君は恋人(1967年 日本 日活)

 
日活を代表する青春スター・浜田光夫さんの、復活をお祝いして製作された記念映画。
(飲みにいったクラブで乱闘騒ぎがあって、飛んできたグラスの破片が目に刺さって、長期入院されていたんだそうです)
 
 
「復活おめでとう!」のご祝儀で、スペシャルな友情出演のスターが100人近くいて、
ストーリーはあるんだけど、ゲストが豪華すぎて、普通のストーリーでは収まりがつかなくなって、ストーリーがとっちらかってしまったものを、どうにかこうにか、ぎりぎりの線でちゃんとストーリーが成立しているという、脚本家泣かせの、
見はじめて10秒で「なんだこの作品は!」と叫んでしまったのですが、
奇妙なんだけれども、日活の王道路線! 日活まつりか?!な、オールスターズのてんこ盛り!
こいつはおめでてえ~や♪な、映画業界コメディ・ムービーです。
 
90分くらいの映画なのですが、
見ながら、15分に一回くらい「うひょ~!」と絶叫してしまう、変な映画でした(爆笑)
 
 
浜田光夫さん、日活の看板スターだったのに急に作品少なくなったなあ……、なんて思ってたのですが、
名古屋のクラブで乱闘に巻き込まれて、グラスの破片が目にささって、長期入院されてたのは知りませんでした。
失明の危機だったんだそう。
 
 
それで、400日ぶりの映画復活!
映画は、浜田光夫さんが「日活」に帰ってくるところから始まります。
 
「おかえり~♪」と役者さんたちに囲まれて、照れ臭そうにしてるみっちゃん。
 
400日ぶりの現場復活。
という、リアル浜田光夫さんの復活ストーリーなんですが、そこに、撮影するという「映画」の世界の話にパパッと切り替わっていきます。
 
日活の楽屋の話と、映画の中のストーリーが交互に進んでいく。
これ、脚本家さんの腕だなあ。
すごい上手です。
 
劇中の映画のストーリーは、浜田光夫さんの代表作の、おそらく「川崎近辺の工場ではたらく旋盤工のみっちゃん、母子2人暮らしの貧しい家で、明るくて前向きに生きるみっちゃん」を想起させる「みっちゃん」で登場します。
 
 
これ「みっちゃん」が演じてきた戦後の高度成長期を懸命に生きる若者!の典型的な設定です。
日活、「みっちゃん」を魅せにきたな♪

ということがすぐわかります。

 
母は、日活の母「清川虹子」さん♪
 
清川さんって、ライオンのお昼のトークバラエティ番組「ごきげんよう」でサイコロ回して大人気でしたね。
そういえば、ごきげんようって、日活の大スターがガンガン出てました。
あれ、すごい番組だったな。
 
舟木一夫さんが親友の役で(浜田光夫さん主演の映画に舟木一夫さんが親友の役を務める映画があるんですが、それを思い出させる形での出演でした)。この辺は、浜田光夫さんの作品のコアメンバーなので、「よっ!待ってました舟木一夫さん!」と、歌のシーンを待って、まったり~♪
 
「貧乏は嫌だ!」とやくざを目指し、新宿の街でチンピラの真似事を始めて、ヤクザの世界に身を沈めてしまうのか! それを阻止するラーメン屋のマコちゃんとみっちゃんのお母さん(清川虹子さん)という、劇中映画の展開も気になる。
 
そこで、現実の問題、この作品、退院復活お祝い映画なので、友情出演者の数が「うそっ!」というくらい多くて、はっきりいうと、日活の楽屋ストーリーと劇中劇の2つのストーリーがあるのに、2ストーリーだけだと友情出演者の出演枠を用意できなくて、いろいろ崩壊していくので、「日活の中に出入りする人たちとして」と「撮影する劇中映画のストーリーの登場人物として」と、「テレビ番組に浜田光夫がゲスト出演する時のテレビ局まわりの人たち」「劇中映画のストーリーで、レコード会社が出てきて、レコード会社の中の人たちとして」、「劇中映画の中で、流しの歌手を出して、ミュージシャンはこのあたりでまとめてご出演!」等々、これで、膨大な数の友情出演者さんを、どっさりどっさり、きっちり出演していただいてました。
 
これ、大変だったはず!
プロデューサーは水ノ江滝子さん。
 
で、日活の看板スターも、こぞって友情出演してるので、石原裕次郎さんが、浜田光夫さんの作品を撮影する「監督さん」の役で出演されていたり、渡哲也さんが「脚本家」の役で、菅原文太さんが、劇中のみっちゃんが歌手デビューする時の「音楽プロデューサー」の役、高橋英樹さんが、劇中グレたみっちゃんを逮捕する「警官」の役などなど、豪華すぎる役者陣が、「あっ!こんなところにいた!」と、出てくるたび、笑ってしまいます。「うそっ!」というくらい、わんさか出演されています。
 
これ、関係調整大変だったろうなあ。役者さんや芸能人は「格」があるし、どれだけ気をつかって、どれだけ頭を痛めたんだろう。
 
また、きれいどころも花盛りです。
 

日活三人娘の和泉雅子さん(マコちゃん)、吉永小百合さん、松原智恵子さんがみつおさんを囲って、それぞれ登場、特別出演されています。だってお祝いだもの!

 

 

また、今回は「みっちゃんがグレてヤクザに?!」というお話なので、悪役商会の皆さんも「全員集合!」

これでもか!ってくらい、悪役が大暴れしてます。それも新宿の街で。

 

ハードボイルドなみっちゃん!

目がランラン燃えています。

 

でも、事故で片目見えてないんだそうです、浜田光夫さんは熱い演技で観客の心を燃やす役者さんなので、ご苦労だったでしょうね。だから、復活時も目が弱ってて、光がまぶしくてサングラスをかけるしかない状態だったんだそうです。それでまた、ヤクザっぽく見えたんでしょうか。今回のみっちゃんは映画のストーリーの後半はずっとグラサン姿です。

 

これ、浜田光夫さんがサングラス姿で日活に戻ってきて、「かっこいいよ!似合うよ!グラサンみっちゃん!で売り出そう!やくざ映画やっちゃう?!」みたいな流れ、だったんじゃないでしょうか?!

(と勝手に想像してしまいました。)

 

グラサンみっちゃん、イカシテル~!

そういうことを思いながら、豪華出演陣の怒涛の出演が続いて、
これ、よく一本の映画にまとめたなあと感心しますが、すごい職人技で脚本がまとまっていて、ぶっちゃけ「崩壊」してたと思うし、「なんなんだ!この映画は!」と、知らない人がみたら発狂してしまいそうな、ストーリーなので、見る前に事前知識が必要ですよこの映画。
 
 
そうそう、劇中で「脚本家」を演じた渡哲也さんが、脚本書きなおし書きなおしの指示が入りまくって、渡さんブチ切れる!みたいなシーンが、映画の間、何度も入るんです。
 
これ、この作品の脚本を書いた脚本家さんのリアルを、「こうなりゃままよ!」と脚本に書いてしまったんじゃ?!
「これがリアリズムよ!」ってなもんよ!みたいな感じだったんじゃないでしょうか(爆笑)
 
脚本家がキレようとも、友情出演の皆さんはおかまいなしに、わんさか!わんさか!出てくるので、それぞれにビッグネームな人たちで、「日活は紅白歌合戦でもやる気か?」なくらい、現場が大盛り上がりだったでしょうね。
 
ジャニーズがウエストサイドストーリーのジョージチャキリスの踊りを披露したり、光男さんが坂本九さんと一緒に歌をうたったり、田辺昭雄とスパイダースが出てきて、ストーリーをぶっこわしてハチャメチャ!
 
堺まちゃあきや、井上順、ムッシュかまやつの若い頃の映像が貴重。
こいつらぶっとんでる!!!
 
まちゃあき!!アホや~!!
 
ムッシュや井上順さんも、むちゃくちゃでんがな!な展開。
面白いやら不気味だわ、やたら明るいわ、サウンドは最高!で、
スパイダースって革命児集団だったんだなあ。
田辺昭雄って書いてあるけど、もしかして「のちに田辺エージェンシーの社長になった人?」
 
すっごーい!初めてみた田辺エージェンシーの社長。
 
 
浜田光夫さんも、むちゃくちゃ嬉しそう!
いいなあ、浜田光夫さんの笑顔。
 
これだなあ。太陽みたいに笑う! 戦後の日本の若者を代表する笑顔!
汗と涙にまみれて、生きる喜びを感じながら生きる、100%の笑顔!
 
私は浜田光夫さんのことを、リアルタイムで見てたわけではなくて、VODでうちでプロジェクターでコツコツ昔の映画を観てる50代の映画オタクだから、浜田さんのことよく知らないんです。
 
が、映画というのは当時の街の様子もそのまま映っているので、当の時代の空気を感じることが出来ます。
 
浜田光夫さんが主役を演じてた映画に出てくる日本は、敗戦後、荒廃した焼野原にバラック小屋が立ち並び、高度経済成長で日本を復興させようという人たちの努力で、大変なスピードでビルが建ち始めた「復興する日本」なんです。
 
そんな日本で、夢と希望を胸に必死で生きる若者の象徴が「浜田光夫」さんで、必死で生きる彼が、号泣したり、顔をくしゃくちゃにして大笑いしたり、モーレツに怒ったり、人の優しさに感激して感動してたり、はたまた恋をしてみたりする姿に、多くの日本人が共感していた。
 
背はそんなに高くないけれど、背が高くないというのが特に「戦争を知ってる子供」だった証でもあるので、
だからよけいに、日本の復興期を生きる若者のアイコンとして、必死で生きる若者の姿を生き生きと輝かせて魅せてくれる。
 
浜田光夫さんは「くじけてもまた前を向いて生きる若者」の代表だったんじゃないかと思うんですね。
 
日活の皆さんに愛されてるんだなあ浜田さんって。
 
和泉雅子さんの、映画の中でいつもロマンスの相手役を務める山内賢さんも、お祝い映画だからアホな青年の役をやってたり、
いつもは山内賢さんの彼女役の和泉さんもみつおさんに惚れてるし、44作も共演した「吉永小百合といえば浜田光夫」と言われた、浜田さんのロマンスの相手役吉永小百合さんも教会のオルガン弾きで、「みつおさんの初恋の人」枠でご出演。
 
みつおさん、モテモテ~♪
大大大ご祝儀映画!
 
なんかレア映像のオンパレードなんです。
吉永小百合さんがウエディングドレスが見られたり、中村八大さんがピアニストで出演されてたり、レコード会社の偉い人に小林明さん、岡田真澄さんがオネエの芸能マネージャーの役をされていたり、初代ジャニーズが「ウエスサイドストーリー」のジョージチャキリスの踊った名シーンのダンスをいきなりご披露してくれて、ビシッとミュージカルシーンが決まっていたり(これをみるとジャニーズが日本の芸能界のど真ん中で君臨できた理由が理解できます。別にジャニー喜多川の政治力だけじゃないです)、流しの歌手として荒木一郎さんや初代ジャニーズさんが新宿の流しの歌手でうたってたり。
 
なんだか、いきなり!な展開が多くてすごく変!なんだけど、すばらしく、豪華で楽しい。
 
喜びや悲しみが頂点に達した時、人ってくずれるんだそうですね。もろもろが。
パバロッティの歌が、感情の高まりがピークにいくと、譜面の音から音が外れるんですね。
あれがいいんですね。
 
警察の人も言ってました、「(事件など)真実を語る人の言葉は、とりつくろってないから、支離滅裂なんですよ」。
文章心理学の専門家に聞いたのですが、本当に心が動いた時、人の文章は支離滅裂になる!んだって。
私はその昔、お役所文書のプロで四角四面の文章を書いていたんです。文章整理も得意で、きっちりしていた。
論文や固い仕事についている方のエッセイや半世紀の担当者にはうってつけでした。
 
「完璧」な仕事をしてたんです。
だけど、きちんとした文章って「嘘くさい」んだそうです。
詐欺師の文章って、きちんとしてるんだそうです。嘘で塗り固めてるから。
 
きれいごと言いすぎる人って、実は不誠実な人多いよって、言われたことあるけど、
真面目な人は誠実だけど、不真面目で不誠実だけどそれがバレない人って、確かに緻密なんですね。
 
当作品の、とっちらかり方は、「本当に日活の関係者、出演者さんも裏方さんも、製作側の皆さんも、本当に本当に皆さんが浜田光夫さんの復活を喜んでる」証、だと思いました。
 
 
 
この作品は鑑賞しながら「なんなの!これは!」と絶叫して、何度も何度もつっこみを入れながら見て。
でも、でも、でも、よかったです浜田光夫さんが復活されて。
 
この作品は、一緒にお祝いに参加して、シャンパンやビールを片手に、ゲラゲラ笑いながら見る映画!
仲間っていいなあ~♪という気分を味わう映画でした。
 
 
浜田光夫さんって今もお元気なのかなと思ってググってみたら、
上品なたたずまいの、笑顔が素敵なおじい様になっていらっしゃいました。
(あっ!みたことある役者さん!)
シルバーグレイのヘアスタイルに、やっぱり満面の笑顔。
 
いい人生を送ってきた方なんだろうなあ。
 

講演会とかあったら聞きに行ってみたいです。

 
この作品を見て気が付いたのですが
全盛期の日活青春スターって、性格のよさが全身から出てる人が選ばれてる気がしました。