ザ・ホエール(2022年米国)

 
エブエブ(映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」 )を製作した米国の映画会社「A24」の作品。
 
先の米国アカデミー賞では「エブエブ」と「ザ・ホエール」の2本が作品賞にノミネートされて、エブエブが作品賞、ザ・ホエールは主演男優賞をそれぞれ受賞。「A24の快進撃!」などと言われていました。
 
エブエブは映画館で見て頭が真っ白になってしまって「二回見ることはないなあ」と思うくらい私と合わない作品だったので、同じ映画会社が作っている「ザ・ホエール」は、どうだろうか? (私合わないかも……)という懸念もあり、結局映画館では観ずに、ネット公開が始まったので、アマゾンで見ました。
 
アマゾン、字幕がかなり変でしたけれども、改良されるのでしょうか。
 
こんな感じ
今日は
雨が降
っているよ
 
 

 

 

 

【過食症で引きこもった男の最期を淡々と見つめる】
 
ストーリーはひきこもりの肥満の中年男の人生最期の5日間を描いた話で、体が重すぎて歩くことはおろか、立ち上がることさえ困難を極めるようになってしまったチャーリーを「ハムナプトラ」の主役を演じた俳優ブレンダン・フレイザーさんが熱演して、アカデミー主演男優賞を獲得されました。
 
 
巨大な鯨のようにデカい!チャーリー。
脂肪がつきすぎて、彼が動くと鯨が動いているようで、目が釘付けになります。
歩行困難で出来ず、日常生活がままならず、この作品、肥満治療と肥満サポートの法人の監修を受けて作られたんだそうです。
 
離婚して娘と会えなくなってしまった父親チャーリーの壊れた人生。
 
壊れた家庭、傷ついた家族。
恨まれ、疎んじられる存在。
家族との関係は憎しみと哀しみが混然一体となって、もろもろ崩壊して、悲しすぎて、寄り添おうとするけれども、怒りと憎しみと哀しみがループ。
 
【実は普遍的で共感できるストーリーではないか?】
 
ああ、A24の作品だなあと思ったのですが、しょっぱなからグロッキーな描写をさらっと出してきます。
A24には「目をそむけたくなる表現はマストである」という社是でもあるのか、醜い場面を映像に赤裸々に描くのが好きな映画会社だなと思います。
 
それがリアリティといえばそうなのかもしれません。「赤裸々に!」を強調するアーチストさんって多いです。
ただ、見てる側としては、人間の恥しい、醜いシーンは見せつけられると「ああ、見たくないもん、みちゃったなあ」と、私は疲れを感じます。精神を消耗する感じがします。だから1回はこの作品を見ても、2回は見なくてもいいかなあという気持ちになりました。
 
 
彼の肥満も、実は私も最近更年期障害というやっかいなもののせいで急激にブクブク太りだして、(どこまで太るんだこの体?)ということに日々恐怖していますが、おなかの肉が邪魔をして床に落ちてるものが拾いにくいとか、太ってくるとだんだんできなくなる所作がいくつもあって、(ああ、私どこかでセーブしないと、歩けなくなるかも)という危機感をあおられて、ちょっと怖かったです。
 
主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーさん、優しそうな方で、ハンサムです。
この方が演じていたから、不気味な役がまろやかに見えて、そのおかげで商業映画として成立していた気がします。
彼が主役だったおかげで、救われた作品と言えるのかもしれません。
 
娘エリーを演じたセイディー・シンクさんは破綻した性格を上手に演じていて、怖かったなあ。
パパには可愛い小悪魔に見えても世間的には深刻な問題児だよパパさん?という難しい役です。
 
友人の看護師リズを演じたホンチャウさんも好演されてました。
 
宣教師役の青年を演じたタイ・シンプキンスさん、アベンジャーズ3に出てたそうですけれども、どこよ?! わからん! ちょっとサイコパスっぽいのかなと思って、なにか展開があるのかなあと思いつつ、ふつうの人だったり、彼の登場は「けっきょくどんな親でも親は子供を愛してる」ということを強調するためのもの?
 
 
【欠点だらけの人々をみながら諦観を疑似体験して、己の情けなさに気が付く】
甘いものや高カロリーの食事ばかりしてるチャーリーを見続ける作品ですが、ストーリーは辛口でした。登場人物がかたっぽしから不完全な人ばかりで、どの人のエピソードを見ても「もう赦すよ」という気持ちになる。諦観に至るための作品といえばよいか。
 
 
私もだいぶ前に大人になって今では50も過ぎてしまいましたけれども、本当に私に無償の愛を注いでくれるのは親だけだと気が付いて、親には一日も長く長生きしてほしいと願っています。
 
エリーも大きくなって大人になったときに、パーフェクトな存在ではないけれども、自分のことを愛してくれる唯一無二の「親」の愛の貴重さに気が付く日が来るんじゃないかなあ。それが自分勝手な愛だとしても、最低な愛情表現だとしてもです。
 
 
【ダーレン監督は機能不全家族がお好き?】
ダーレン・アロノフスキー監督。
ミッキー・ロークの「レスラー」もダメダメな父親が娘と邂逅するお話しでしたが、ダーレン監督、ずっと気にかけている子供さんでもいるのかなあと感じました。レスラーは面白かったのですが、「ノアの箱舟」は正直、あまり面白いと思わなくて(男が家を出て一人前の男になる話の元祖と解釈すれば、「父親になるってどういうこと?」を問いかけてる作品だったのかもしれませんが)、ダーレン監督はいつも「父親」を描く監督さんだということを発見しました。

 

ザ・ホエール(字幕版)

 

 

白鯨 上 (岩波文庫)