バービー(2023年・米国・ワーナー)
リカちゃん人形派にとってTVCMを大量投下してのバービー人形発売開始は黒船来襲だった
バービーハウスを持ってる子はほとんどいなくて、バービーちゃんも混ぜて遊ぶときは「リカちゃんハウス」を使って、バービーハウスはなかったです。お医者さんの家の子供の部屋で一回みたことがあったかな。あれは豪華でした。
「バービー」に特化したトイストーリー、人間の心が芽生えてきた人形の同一性障害的な苦悩
この映画、今年のアカデミー賞に何部門もノミネートされているそうです。
(作品賞、助演男優賞、助演女優賞、作曲賞、衣装デザイン賞、脚色賞、美術賞)。
なぜか主演女優賞と監督賞はノミネートされなかったんだそうで、
米国アカデミー賞、選考基準がよく分からないな…と思ったりするのですが。
助演男優賞にノミネートされたバービーのボーイフレンドの「ケン」の役をされたライアン・ゴズリングさんの演技は、頭が空っぽのお人形イケメンと、覚醒後のイケメンを見事に演じ分けていて、歌も最高にセクシーでキュートだったので、これは「助演男優賞ノミネートされるだろうな!」という納得の演技でした。
また、助演女優賞にノミネートした、普通の主婦で働く女性「グロリア」を演じたアメリカ・フェレ―ラさんは、このストーリーの鍵になる人物で、彼が扇の要、ゾクゾクする入魂の演技をされていて、これも「これは絶対助演女優賞ノミネートされるぞ!」と映画を観てる瞬間、確信してしまうくらい、良かったです。獲ってほしいなあ「助演女優賞」。
衣装デザイン賞、美術賞のノミネートは、これもやっぱり納得です。
だって「超ハッピーなバービーワールド」をリアルに作り込んでいるのですから。
バービー人形の世界自体がもともと「最高!」なので、それを最高の高揚感で映像化してくれた、バービーワールドに対するリスペクトをひしひしと感じられました。
「pink!」の世界にひたって恍惚とするこの感じ、秀吉が黄金の茶室を作った時に、千利休が褒めた「色」に圧倒されることで体感する不思議な力を賞賛したという話を聞いたことがありますが、それとおなじで「pink」の世界にひたりきると、ウキウキする高揚感で細胞の一つ一つが活性していくような多幸感に満たされて、これはすごい!
お見事!でした。
日本人がアイドルの世界にハマって抜けられなくなる、「キャピキャピ」の中毒性。
泣いてる女の子を笑顔にする魔法、それはキャピキャピ。
人は一面ブルーの世界に身を置くと(海と空)心が解放されるとか、一面緑の世界(森の中)に身を置くと穏やかな気持ちになるとか、色の持つ力を最大限に活用して作り上げたハッピーな世界。バービーワールドは「ハッピーの楽園」で、それを映画の大スクリーンに登場させてしまったのは、やっぱりすごい!
虚構の世界で生きる者として(人形だから生きる者じゃないけど)、若きウエイテルじゃないけど、人形が悩みだす
そこからの、バービー批判が容赦なく始まるストーリーで、素直で明るくて前向きなバービーさんが、お人形なのに批判の全てを受け止めて、苦悩して、人間的に成長をしていく良いお話なのですが、「成長しても、あなた人形じゃないか!!」という矛盾と、「ハッピーワールド」の永遠のセンター、世界的アイドルのバービー、どうする?!!
まあ、私たちと子供時代一緒に遊んでたバービーが、人間と同じように考え出してしまうのが、またコミカルなのですが、これ悲観的な人が見たら、号泣するストーリーで、だけど、「楽しんでみてください」という制作者の思いがたくさん込められており、これはあまり、深刻にならず、楽しみながら、さくっと見た方がよいと思いました。
心を無理させないで、難しいこともあまり考えないで、ふわっとした気分のままで見ても全然OKなように作られている、良い作品だと思いました。
「ハッピーの象徴」のような人形を作ってしまった、大人たちの深い思いの吐露も、ところどころ登場してくるし、バービー批判(ルッキズムを増長させたとか、旧慣に基づいたジェンダーバイアスの固定化をさせているといった)に対しても、映画の中で真正面から問題提起して、ルッキズムのシンボルとされた白人金髪のバービー(オリジナル)自らが行動を起こす!という、この自己批判と改革の精神、明確な意思表示はさすが自由の国アメリカ!
グローバルカンパニーは常に自己批判をして、反省したら前に進む
アメリカの企業は批判を受けたら正面から受け止めて、どんどん自分たちの改善の取り組みや、出来ることを全力でやってきます。マクドナルドも昔から「体に悪いから食うな」という批判を受けて、マクドナルドのメニューに含まれている化学添加物や脂肪の量など、全て公開しました。日本の食品の成分表示、あいまいな表記になってるもの、わりと多いですよね。「隠さず公表する」マクドナルドは、問題点を明確にするから、逆につきあいやすい。だから諸外国で受け入れられる、これが世界的企業の姿勢。
日本の企業もこれから、グローバルカンパニーになるべく企業努力して、日本のものづくりを発展させて、海外に販路を拡大していかなくてはなりません。明るく努力家で夢をかなえるバービーには販売元のマテル社の企業信念が盛り込まれており、この姿勢には学ぶところが多いです。このバービーちゃん人形一つとっても、世界の企業の姿勢が見えてくる。コメディタッチなのは、エンターテイメント作品だからで、その根底に流れているのは、子供たちの健全な心身の成長を願う子供の玩具メーカーの「すべての子供たちに夢を」という願いなので、経年劣化が始まった初代バービーとケン、多少皺が目立つ二人の自分探し。時代は変わる。
多様性の文化が花咲く米国の企業が世界に訴えるのは「考え理解することの大切さ」
にしても、シャンチーの シム・リウ さんがアジア人の「ケン」で登場した時は、私が覚えてる着せ替え人形の彼氏に激似で、リカちゃんの彼氏だか、アジアン人のケンだか、どちらかのボーイフレンドに、ともかく激似で、大笑いして、笑いがとまらなくなりました。ちょっとマッチョすぎて、それもご愛敬なんでしょうね。私もアジア人なので、アジア人の「ケン」が出てくると気持ちが上がりました。世界中の国の人達がこの映画見て、多様性のある「ケン」の集団の中に「あ、私たちのケンがいた!」と喜んでいるのかもしれません。
世界で戦争が起きても、子供のお人形遊びは国境を越えて、守られる、守りたいと誰もが望んでしまうものだと思います。
だからこその「バービー」、いい作品でした。
コロナで世界が疲弊して、バービーだけ能天気というのも、そりゃ違うでしょうと。
人形だって人間の心に寄り添いたい!
最近のバービー人形さんって、車椅子のバービーさん、ダウン症のバービーさんと、
多様性尊重社会のリーディング・ドールとして、21世紀の愛ある地球の仲間のリーダーになっているようです。