林義正教授と久しぶりに | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

先日、久しぶりに林教授にお会いして、
クルマの電子回路について伺ってきた。

私が林教授と最初に会ったのは、今か
ら20年以上前の富士スピードウェイ。
全日本スポーツプロトタイプカー選手
権の予選が終わった午後だった。当時、
教授は日産のエンジニアだったから、
林教授ではなく、林さんではあったの
だが、ともかくレース雑誌の駆け出し
記者だった私は、明日の決勝を控えた
ニスモのピットを訪ね、忙しそうに働
いているメカニックを呼び止め、今日
の予選の状況について話を聞かせてほ
しいとお願いしたら、奥から出てきた
林教授が私の相手をしてくれた。

要領を得ない私の質問に対して、予選
で使った点火プラグを示しながら「こ
んな風にキレイに焼けているときはと
てもエンジンの調子がいい証拠です。
明日の決勝でもいい走りができると思
います。サーキットに来てくださった
皆さんに、応援してくださるようにお
伝えくださいね」と。それが最初。


日産自動車を退いた後は、後進の育成
にあたるべく東海大学で教壇に立ち、
今年の3月まで数多くの若者に「エン
ジニア道」を説いてきた。林教授が送
り出した学生たちは、もう何人も自動
車やその他の製造業のエンジニアとし
て活躍を始めているから、もうすでに
彼らの成果に接しているかもしれない。

現在は、エンジニアとしてYGKやミヤ
マといった企業と共に新たな開発を行
うと同時に、ル・マン24時間レース制
覇に向けた活動も継続中だ。


今では世界中のエンジンが回る基本中
の基本の考え方になっている急速燃焼
を提唱するなど、これまでに数多くの
技術開発を成し遂げ、ほとんど知られ
ていないが、世界中のエンジニアが技
術的な課題にぶつかったときに、知恵
を借りに林教授を訪ねることも少なく
ない。ドイツのメーカーからもアメリ
カのメーカーからも飛行機に乗って林
教授の意見を聞きに来る。

YGKの山崎社長が自社製エンジン開発
を実現するために、世界中の自動車メ
ーカーに相談して回ったときに、どこ
へ行っても「日本にはProf.HAYASHIが
いるのに、なぜ彼に相談しないのか?」
と異口同音に意見されたことで、林教
授の存在を知ることになった、という
話を山崎氏本人から聞いたことがある。


そんな教授に、ドライバーという雑誌
で、素人の憶測や推論に頼らない自動
車技術解説を目指した連載に8年間も
の長期間お付き合いいただき、そのう
ち半分ほどの内容を「林教授に訊く
『クルマの肝』」という書籍
として出
版させていただくこともできた。私に
とって4冊目のこの本は、なんと世界
の林教授との共著という申し訳ないほ
どのありがたい作品となったのである。


連載中は毎月1回、記事のためと称し
つつ、私自身の疑問の解決に至るよう
な技術的な話を訊ねることができたわ
けで、原稿料をいただきながら林教授
の個人指導を受けられるという幸せな
8年間であった。優秀な生徒だったか
どうかは分からないが、数式や専門的
な用語も交えて表現されるエンジニア
リングの話を、本格的な知識を持ち合
わせないクルマ好きの人たちにも楽し
みながらイメージしてもらえるように
文字でほどくという役目は十分に果た
せたと思う。

ドライバー誌での連載が終了して以来、
月1の取材から年に数度の電話程度に
接点が減ってしまった林教授に、東海
大学を退官されてから初めてお会いし
た。失礼ながら、お茶目なところも含
めて変わらぬ様子でなんだかとても嬉
しかった。

そうそう、大切なことを。
私が林教授を尊敬して止まないのは、
数多くの具体的な成果を残していると
いうことだけでなく、エンジニアとし
ての考え方、すなわち“エンジニア道”
がとても素敵だからなのである。林教
授は事あるごとにこんな話をしてくれ
た。

「エンジニアにとって必要なものは、
知識、経験、感性の3つだと思うんで
す。知識は本を読んで習得し、経験は
場数を踏めば身につきます。感性を磨
くことはずいぶん難しそうですが、良
い方法があります。それは、おいしい
ものをたくさん食べ、素敵な異性と付
き合うことです。感性は異文化と触れ
あうことで刺激され磨かれます。異性
との触れあいは究極の異文化交流でし
ょ。素敵な恋愛をすることは、素晴ら
しい技術を発想して世の中のためにな
りたいと願うエンジニアにとって、欠
かせないというわけです」


$くるまの達人-2012_06_08_hayashi
世界の林教授にiPhone向けて自分撮り、
でございます。失礼しました!にひひ


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
Twitter / nineover