働くということ・46 山田昭男さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

未来工業株式会社
取締役相談役(創業者)
山田昭男さん


商売は100%儲け。儲けること以外に
商売する意味はないっていうのが、僕
の論理なわけ。

じゃあ会社のために寝ずに働きましょ
うなんていって、頑張るバカもおるね。
まぁ、それは本人の生き方だろうから
否定はせんけど、本当にそれで儲かっ
てますかということだ。

日本には265万社の法人があるんだけ
ど、4000万円以上の経常利益が出てい
る企業は、わずか3%に過ぎないんだ
よ。つまり、ほとんどの企業は、寝ず
に働いた挙げ句、たった4000万円も儲
けられないでいるわけだ。一体、何を
やっているのかね。

人材って言うでしょ。優秀な人材を集
めて、アメとムチを与えて能力を引き
出せば業績が上がるはずだっていうの
が、大方の経営者の考えらしいけど、
これは大間違いだと僕は思うんだ。

まず人は材料じゃない。人材だなんて、
木偏の“材”という文字を使うことに
違和感を持たない無神経さが、働く人
の不満の第一歩だよ。

僕は、この会社で働く人たちを、会社
の財産だと思ってる。材じゃなくて、
財。

あのね、人には心があるんだ。心が働
くことに対して前向きにならない限り、
決していい仕事は望めない。

それでなくたって、誰しも働かずに楽
して過ごせればそれが一番と思ってい
るわけでしょ。だからムチでしばいて、
その代償にアメをやるなんてことで、
能力なんか引き出せっこないんだよ。

少なくとも日本では、経営者が社員に
与えるべきは、アメだけでいい。それ
も、業務に対する報酬として後出しす
るのではなく、必要十分な量を先に渡
してしまうことだと思うんだ。

「悪いね」っていう言葉、日本中どこ
でも通じるでしょ。

与えてもらった何かに素直に感謝して、
これだけしてもらったんだから自分も
何かしなきゃいけないって思えるこの
感覚は儒教の発想なんだけど、これは
日本人の心の中に必ず備わっているア
イデンティティなんだよね。

成果主義を掲げて、つまりムチを使っ
て働かせて、報酬として欲求を満たし
てやるという方法は、実は働く側の権
利に根付いているわけ。

働いたら満たされるという労働者側の
権利なわけだから、相当に欲の皮が突
っ張ってる奴でもない限り、法外な報
酬を求めたりしない代わりに、文句を
言われない程度にしか働かないよと、
こうなりがちなわけ。

ところがウチは、働かないのに先に金
をやっちゃう。休みもやっちゃう。全
額会社持ちで海外まで社員旅行に連れ
てっちゃう。残業もさせない。

日本人にとって、これは相当に追い込
まれる状況なんだよね。

もらった以上は、働かなきゃいけない
な……って、こうなるわけだ。言わば、
本人にとって働くことへの義務感が生
まれるわけ。

悪いね、の感覚が備わってる日本人だ
からこそ、義務感こそ働くことへの大
きな原動力になるんだよ。

おまけにウチには、命令というシステ
ムがない。働かなきゃいけないという
義務感と、待ってるだけでは誰も仕事
を与えてくれないという危機感が同時
にやってくると、自分で何かをやって
みようという意識が芽生えてくるでし
ょ。

もちろん、とんでもないことを闇雲に
やられても困るから、会社としての方
針はあるよ。一工夫加えた商品提案を
しようとか、そういう感性を磨くため
に常に人と違うことをやろうとか、や
ってみてダメだと感じたら引き際は素
早くとか、ね。

でも、経営者がやるべきことは、それ
だけで十分なんだ。

もう一度言うよ。人には心があって、
その心が前を向かないといい仕事はで
きない。だから僕の仕事は、心を理解
して、心に前向きの勢いを与えること
なんだ。

Interview, Writing: 山口宗久


「かもめ」2008年2月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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