提が妥当であるかどうかは疑問が残ると言わざるを得ない。
例えば、賃借人が大手企業で賃貸人が零細オーナーということも十分に考えられる。
必ずしも、「貸主=強い立場、借主=弱い立場」という図式は成立しない。
それでも、このビル賃貸に対して適用される法律は借地借家法である。
要するに、居住目的を前提として作成された法律が事業用に転用されている。
また、ビルの大小によっても適用が異なる。
保証金の額、目的なども超高層ビルと中小のビルとではかなり様相が異なる。
それでも法的根拠となるのは借地借家法である。
借家権は事業目的のものと居住目的のものを全く区別していない。
「借家権」と「賃借権」は同じことを意味している。
「建物に対して賃料を支払って借りる権利」のことを「賃借権」とも「借家権」とも呼んでいる。
基本的には賃貸借契約をする際、借りる側の権利を「賃借権」と呼ぶが、
家を借りてしまうと同じ事を「借家権」と言うのである。