W124/E500 スピーカーシステム(その4) | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

前回のブログの続きです。



この短期連載の第1回目に、このE5
00のオーナー氏がわたしに愛車を託
された理由を書きました。2回目にリ
アスピーカーの可能性と実現の難しさ
を書きました。


今回は、少しクルマから離れます。


わたしが、メルセデスW124の車内
で創ろうとしている音楽空間の気配を
わかっていただけそうな動画を紹介し
ます。


アイナ・ジ・エンドの動画です。




彼女、歌声の表現力が図抜けているだ
けでなく、録音機材の使いこなしが最
高に素晴らしいです。具体的には、マ
イクへ自分の感情を載せる術を完璧に
心得ていて、まるでマイクを演奏する
ミュージシャンのようにさえ見えます。



最初に、結論を書いておきます。

わたしが、いま目指している音楽空間
の世界観は、この動画の銀色のマイク
の位置から、黒いポップガード越しに
彼女の唇の動きを、声帯の震えを見つ
めているかのような聴感です。伸ばす
手が自分の腕に届くような彼女との距
離感です。そして、聴覚だけでなく、
体感で音楽を渦中で浴びる感覚です。




詳しくない方の為に、動画に映ってい
る録音機材について少し書きます。

真ん中に移っている銀色の筒状のもの
がマイクです。ドイツのノイマン製で
すね、定番です。

とても高感度なコンデンサーマイクロ
フォンなので、息を吹き付けると、ボ
ソッというノイズとして拾ってしまい
ます。そのようなノイズが発生しない
ように、ポップガードという多孔状の
フィルターを挟んで声を吹き込むこと
が一般的です。この動画でも無数に穴
が空いた黒いパネル越しに歌っていま
す。

このポップガード、少し距離をとって
いればかなり強い吐息も、それが空気
の塊となってマイクの振動板にドカン
と当たってボソッというノイズに変換
されてしまうことを防いでくれます。
けれども、唇が触れるほど近づいて、
そーっと風を送り込むような息の吐き
方をすると、かなりの量の空気の流れ
がマイクの振動板に辿り着いてしまい
ます。

動画の中、無伴奏の歌い始め、舌が上
顎を叩く破裂音が混ざる言葉は少し離
れて、声帯の震えを息の流れとともに
マイクに載せたいときはポップガード
に唇が触れるほど近くから静かにマイ
クに風を送り込むように、そんな歌い
出しです。まるでマイクという楽器を
弾きこなすミュージシャンのようです、
見事だと思いました。

身体の奥から風をマイクに送り込むと
き、唇が触れたポップガードの裏側が、
ふわっと曇るのが映ってます。命通う
吐息の存在を感じます。まるで彼女の
口元からマイクまで繋がっている風の
流れ、声の道が見えるようです。


マイクの位置でいちばん想いが伝わる
ように響かせる、この絶妙にコントロ
ールされた彼女の声を、マイクのとこ
ろで聴いてみたい。命の湿り気ある息
づかいを、彼女がいちばん意識してい
るところで感じたい。

冒頭に書いた結論は、つまりこのよう
なイメージのことです。

オマケ情報ですが、ポップガードには
多孔パネルの網目の細かさでたくさん
の種類がありますが、アイナ・ジ・エ
ンドがこの録音で使っているポップガ
ードは、アスペンピットマンデザイン
ズというメーカーの少し目の粗いタイ
プです。定番のステッドマン101とい
うものに比べるとポップガード効果は
少し薄いですが、息づかいを積極的に
パフォーマンスに取り込む彼女だとい
うことで、レコーディングエンジニア
が選択したのでしょう。さすがです。



アイナ・ジ・エンドだけでなく、一流
の歌手は、この絶妙なマイクの弾きこ
なしができています。大きな声でシャ
ウトしているときも、囁くような声で
語りかけるときも、想いをイメージ通
りマイクに乗せる技術を持っています。

これは、わたしが作る音楽空間では、
ほとんどフロントスピーカーで創りあ
げてゆく音楽世界です。W124用で
もロードスター用でも同じです。クル
マの性格によって使い分けているスピ
ーカーユニットの違いはありますが、
どちらも極めて繊細な表現ができるユ
ニットを選んでいます。まるでモニタ
ースピーカーのように、空気の震えに
裏表があることに気づくような、そう
いう鳴らし方を意識しています。DS
Pが使えれば、車両やスピーカーシス
テムごとの個性として発生してしまう
クセを丁寧にキャンセルすることがで
きるので、より理想に近づけます。


ちなみに、W124スピーカーシステ
ム・シリーズ3は、しっかりとセッテ
ィングをしてやると、まるでSONY
のMDRーCD900STというヘッ
ドフォンのようなサウンドに仕上がり
ます。CD900STというのは、モ
ニター標準機として、世界的に有名な
ヘッドフォンです。この動画でアイナ
・ジ・エンドが掛けているヘッドフォ
ンも、そうですね。超ロングセラー機
材で、昔から興味があったのですが、
今年の1月に初めて買いました。さっ
そくいろいろな音源を聴きました。強
烈な解像度です。もう、ぜんぶ丸見え
な感じの聞こえ方です。分解能がちょ
っとtoo machで、完全な密閉型であ
ることもあり、長時間聴いているとち
ょっと疲れます。

あれ、この聞こえ方……知ってる。ふ
とそう感じたのが、シリーズ3です。

W124スピーカーシステム・シリー
ズ3も、セッティング不足だと少し情
報量が多すぎるほどの吐き出し方をし
ます。その加減の難しさと、うまく調
整できたときの“発見の連続”が聴き
疲れなくいつまでも続くような聴き味
までそっくりだと感じました。

スピーカーシステム、なかなか試聴し
ていただける機会が作れないのですが、
もし新しいヘッドフォンを探している
のであれば、MDRーCD900ST
を手に入れていただければ、W124
スピーカーシステム・シリーズ3の鳴
り音のイメージを感じてもらえると思
います。1万5000円程度で、絶対に
損した気分にならない名機です。写真、
なんだかすごく変な色に撮れちゃいま
した。




フロントスピーカーでの世界作りがイ
メージ通りになったら、その音像を立
体的に浮かび上がらせます。そのため
にリアスピーカーを使います。フロン
トとリア、合計4つのスピーカーシス
テムの混ぜ具合、というか関係の持た
せ方には、DSPを使った精緻なセッ
ティングが必要になります。4隅に4
つ置いて鳴らせば完了ということでは、
全然ありません。

この辺りからシステムを構成する機材
にお金が掛かり始めて踏み込めない人
がたくさんいらっしゃるのですが、素
敵にセッティングしたDSPが生み出
す音楽空間の快感は、いちど経験する
と後戻りすることができないものだと
断言できます。

アイナ・ジ・エンドのこの動画、例え
ば今までは右側、画面の外の客席に座
った音楽鑑賞だったとしたら、4つの
スピーカーとDSPで創りあげること
ができるのは、マイクスタンドの辺り
に立って彼女と見つめあえるほどの距
離感、彼女が伸ばした手が腕に絡みつ
くほどのプライベート感、あるいはメ
ンバーとして同じステージに立って目
で合図を送りあうような距離感、です。

いま開発の最終段階にある、NDロー
ドスター用の3Dデバイスも、まさに
この空間感覚を実現するためのアイデ
アです。


最後にもう1つ、身体に感じる音楽。
彼女のアカペラ部分のあとに始まるピ
アノの前奏、1つめのコードを弾いた
直後に聞こえるゴトッというペダルを
踏んでハンマーが動く音。最高レベル
のPAで楽しませてくれるライブハウ
スでしか体験できないような、猛烈に
生々しい振動として耳だけでなく、身
体に音楽の情報を伝えてくれます。こ
の録音、本当に素晴らしくて、特に
amazon musicで配信されているハイ
レゾ版は、スピーカーシステムの開発
車でもあるわたしのW124で再生す
ると、スタジオで収録された音になら
ないような空気の震えを聴覚を超えた
フィジカル体験として感じることがで
きます。これは、ヘッドフォンでは絶
対に経験できない世界ですし、ホーム
オーディオでもまず経験できない恐ろ
しいくらいの臨場感です。

いま、W124スピーカーシステムは、
2011年のオリジナルから11年を掛けて
隔世の感あるここまで、来ています。





「運転席でジョージ・ベンソンを。
 助手席の家内に、ザ・ピーナッツを。」

これがE500のオーナー氏のリクエ
ストです。クルマを分解して、必要な
機材を取り付けて……。そういう作業
をしながら、オーケストラという曲を
歌うアイナ・ジ・エンドのこの音源の
表現を超えるほどの「ザ・ピーナッツ」
を奥さまにプレゼントしてもらうため
に必要なイメージを積み上げるわけです。

悶々と一人で思い巡らすとても地味な
時間ですが、ここでイメージが決まら
ないと、DSPにコンピュータをつな
いでも何をしていいのかわかりません。

イメージが先行しないクリエイティブ
は、存在しないんです。








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なので、スピーカーシステムの話、ク
ルマの話、はるかにたくさんの発信を
しています。簡単な動画ですが、スピ
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