ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男 

(2023年 米国 NETFLIX)

 

 
1963年 8月28日、
アメリカの人種差別撤廃を目指した公民権運動の集会「ワシントン大行進」。
20万以上の人が集まった伝説の平和的抗議行動で、
キング牧師の「 I Have A Dream! (私には夢がある)」の演説で知られる
歴史を変えた平和集会です。
 
 
その「ワシントン大行進」の仕掛け人で実質上の主催者なのに、

人種差別撤廃運動の「ビッグ10」にも入らず表に出てこなかった、

訳ありのカリスマ運動家・バイヤード・ラスティンさんの伝記映画です。
 

 

 

 

  アイハブ ア ドゥリーム♪
 

 

人種差別撤廃や公民権運動では、
キング牧師よりも早い時期から活動家として活躍して、
ガンジーを尊敬する非暴力主義者で切れ者で、感動的なspeechの天才、
知る人ぞ知る!のカリスマ運動家であった、バイヤード・ラスティン。
 

公民権運動の史上最大のビッグウェーブをつくる要となったラスティンさんを再評価する作品でした。

 
 

 

 

本で読みたい方はこちら

 
バイヤード・ラスティンの生涯: ぼくは非暴力を貫き、あらゆる差別に反対する

 

 

 

  オバマ元大統領夫妻の会社が作った映画なんだそうです

 

伝説の「ワシントン大行進」がどのようにして実現したのかを知ることが出来る作品で、

当時の公民権運動のむずかしさを実感できました。

白人に殴られても無抵抗で殴られ続け、

キリスト教の「左の頬を打たれたら右の頬を」を本当に実践して、
殴られながら周りの人達に「皆さん見てください、この暴力を見てください。これが差別です」と訴えながら、

無抵抗で殴られ続けながら、血を流す。

 

殴られ始めたら、今、現在進行形で行われているバイオレンスを周囲に「見よ!」とさけび、

即座に差別運動撤廃の運動に変えてしまう、

そんな非暴力運動で、平等を勝ち取ってきた差別撤廃運動家バイヤード・ラスティン。

 

アメリカの差別撤廃運動のレジェンドです。

 

ガンジ-自伝 (中公文庫 B 1-43 BIBLIO20世紀)

 

 

 

 

オバマ元大統領は「ワシントン大行進50周年記念式典」のスピーカーだったんですね。

オバマさんがラスティンさんを再評価する映画を作りたくなった気持ちもわかりますね。

感慨深いです。

 

 

新約キング牧師。「I Have a Dream」苦難に負けない精神力と巧みな演説、そして奔放な女性関係。多面的な魅力に迫る。10分で読めるシリーズ

 

【スピーチ動画案内付】オバマ大統領×キング牧師 ワシントン大行進50周年式典演説 ―オバマ大統領+キング牧師演説全文―

 

 
 
 

  バイヤード・ラスティンさんは、どうして表舞台から去ったのか

 

キング牧師は知っていたけれども、ラスティンさんの存在は全く知りませんでした。

 

「この方、どうしてビッグ10に入らなかったんだろう」という疑問は、この映画で解けました。

 

原因は「LGBT関連」でした。

 

今は法律で認められているので、「ゲイ、それがなにか?」というお話なんですけれども、
1963年当時は、まだ法的にも倫理的にも同性愛はNGだったようです。
 
そういえば、第二次世界大戦の暗号解読機を作る映画「イミテーションゲーム」でも、
ゲイの人が取締り対象になっていて、
「精神異常として治療を受けるか、刑務所に入るか」の二択を迫られてましたね。

 

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密(字幕版)

 

(運動の中心人物がゲイだとバレたら公民権運動ごと吹っ飛ぶぞ!)という状況で、
大変だったようです。
 
キング牧師は牧師さんで「告白」を聞くのがお仕事なので
(キング牧師が同性愛について、何かコメントを残してるかなあ)というのも気にしながら見ましたけれども
特に同性愛のことには触れず、彼の信念を高く評価するコメントを出していたようです。
 
 

  ぶっちゃけLGBT的な傾向は全人類、多かれ少なかれ、あるんだと思う

 

今は世界的にLGBTは認められていて、
日本ではマンガでBLものが流行ったり、最近のテレビドラマは右を向いても左を向いても
ゲイピープルのラブストーリーばかりになってます。
 
「いい話だなあ~」と思うのって、だいたいゲイカップルの話だったりします。
世間に理解されにくい立場で、それで愛を貫く、この世界とつながって生きていくというところで、
やっぱり話が深くなるんだよね。
 
でも、日本って、そんなにテレビで盛んにやるほど、ゲイの人多いのかな? 

 

バイヤードラスティン黒人歴史月間 Tシャツ

 

人口比でいうと少数派だと思うんですけれども。
外国人がドラマだけ見て日本を学ぼうとすると、
日本人男性の3割はゲイなのかな?という印象をもつかもしれません。
 
「恋愛」の本質は「魂」がシンクロするかどうかで、肉体は借り物にすぎないので、
一緒にいると、ホッとする相手、ずっと一緒にいたい相手、この人と一緒に生きていけば、死ぬまでハッピーでいられる!と直感した相手、「家族としてこの人と一緒に生きていこう!」と決めた人の、魂の器である肉体の部分が、異性でも同性でも、最終的には、どちらでもいいと思うのですが、1963年当時でも、おなじように考えてる人、多いと思うんですよね。

 

 

 

 

  主演男優賞ノミネートのコールマン・ドミンゴさん

映画のラスティンさん、おそらく本人にかなり寄せてると思うのですが、

なんだか、映画の冒頭部分で出てくるラスティンさん、すごくカルい! んですね。

 

最初(あれ?エディ・マーフィーかな?おじいちゃんになったなあ)と思うくらい軽いんです。

軽妙なトーク! リズミカルで、ノリがいい。

だから、ちょっと軽薄そうにも見えるんです。

 

 

よく見てると、エディマーフィーじゃないんですよね。

演じてるのは、コールマン・ドミンゴさんという役者さんだったんですね。

 

エディ・マーフィーだったら、いきなりブロンクスな感じで崩してくるのに崩れない。

下品さはなくて、ダンディなんです。

(あれ?鈴木雅之っぽいぞ)とか思い出して(鈴木雅之さんがダンディな黒人を模してるというのが正解)、

 

それで、話が進行していくうちに、公民権運動の話や黒人が虐げられている現実や、抵抗する話が出てくると、

今度は「いかりや長介」さんに見えてくるんです。

 

いかりやさん、名優でしたよね。

哀しさや優しさや全身からにじみ出てくる俳優さんでした。

 

ストーリーも追いながら、私の頭の中ではドリフの回想が同時進行で始まって、

どうしてドリフを思い出しながら、この作品を観てしまったかというと、

 

この映画、当時のアメリカンJAZZが劇中ふんだんに使われているのですが、

それがドリフが好んで使っていた「音」で、すごく馴染みのある「音」なんです。

 

ドリフがコピーしてた音楽、ホットでアシッドなJAZZが冒頭からかっこよくつかわれていて、

(ドリフターズの皆さんが青春時代にこの時代のアメリカの音楽を聴いて、アメリカ文化を吸収してたのかあ)という

ドリフへの理解が同時進行で進んでいくんです。

 

日本人があこがれていたアメリカで、こんなことが起きてたんだという複雑なアメリカの歴史も理解できて、私はいかりや長介さんの魂とともに、この映画の一緒に見てる気分になって、どんどんこの映画の時代に没入してしまいました。

 

ドリフのコントで聞いていたJAZZのトランペットの「ギョ―!!」と啼音が、1963年のアメリカにタイムスリップするトリガーになって、一気にこの世界に没頭しました。

 

 

ドリフターズって、ビートルズの前座をつとめるクラスのバントで、

ミュージシャンなんですよね。

若い世代の皆さんは、もうそういうことを知らないらしいです。

 

 

 

  非暴力の運動家は無抵抗で血だらけでピース

 

ラスティンさんって、なんだか、にこやか!なんです。

 

非暴力!だから無抵抗!

 

殴られても非暴力で殴られ続けて、「みなさん見てください、これが差別です」と訴えながら殴られ続けて

道行く人に殴られる姿を見せるという「人種差別撤廃運動家」なんです。

 

なんだかもう血だらけで、にこやか!なんです。

もう不気味で仕方ない。

 

その不気味さというのは、表現すると以下の不気味さでした。

 

非暴力の精神と対話 (レグルス文庫 238)

 

非暴力を実践するために: 権力と闘う戦略

 

柔和すぎる笑顔が、媚びを売るようでもあり、軽い!

なにかをごまかしているようでもあり、狂気のジョーカー的でもあり、

ジョーカー的でありながら、気合を入れて柔和な笑顔を取り戻して、

さらに軽妙で、ものすごく、変な感じ。

胡散臭いというか、不気味。

 

ああ、なんかいや…。背筋が凍るかんじ。

これが、この人の「不屈」。

 

沖縄の瀬長亀次郎さんは「不屈!」の時は激オコしてましたからね!

彼も非暴力で平和的行動の人でした。

この映画を観た沖縄の人は「ラスティンが瀬長亀次郎に見えた」といいました。

瀬長さんは常に燃えてる闘士という感じの方で

、デモや集会の時以外は、おだやかで優しくて、お年寄りから子供まで、皆の人気者でした。

 

 

 

 

 

  カリスマ・カリスマ・カリスマ!

 

でも、そこからどんどん変わっていって、

カリスマ「運動家」としてのラスティンさんどんどん本領を発揮されていって、

隠していたカリスマ活動家のリーダーの顔に戻っていくという、

途中から尊敬!しかなくなってくんです。

 

憧れの存在、すばらしいリーダーだ!ってワクワクするんです。

 

彼の軽妙なリズミカルなトークが、天才アジテーターの、それだったと気が付くのに時間はかからず、

エディマーフィーのような明るいオーラは天才的なカリスマ運動家、

20万人を扇動させるだけの「人たらし」のサインだったと気が付くんです。

 

それで、この運動のリーダーが「ゲイ」だということをスクープすることで、

黒人解放運動を潰そうとする人達との闘いがなんだか無慈悲でエグイんですね。

それで、表舞台から去る。

 

去るけど、運動は絶対にやめない!という。

 

神はいないのか。キング牧師よ!という。

 

本当に、コールマンドミンゴさんのラスティン、見ごたえありました。

 

コールマン・ドミンゴさんは、「マ・レイニー…」のバンマス?や、「ビールストリートの恋人たち」の彼女のお父さん(最後に「伝家の宝刀」と泣く泣く泥棒を始めてしまうパパ)を熱演されていた役者さんで、売れっ子俳優さんのようです。

最高の演技だったと思います。

 

 

 

  あれ?「アメリカン・フィクション」の主演男優賞候補の人も出てる!


それで、この作品にはもう一つ、ぶったまげるポイントがあって、
「アメリカン・フィクション」でセレブな黒人小説家を演じて主演男優賞にノミネートされているジェフリーライトさんが、

スーパーエリートでドスの効いたパウエル下院議員の役でご出演されていて、

これが怖い!んです。

 

大変なカメレオン俳優! 

同じ人に見えない!

 

007カジノロワイヤルではFBIの捜査官を演じられていたり、男っぽい!ので、あの小説家の先生だと分かりませんでしたけど。

 

こちらの映画でも「圧」がすごい! 

「アルカポネか!」という演技をされていて、

「アメリカン・フィクション」の方の温厚なインテリ小説家と同一人物とは思えません。

 

これがハリウッドの「主演男優賞」ノミネート俳優たちです。

 

すっごーい!

 

カメ―レオン♪ ライト!

 

 

  キング牧師の名演説「 I Have A Dream! (私には夢がある)」

 

この作品、なぜか作品賞にはノミネートされてないんですよ。

(共和党支持者の協会員は推さないと思うので、当然かも)

 

ですが、力のある作品で、後世に、この先100年も200年も見続けられる作品のはずだし、

今後、学校の授業で見せたりするような作品なのに、「作品賞にノミネートしておけばいいのに」と

ちょっと思いましたよ。

 

沖縄の「米兵による少女暴行事件に対する抗議行動」とか「沖縄本土復帰運動」は、

このワシントン大行進や人種差別撤廃運動のデモ行動などを参考に行われてたんだなというのが、

観てるとよく分かってしまって、ちょっと泣きそうになりました。

 

私のおじさん、沖縄本土復帰運動の運動家だったんですよ。

よく沖縄で「大行進」スクラム組んで、歩いてたんですよね。

 

ああ、思い出してしまった。

我々の「民主主義」を守ろう!

 

 

 

それで、歴史に残る今作のために、 I Have A Dream! (私には夢がある)」コピペしてきました。

 
1963年 8月28日、ワシントン大行進でのキング牧師の名演説
I Have A Dream! (私には夢がある)」
 
I have a dream that one day on the red hills of Georgia, the sons of former slaves and the sons of former slave owners will be able to sit down together at the table of brotherhood.
I have a dream that one day even the state of Mississippi, a state sweltering with the heat of injustice, sweltering with the heat of oppression, will be transformed into an oasis of freedom and justice.
I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character.
I have a dream today!
I have a dream that one day, down in Alabama, with its vicious racists, with its governor having his lips dripping with the words of "interposition" and "nullification" -- one day right there in Alabama little black boys and black girls will be able to join hands with little white boys and white girls as sisters and brothers.
I have a dream today!