働くということ・42 冨永照子さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

日本そば 浅草 十和田
女将 冨永照子さん


ウチはね、浅草で4代続いて商売やっ
てるの。3代守ればのれんも本物だっ
ていうじゃない。そういう意味では、
私のところも商人としてのDNAが綿
々と流れてるってことかしらね。5代
目も6代目も、そういう流れの中で教
育中だから。

のれんを守るに大事なことは、2つあ
ると思う。

まず適応性よね。時代に対する適応性
がないようじゃ、商売なんか絶対に続
かない。実はウチはもともとお菓子屋
だったのよ。でも例えば映画館が全部
だめになってきちゃって、通りを行く
人たちの志向が変わってきたのを受け
て昭和47年にそば屋に商売替えしたん
です。そのときからずっと蕎麦屋でや
ってるけど、この先どうしてもだめだ
ってことになれば、また替えなきゃい
けないでしょうね。

経営者ですもの、アンテナ高く張って
情報をキャッチしてなきゃいけないで
しょ。真面目にやってますからって、
いつもうちに引っ込んで、なんていう
のは、駄目なのよ。

のれんは、イノベーションしてなきゃ
いけないわけ。

もひとつは、地域への感謝の気持ちだ
と思う。私ね、いつも言ってるの。ワ
ケの分かったお金はビジネスで、ワケ
の分からないお金はのれんなの。商売
やってるとね、何かの会費を集めてく
れとか、代議士だってお相撲さんだっ
て、お付き合いの中で必要なお金の話
もってくるわよ。

商売人は義理でぎりぎり金がない、な
んて言うんだけどさ、やっぱり商人は
そういう付き合いができてるうちは、
のれんを残していけるものだと思うの。

商人は、小さなお金をケチケチしてる
ようじゃ、駄目ね。お付き合いにして
も遊びにしても、使える範囲の中でど
んどん使うべきよ。その分、額に汗し
て一生懸命稼げばいい。それだけのこ
とよ。

その部分では私、おかみさん会の活動
も頑張ったわよ。全国何千人の人を率
いて、商店街がんばれっていうのを
やってきたんだからね。

活動そのものは、ある程度の歳になれ
ば引き際をわきまえていかなきゃなら
ないと思うんだけど、そういう活動の
中で築くことができた人脈は、ずっと
大切にしていくべきだと思うし、損得
なしに接することで聞くことができた
話なんかは、私にとっての財産でもあ
るのよ。

あのね、私マニュアル人間って大っ嫌
いなの。本当の意味でのマニュアルっ
て、朝起きたらおはようって言って、
顔洗って働くみたいな基本的なことで
しょ。そんな、いろはのい、みたいな
ことまで意識しなきゃできないようじ
ゃ、話にならない。

臨機応変に応用が利くことに、人が存
在する意味があるのよ。もっと言うと、
マニュアルもできない人間というのは、
親の教育が悪い証拠なわけ。家庭だけ
じゃなくて、会社でも同じことが言え
るかもしれないわよね。

私、社会人としても家庭人としても、
商人としての生き方しかしてこなかっ
た人間だけど、筋だけは一本通してい
ると思う。そういえば私が大好きって
感じる人も、同じよね。そういう人は
みんなまともに生きているのよ。自分
の信念、貫いて。

Interview, Writing: 山口宗久


「かもめ」2007年9月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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