【親友Tの死の真相⑧】同窓会の光と影。そして、提示された「奇妙な救済条件」
前回お話しした、Tくんの「3回目の失踪」。自宅の裏山に2日間も潜み、飢えと寒さでフラフラになって帰ってきた彼ですが、実はこの失踪のわずか2週間前、僕の中にはどうしても腑に落ちない、「強烈な違和感」があったんです。なぜ、あの絶好調な状態から、急に裏山にこもるほど追い詰められてしまったのか――。時計の針を、失踪の2週間前に戻します。その日、僕らの中学校の同窓会がありました。数ヶ月前から僕のところには誘いがあったのですが、「Tを誘うべきかどうか」実は、ものすごく悩んでいました。当時の彼の状況(離婚、借金)を考えると、「今どんな感じ?」って周りに聞かれても答えづらいだろうし、余計に気まずい思いをさせてしまうかもしれない……。でも、その一方で、「今のあいつは借金まみれで、日々の楽しみなんて何もないはず。同窓会くらい、パーッと行って楽しんでほしい」という思いも捨てきれませんでした。そこで、僕はひとつ「作戦」を思いついたんです。Tくんには一切内緒にして、同窓会の友達には「Tも参加で」と伝えておきました。そして当日。仕事終わりに、「今日、高校の連中と何人かで飲みに行こうぜ!」と嘘をついて、彼を車で連れ出したんです。会場の居酒屋に着き、大広間のドアを開けると、そこには懐かしい中学校の同級生たちの顔がズラリ。一瞬で状況を察したTくんは、僕に向かって、「やりやがったな、リク(笑)」と苦笑いしていました。でも、行ってしまえばそこは同級生。Tくんは本当に楽しそうに、懐かしい顔ぶれと笑顔で喋っていました。その瞬間だけは、背負っている重い借金のことなんて完全に忘れているようでした。50〜60人ほどが集まったその同窓会には、当時、Tくんが密かに好意を抱いていた女の子も来ていたんです。一次会から、二人は本当に楽しそうに話していました。そして一次会が終わり、二次会どうする?という話になったとき。その子が「二次会行こうよ!」と、僕やTくんを誘ってきたんです。同級生の女の子たちは子供がいる人が多くて、一次会で帰る子がほとんどだったのですが、彼女は違いました。聞けば、彼女も夫婦間で色々あり別居中だったらしく、「せっかくだし行こうよ」ということでした。実は、僕は次の日に東京出張を控えていて、朝が早かったので本当は帰りたかったんです。普段のTくんなら、僕が帰ると言えば、「じゃあ俺も帰るわ」と言うタイプ。なのに、この日は全く違いました。「あのコがいるから、俺は二次会行くわ!」珍しいほど勢いよく、目が輝いていました。結局、僕も周りから「ノリが悪いぞ」と押し切られ、一緒に二次会へ行くことになりました。二次会でもTくんは終始笑顔いっぱいで、僕は「無理にでも連れてきて本当に良かったな」と心から思っていました。出張から帰った次の日、「同窓会どうだった?」と聞くと、彼は「めっちゃ楽しかった!」と完全に浮かれていました。しかも、解散した後にその女の子の方から「またご飯行こう」と連絡があったと言うのです。冷静に見れば、当時のTくんは元奥さんに200万円ほどのお金を借りたまま返しておらず、養育費のプレッシャーもある状態。そんな中で他の女性にうつつを抜かすなんて、客観的に見れば「最低だ」と言われても仕方のない状況かもしれません。でも、僕としては、離婚して生きがいを失いかけている彼が、少しでも前を向く楽しみになるなら、それはそれでいいんじゃないかと思っていました。そして実際、この同窓会からの2週間、Tくんの営業の成約率は信じられないほど伸びていたんです。見違えるほど調子が上がっていて、「男って単純なもんだな」と、不謹慎ながら微笑ましく見ていました。それなのに――。そのわずか2週間後に、彼は突然あの「3回目の失踪」を起こしたのです。戻ってきた彼に理由を聞くと、結局は「仕事、家族、お金のプレッシャー」。1回目、2回目と何一つ変わらない理由でした。あんなにモチベーションが高く、笑顔に満ち溢れていた2週間は何だったのか。僕の中ではどうしても話の辻褄が合わず、全く腑に落ちないままでした。3回目の失踪から戻ってきた後、さすがに心配したお母さんは「もう仕事は辞めさせた方がいいんじゃないか」と口にしました。僕自身も、そこまで精神的にしんどいなら一度辞めて環境を変えた方がいいと思っていました。しかし、現実はそう簡単にはいきません。彼の実家には、深刻な財政問題があったのです。Tくんの実家は、お父さんが建てた家でした。当時75歳のお父さんですが、実は再婚(お母さんの連れ子としてTくんが家族になった形)で、再婚の時期が遅かったこともあり、家のローンがまだ大量に残っていました。しかも、現在の両親は二人とも無職で年金暮らし。お父さんは高齢、お母さんは足が悪くて働けない状態。さらに、過去のおじいちゃんやおばあちゃんの介護費用も重なっていたため、両親の貯金は「ほぼゼロ」という極限状態だったのです。「実家に住まわせて、ご飯を食べさせることはできる。でも、お金の支援は一切できない」これが実家の現実でした。もしTくんが仕事を完全に辞めてしまえば、彼自身の最低限の借金返済すら滞り、また元奥さんや周囲に多大な迷惑がかかることは目に見えていました。さらに深刻だったのは、Tくん自身の心身の状態です。2回目の失踪以降、彼は完全にアルコールに依存していました。毎日、ストロングゼロを5本も6本も空け、寝る前にも「眠れないから」と2〜3本を流し込むような生活。僕が専門のカウンセリングに通わせたりもしていましたが、お酒のせいで明らかに記憶力にも支障が出始めていました。本人も「今の状態じゃ、他のアルバイトで頑張る自信がない」と言っていました。この限界すぎる現状を、お世話になっているビジネスオーナーに相談したところ、ある驚くべき提案をいただいたのです。「それなら、もう(プレッシャーになるような)仕事は一切しなくていい。その代わり、本人が困らないように、そして元奥さんに迷惑がかからないように、最低限の借金返済分(月10万円ほど)はこっちで支払ってあげる」あまりにも破格で、慈悲深い提案でした。ただし、これを受け取るには「2つの条件」をクリアしなければならない、とのことでした。その条件とは、以下のようなものでした。 ビジネスオーナーが考案した「ポジティブになるためのマインドセットの宣言」を、朝晩動画で撮影してLINEで送ること (「もう絶対に逃げない」「生きてるだけで丸儲けだから、笑顔いっぱいで頑張る」といった内容の宣言) 毎日、必ず「歯を磨くこと」と「お風呂に入ること」これを聞いて、少し不思議に思う方もいるかもしれません。「歯磨きと風呂?」と。実はTくん、失踪に関係なく、昔から放っておくと本当に歯を磨かないしお風呂にも入らないズボラな性質があったのです。「人間としての最低限の生活習慣を整え、ポジティブな言葉を口にする。それさえやれば、働かなくても毎月10万円を支給する。それ以外の時間は何をしていようが自由でいい」ビジネスオーナーの温かい配慮による、究極の救済措置でした。これならノルマもない、営業のプレッシャーもない。朝晩の動画と、風呂・歯磨きだけで借金が返せる。「これなら流石に、もう大丈夫だろう。安心だ」僕も、お母さんも、心からホッとしていました。しかし――。この「絶対的な安心」が手に入った、わずか3ヶ月後。何度もこのブログでお伝えしている通り、彼は自宅で、ついに「失踪」ではなく、帰らぬ人となって僕らの前を去ってしまうのです。あんなに恵まれた環境が用意されたのに、なぜ。亡くなる直前、一体彼の身に何が起きていたのか。次回、その直前の出来事について詳しくお話しします。