働くということ・03 福本清三さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

40年間「斬られ役」一筋
俳優 福本清三さん


そら僕らかてもっと映りたいですよ。
そういう気持ちは、常にあります。で
もね、社会に出て働き始めて自分の役
割っていうか、器量も含めてね、分か
ってくるもんやと思うんです。

主役になる役者さんがおって、自分ら
みたいな大部屋の役者がおって。

ええとか悪いとかやなくて、それぞれ
の持ち場があるんやな、って。我慢す
るんと違って、自分が誠心誠意頑張れ
る場所があるねんな、って。

僕はね、ごっつい田舎の出でね。都会
に出たらネクタイ締めてしゃんとでき
ると思って、京都の親戚んとこの米屋
に丁稚奉公に来たんです。

ところがヨレヨレの格好で毎日汗みど
ろ。これじゃ全然イメージと違う、何
とかここ以外のところで働きたいと思
ってたときに、紹介されて撮影所に入
ったんです。つまり、元から役者志望
というわけでは、全然ないんですね。
それどころか、撮影所って何をするん
やろってなもんです。

それでも大部屋俳優として仕事を始め
て、毎日土手の上を走ったり通行人や
ったりしてるうちに、自分が何をせな
いかんのかということが分かってきま
すやろ。怒られたり怒鳴られたりしな
がらやけど、自分の持ち場をきちんと演じるためには、どうしたらええんや
ろうって考え始めるようになりますわ
な。

あのね、演じるっていっても主役が芝
居してる背景として後ろ横切ったり、
むしろに包まれて死体として転がっと
ったり、そんなんですけどね。それで
も自分なりに考えて演じるようになる
んです。

若い頃っていうのは、興味持てたら無
垢な気持ちになって、辛抱してでも頑
張ってみようと思えるところが値打ち
やと思います。

ところがね、若いからこそ挫折もある
んです。

あるとき、短いけどセリフを言わない
かんことになったんです。見たことも
ないような大きなキャメラ向けられて。
ところが、うまいこと言われへんかっ
て……。自分には役者は向いてないっ
て、熱でて寝込みました。

で、思ったんです。僕は大部屋俳優の
一番になろうって。

いま思えば挫折しそうになったのは、
何かの見返りを期待しとったからなん
でしょうね。

見返りいうのは、他人の評価でしょ。
自分がこれだけやったら、これだけ与
えられる。それを意識して何かをやる
ようになったら、自分を見失います。
誰かが見てるから頑張るとか、ええキ
ャストもらえたから頑張るとか、そう
いうんではあかんのです。

仕事はね、自分のためにやるもんなん
です。

レンズの端っこに映ってようが映って
まいが、むしろに包まった死体を自分
の最高の芝居で演じることです。

見てもらおうと思うんやなくて、結果
として如何に見られるか、ということ
が大事なんです。

僕は大部屋俳優やから、通行人でも死
体でも斬られ役でもええ。キャメラに
見られてることを意識して真っ白にな
ってしまうんやなくて、自分に集中し
て演じることのできる大部屋俳優とし
ての一番になろうって。

不思議と誰も見てないところで積み重
ねてる努力こそ、何よりも人の目に付
くもんなんですね。

大好きなセリフがありましてね。“ヤ
クザいうのは、利口でなれず馬鹿でも
なれず。中途半端でなおなれず”って
いうんです。ええでしょ。

人間、中途半端がいちばんイカンとい
うことなんですな。

Interview, Writing: 山口宗久


かもめ・2004年3月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。





被災地のみなさん、おはようございます。
所沢は、今日も肌寒いです。
雨は……いまは降ってないですね。
でも天気予報だと、まだ降るみたい。
いい天気が続いた後の雨、
ホントにヤですよねぇ。
でも、ま、今日も頑張りますか!
やることが多すぎて、柄にもなく早起きが続く
今日この頃でございますー。



山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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