暁の脱走(1950年 新東宝)
ひさしぶりに映画を観ました。
きっかけは、いい夫婦の日(11月22日)にお世話になっている沖縄出身の大先輩(81歳)のご夫妻にお目にかかって、お二人のなれそめや大先輩の来し方を拝聴していた時に、「僕は映画が好きでね」と、いろいろ若い頃から見た映画の名前を挙げられて、その時にまず名前が挙がったのが『君の名は』と『暁の脱走』だったんです。
「君の名は」は知っていて見たことがあったのですが、
「暁の脱走、あれは素晴らしい作品だよ」と大先輩が熱をもってお話になられていたんです。
ところが私『暁の脱走』を知らなかったんです。相方は知ってたんですけれども……。
どうも有名な作品らしいんですね。
それで相方にオンデマンドで借りてもらって、おうちシアターで観ることにしました。
いや、びっくり!
おもしろかった~!
終戦後5年目にして戦争&大ロマンス映画!
戦争終結5年目の日本映画で、日中戦争の軍隊の話です。
なのですが、まさか!まさか?!の大大大ラブロマンス~♪
中国戦線に送られた兵士と慰問歌手のラブロマンスだったんですよ~♪♪
あとで情報をググってみたら「戦争メロドラマ」といわれてるんだそうで^^
日本映画なのですが、
まるでフランス映画かアメリカ映画を観ているような気分になる作品で、
洋画を意識した、洋画的なビター&スイート展開で、
構図も「モロッコ」や西部劇を想起する、砂漠の虚無感や異国の風景。
そして男と女と音楽と、恋と死。
なんだか、すごくカッコいい!
女性は恋したら一直線!
男性は女性に愛されて!
だけど一切表情を変えず憮然としながら、なんというかツンデレでもなくて硬派な無表情。
無表情というより、ふつーに迷惑そう。
任務にあたっている日本帝国軍人が愛だ!恋だ!言ってる場合じゃない。
上官にぶっころされます。
慰問歌手は戦場に来て歌をうたうのが仕事なのですが、歌ってる時間以外はオフ。
だけど兵隊さんは24時間勤務体制。
彼女の押しのすごさときたら、ちょっとドン引きなくらいアタックしていきます。
だけどだけど、絶世の美女なんですよ彼女が。
だから、その兵士の男も、迷惑そうな顔してるけど(絶対心の中で違うでしょ!!)と
観客は勝手に予想してしまう。
その女性はもうお構いなしにアタックしてくるので、
彼女って、もしかして、軍規を破らせるためのハニートラップなんじゃ?!と思うくらい、グイグイ!いくんですよ。
戦場で明日をも知れぬ命。
落ちるのは時間の問題だよなあ…と思っていたら、
いきなりズドン!
やった!恋に落ちた上等兵!
いきなり堰を切ったように始まる恋愛関係。
ディープに恋に落ちてゆく二人の刹那。
なんという展開!
もうたまりません!
絶世の美女に惚れられて、どうする三上上等兵!
そして、上官の副官がえぐい!
鬼なんです!鬼!
そりゃそうだわ!
だって中国戦線の陸軍の上官だもの!
おまけに副官、めっちゃくちゃ彼女にご執心!という。
これやばいよね!(ハラハラ)
春美~!いいかげんにせ~!
(と叫んでもスクリーンの向こうには届かないんですよね)
そうです、彼女の名前は春美。慰問歌手。
そして男の名前は三上、上等兵三上。
どうする三上?!
1930年の名作『モロッコ』がベースになってる作品
話を、作品全般について戻します。
この作品、とっても「モロッコ」でした。
なんというか、制作会社から「モロッコみたいな作品を作って!」と指示されて、それを超える硬派な軍人と大ラブロマンスを、黒澤明の師匠ともいえる映画監督の谷口千吉(八千草薫の旦那さん)が若き黒澤明を脚本で参加させて、一気に「モロッコ超え」を目指して作りました!的なことを想像させるモロッコな作品でした。
それも、いざ作ってみたら、モロッコの上をいく作品が出来てしまった!
(やるだろ?俺たち)という監督方の得意そうな顔が見えてきそうな思い切った作品です。
なんとも大胆なバイオレンス&ロマンティック!
だけど、やっぱり「モロッコ」なんですよ。
モロッコモロッコと、どこがモロッコなんだ?というと、
この作品、始まりがもろ「モロッコ」なんです。
とある街の中に入ってくる軍隊の行軍。
軍人の行軍を見守る街の女たち。
行軍する兵士の中に愛する男がいて、そして男を追う街の女。
ここまで、がっつりモロッコの設定なんです。
映画開始2分で「あれ?これモロッコじゃん?」と相方と言ってしまったくらい、モロッコ・モロッコ・モロッコでした。
ちなみにモロッコというのは「これ↓」です。
モロッコ(1930年アメリカ映画)
ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督
主演 ゲイリークーパー&マレーネ・ディートリッヒ
なのですが、似てるのはオープニングだけで、その後の展開は違ってきます。
それから、最初から違うのがヒロインのキャラクターです。
「モロッコ」はタバコが大人の女・マレーネデートリッヒがヒロインですが、こちらは全然違うヒロイン。
「大輪のバラが咲いたかのように美しく可憐で華やかな女性」。可愛い!可愛い!女性で、
そんなかわい子ちゃんが恋に大胆!なんです。
(日本人が当時、ここまで大胆に、西洋人のように恋愛するか?)というくらい、グイグイ来きます。
ウブじゃないのってどうなの?と思ったりするのですが、
そこは脚本がちゃんと練られていて、
グイグイ行くのはバツイチだから「もう恋に後悔したくないの!」というスタンスにしてありました。
だから、ともかくグイグイ行く!
マレーネディートリッヒのような、しゅっとした「大人の恋」ではない。
「好きになったら一直線!」で、目をキラキラ輝かせながらグイグイ!
戦後の女子は積極的なんでしょうね。
一応映画の設定は戦時中ですけれども、戦後製作された映画はヤマトなでしこだろうと、恋をしたらグイグイ行きます!という、
もう、フランス映画もビックリな展開。
(フランス映画が最高? 洋画が最高? なにを言ってるんだ!日本でもああいう作品は余裕で作れるぞ! しかも外国映画よりも上等に作れるぞ! 役者もとびっきり最高なメンツが、いるぞ! どうだ! 参ったか! わっはっは~!)という黒澤明さんと谷口千吉監督の勝利の笑い声が聞こえてきそうな映画でした^^。
日本映画でもこういうの作れちゃうんだぞ~!を証明するだけにとどまらず、さらに悲喜劇を追加して、もうひとひねりふたひねり、戦後の希望あふれる若人の心をわしづかみにする、戦争でえぐられるハートブレイクと恋の高鳴りがさく裂した「暁の脱走」。
名作『モロッコ』は舞台がモロッコで、ドイツ軍の外国人部隊に所属するイケメンのアメリカ人・トム・ブラウンをゲイリー・クーパーが演じていますが、こちら『暁の脱走』の舞台は日本陸軍が駐在する中国の街の話で、ゲイリークーパーに相当するイケメン三上上等兵は、なんと!若き池辺良さんが演じています。
池辺良さんって、おじさまになってからしか知りませんが、すてきなおじさまをやる方ですよね。
で、やっぱりというか、若い頃、むちゃくちゃかっこいいんですね!!
びっくりしました。
甘い感じは、ちょっとディーン・フジオカさんに似てるかなあ。
もう、パリコレに出てもおかしくないくらいの長身イケメンで、足も長くて、切れ長の目と透き通った瞳が印象的で、西洋人のような端正な顔立ちの池辺良さん。
甘いマスクの池辺さんが、きりっとした陸軍の軍人さんを演じて、せまられても無表情に耐える!という上等兵を演じるものだから、むちゃくちゃかっこいい~!
ハンサム!
日本陸軍というと、映画『戦場のメリークリスマス』のビートたけしさん演じる六頭身で短足の原軍曹のイメージですが、もう全然!全然違います。
だって、世界のクロサワが脚本に参加した「戦争メロドラマ!」だもの。
恋愛トレンディ・ドラマのラブストーリーに、私など10代20代のころから、「きゃあきゃあ」言ってきましたが、太平洋戦争が終わって5年で、もうラブストーリーは突然に復活!
してたんですね!!
ちなみにハラ軍曹はこちら↓
下の欄の「おひさまのような丸顔の…」ビートたけしさん。
これも、いい作品でしたね。たけしさんにキューンとしました。
三上上等兵に話を戻しますけれども、
ハンサムすぎて、銃も上手くて、女性を守って、そいでもって硬派!で無表情で女性に関心がなさそうにふるまう。
もう、もう、女性の心をくすぐりまくりです。
これは、若い女性ならポーッとして惚れてしまいますよ!!
戦場で彼にひとめぼれしてしまう女性、モロッコでいえばマレーネ・デートリッヒのヒロインのポジションは!といえば、あの偉大なる女優・マレーネ・デートリッヒの対抗馬で日本映画に登場したのは、なんと!あの「李香蘭」こと、山口淑子さん!
なんですよ~!
これこそ銀幕のスター!
かわいらしく、妖艶で、華があって、いやはや、なんとも、むちゃくちゃ美しい~♪♪
大東亜共栄圏で、中国人の心も日本人の心もわしずかみにして、莫大な人気を誇った歌姫。
世界の李香蘭!
ああ~♪
場面に大輪のバラの花が咲いているようです。
これは「モロッコ」に勝ったな!!(^O^)v
大勝利です!
と言いたくなるくらい、李香蘭さん、綺麗で可愛い~♪
キレイ~。
そんな彼女が恋に一直線、強気のイケイケ女子・慰問歌手の春美さんを演じているんですよ!
もう、たまんないです!
好きになったら即行動。
即アタック。
春美さんが恋に積極的すぎて、赤名リカを思い出した
春美さんってば、なんだかすごい、神イケイケ女子なんです。
なんかすごい。
なにがすごいかというと、
「ミカミッ!」って、いきなり三上上等兵を呼び捨てにするんです。
「兵隊さん!」とかじゃないんです。
いきなり「ミカミッ!」と声をかけて、一気に彼と親密になってしまうんです。
東京ラブストーリーの「「カ~ンチッ!」を思い出してしまいました。
柴門ふみさんが「暁の脱出」見てた可能性は低いけど、恋に一直線の大胆な女性って、狙った男性をいきなり、親しげに「呼び捨て」にするとか、そういうの、もしかして日本の恋愛上手な女子に伝わる恋愛の高等テクニックなんでしょうか、しらんけど!
なんか、すごい高等テクなんだと思いますよ、やっぱり。
なんか、この映画を観ながら私「ミカミッ♪」のところで、なんとなく爆笑してしまいました。
相方も「赤名リカか?!」と爆笑。
1950年当時観たお客様はそんなこと考えなかったかもしれないけれども、好きな男性をいきなり「呼び捨てにする」という、episode、すごい気になって、グフフッ♪とにやけてしまいました。
彼女は東京ラブストーリーのリカ!みたいな性格なんだ!と解釈しましたよ。
で、ストーリーがやっぱり、彼女、グイグイ「ミカミッ~!」を押し倒していきます!(いいのか!)
いや、いいんでしょうね。
にしても、これは楽しい!
ちなみに東京ラブストーリーの赤名リカさんはこちら↓
ただ、ご老人に言わせると「伊豆の踊子がベースだろ!」ということでした。
(学生さんの前に、踊子の少女が下着で現れるという)
1945年に第二次世界大戦が終わって、日本の映画も180度、まあ元に戻っただけなのかもしれませんが、今度は米国公認になってしまったもんだから、「がっつりとした戦争映画でありながら、大ラブロマンス」を作ってしまった谷口千吉監督と黒澤明監督の大胆さに脱帽です!
っていうか、映画はこうでなくちゃね!
【中国語が分からない場面の裏話】
中国の病院に運ばれてしまう日本軍人ミカミを献身的に看病する彼女が、現地の中国人女性たちと中国語で会話していますが、そこ字幕が出てきません。私中国語勉強してたので、翻訳すると、川で洗濯しながら中国人の女性たちと(「彼氏?「そう、結婚の準備は?「日本に帰ってから」「え?帰国しないですぐ結婚しちゃえばいいじゃん」的な会話を中国人の女の子たちとしてるんですね。それで、何をいってるのか分からないミカミが彼女を読んで「なーに?」と答えた彼女の「なーに?」を真似して、中国人の女子たちが「ナーニ?」を真似して、きゃあきゃあ言ってます。
中国人も日本人もラブラブな時はハッピーなんですよね。
戦争とか国籍は関係ないんですよね。
それで、ラストのシーン、中国の村人たちのアップで終わりますが、村人たちは村のお嬢さんたちから話を聞いてるわけですよ、「彼と彼女はラブラブで、結婚を約束して、ただただ愛し合ってるだけだったのに」という顔をしています。
日本陸軍の仲間も、二人を撃てなかったですよね(だって恋に落ちただけでしょ…)という。
この顔、顔、顔!
そして、意地悪な副官が本当に意地悪で、ああもう、むかつく!
名優さんですね。東野栄次郎さんかなあ? (似てるけど、お肌がつやつやだなあ。よく見る顔の悪役の人だなあ)と思いながら見ていたのですが、小沢栄さんという有名な俳優さんでした。東野栄次郎さんと一緒に俳優座を立ち上げた方で、「小沢さんがたくさん映画で悪役として出演したから六本木の俳優座劇場は建ったんだ」と言われているくらいの名優さんなんですって!!
子供の頃からたくさん見てきた悪役の俳優さんです。
だけど大人の悪役の俳優さんって、今見ると、かっこいいですね。
【戦後を象徴する映画】
スクリーンを見ていると、日本の映画というのは、太平洋戦争で米国と闘ったことで表現が禁止されて日本政府が映画の検閲をしたり、またまた敗戦後は的だったGHQが映画等の作品を検閲するようになって、米国映画を超えるものを作ってやる!と発奮したり、あれやこれやの障害を凌駕するべく、大変な熱量で、大衆の心をわしづかみにする良作をどんどん生み出していって、表現者が時代の風を作っていった時代というのが確実に存在したんだなと思いました。
最近、「意見しない方がいい」とか「知らんぷりしてろ」とか、忖度する人がかしこいような風潮が蔓延していて、だから日本が弱体化していったんじゃないの?と言いたくなるので、たまに大声上げて「それちがうでしょ!」というと恐れられたり(おそれられる代わりに、「そうだ。よくいった」という味方が、私の勇気に手を上げて賛同してくれて、この先の人生も共に生きていこう!という、本物の仲間が確実に増えてきています。
だから、私、このまま、大切な時は声を上げて、たいせつなことを言える人でありつづけようと思っていて、(こわい!あの子、けっこう怒るんだよ)と言われたりするのですが、私が怒るのは「それはNGでしょう!」という時に、意見をいっても話をしても全く聞く耳を持たれてなくて、聞いてるふりをされてるから、勇気をふりしぼって怒るという選択をしてるのであって、私は、必要な時は、怒る人でいたい。
後悔したくないから、私はこれからも、このままで行くし、一見敵が増えたように見えても、味方の方が10倍増えていくということを知ってしまったんですよね。
「暁の脱走と何の関係が?」と思われてしまいそうですが、声をあげることをつぶそうする人たちというのは戦前の全体主義の風潮の作っていく危険信号だから、私はこれからも「戦後」の人でありつづけるために、この終戦5年目に出来た映画『暁の脱走』のように、自分の考えを正直に語れる女性でいたいです。
【なぜ大先輩はこの映画が好きなのか】
81歳でストイックで仕事をバリバリやってきて、愛妻家の大先輩なんですが、どうしてこの映画を大好きだ!とおっしゃるのか。
私、思ったのですが、戦争が終わって多くの男性がなくなって、生き残った「男性」は子供の頃から、「将来は結婚して子供をたくさん産んで育てるぞ!」という風に幼いころからお母さんが洗脳していて、だから、恋愛に関しても「いざとなったら男は、恋愛は全力投球だ!」と腹に決めて生きてたからじゃないかなあと思ったりしました。
私の父だと恋愛映画は「なんだこんな女が見るものだろ!」とバカにしていましたが、思うのですが、一家の存亡がかかっている「ご長男」はけっこう、ちゃんと恋愛をして、ちゃんと結婚して、ちゃんと子供を産んで、ちゃんと孫の顔を見るまで、全力でよいお父さんをやって、一生けん命働いて、、なんじゃないでしょうか。
今の日本は少子化してるといいますが、覚悟が足りないから、「よし!子供を作って、子孫を残すぞ!」という考えに至らない。覚悟が出来てない、腹をくくってないんじゃないかと思います。
私が尊敬してやまない大先輩ご夫妻ですが、奥様も大先輩もいつも、何事にも「全力投球」なんです。
「よし!」と気合を生きて生きておられるのが、わかるんです。
私も気合を入れて生きてますが、覚悟が違う。
この「暁の逃亡」も覚悟を決めた人の話なんです。
だから、なんというか、すごく納得しました。
この構図。
ぐいぐい迫る女性が真ん中、迫られた男性は構図のヘリでキリッとしていて、
でも、すでに押し切られてしまって愛し合ってしまっているという。
究極のツンデレ…というより任務中の軍人を口説くか?な展開。
美しさは罪です!